医学界新聞

 

さらに求められる国際交流・国際貢献

米国DDW2005(Chicago)開催


巨大かつ躍動感溢れる学術集会

 さる5月14-19日の6日間にわたって,米国消化器病週間(DDW, 2005)が米国シカゴ市の美しいミシガン湖畔に位置するMcCormick Place他にて開催された。このDDWには米国内や諸外国から過去最高の参加者約1万6000人が集まり,約5000題にのぼる発表(200を下らない招待講演を含む)を中心に,消化器病診療の現状と展望が熱心に語られた。また,世界各国から訪れる臨床家・研究者がこの機会に旧交を温める姿や,セッション終了後廊下や広々とした喫茶コーナーなどで議論する姿も散見された。また,早朝5時から開始される朝食セミナー,ランチョン,深夜近くまで開かれるセミナー,さらには300社を超える企業展示などを含め,巨大かつ躍動感に溢れた,まさに厚みのある学会となった。

 米国のDDWはわが国のDDW Japanとヨーロッパ消化器病週間(UEGW)とともに,世界有数の消化器病関連学会であり,毎年1回米国内で開催される。米国肝臓病学会(AASLD:American Association for the Study of Liver Disease),米国消化器病学会(AGA:American Gastroenterological Association),米国消化器内視鏡学会(ASGE:American Society for Gastrointestinal Endoscopy)および米国消化器外科学会(SSAT:Society for Surgery of the Alimentary Tract)の4学会のスポンサーシップによる。

工夫を凝らすAGA
-参加者へのサービス精神

 AGA(米国消化器病学会)は1897年創立,1万4000人の会員を擁するDDW主催団体の中心的学術組織であり,本年も単独あるいは各学会とのjoint sessionで多彩かつ充実したプログラムを参加者に提供した。16日の午前(基礎部門)・午後(臨床・統合部門)に開催されたAGA plenary sessionでは会長のEmmert Keeffe教授(スタンフォード大肝臓・内科学)がAGE各賞受賞者の紹介を行った。その中でも最も名声の高い賞とされるFriedenwald Medalを本年は,腸内感染症などの研究でも知られ,多年にわたってAGAに功績のあったシンシナティ大のRA Giannella教授が手にした。

 また,AGAは例年このDDWでユニークな試みを行うことで知られている。例えばAGAが発行する学会の機関誌2誌(『Clinical Gastroenterology and Hepatology』および『Gastroenterology』)の2004年度の臨床・研究の進歩をそれぞれの編集者が概括して報告するセッションであり,今年も相変わらず好評であった。消化器病の幅広い最新知識をコンパクトなかたちで過不足なく摂取するための方法として最適であると,多忙な参加者も歓迎,以降恒例のものとなったようだ。このような“ブリーフィング”はその他AGA全体の中で必見の演題を選んで“Focused Clinical Updates”という形でコンパクトに報告するもの,あるいはまた,本紙のような報道紙誌やマスコミなどの記者に向けのpress conferenceでも同様な手法がとられ好評である。AGA会長自らも出席してfellowたちと語り合うランチョンや,AGA独自のストアにおけるCD-ROMなどの教材の頒布・販売,さらには当地シカゴをあしらったロゴ入りシャツなどの土産品や喫茶コーナーを使ったdiscussion roomなど,学会全体は巨大ではあるが,あらゆる参加者に対するサービス精神で満ち溢れているといっても過言ではない運営である。

人気の内視鏡関連会場
-わが国のドクターの活躍

 今回のDDW全体の中でも消化器内視鏡診療の比重は高く,14-15日の両日開催されたAGA主催のPostgraduate Courseランチョンブレイクアウトセッションでも内視鏡関係の話題が大きく取り上げられた。すなわちAGA関係者が“three well-attended sessions”(参加者の多い3つのセッション)と語るように,治療内視鏡(EMR),逆流性食道炎の内視鏡治療,Jerome Waye氏(消化器内視鏡の泰斗,Mount Sinai医療センター内視鏡教授)の内視鏡挿入法は評判で,高い関心を集めていた。また,わが国同様,米国においても消化器内視鏡のビデオセッションは大変な人気である。動きのある内視鏡診療は視覚にも訴えられ,口演と比較してその教育的効果が高い。とくに手技や新しく開発されたデバイスは聴衆にとってまさに「百聞は一見に如かず」である。

 このような視覚の教育効果に最も早くから着目していたASGE(米国消化器内視鏡学会)がVideo Forumを重視しているのは当然のことである。ASGE主催のVideo Forumは今年で9回目。関係者によると“always popular”であり,実際16日に開催されたフォーラムには広い会場が割り当てられ,満席の聴衆で埋まっていた。半分以上が米国以外の外国(日本,韓国,ブラジル,フランス,ほか)からの応募ビデオ70題のうち23題がASGE卒後教育委員会によって厳選され,午前8時から12時過ぎまで次々に発表された。聴衆は途中短い休憩を挟みながら食道疾患から膵胆道系疾患の内視鏡診療の新しい技術を目のあたりにする。

 わが国からも,(1)矢作直久氏(虎の門病院)らの「Endoscopic submucosal dissection for the EG junctional tumor」,(2)山本博徳氏(自治医大)らの「Mission impossible with double-baloon endoscopy. ERCP in patients with Roux-en-Y」,(3)堀内朗氏(昭和伊南総合病院)の「A technique for endoscopic transanal decompression with a drainage tube for acute colorectal obstruction」の3題が採択された。3氏も含めて各演者は決して十分な時間とはいえない発表の中で,コンパクトに診断・治療技術を解説していく。繰り返しpeer-reviewを行った司会者および会場から鋭い質問が寄せられ,それらにも応えていく。このフォーラムならでの充実感・緊張感が会場を包んだ。

濱中久尚氏ASGE Audiovisual Awardを受賞

 Video Forumの開催とともに,このASGE卒後教育委員会のもうひとつの大きな任務は,the ASGE Audiovisual Awardの受賞者を決定することで,授賞式はフォーラム開催中に行われる。そして受賞者のビデオはASGEの教育用ビデオとして全米の内視鏡医に推奨・指定される。本年のこのAwardを濱中久尚氏・後藤田卓志氏ら(国立がんセンター中央病院内視鏡部)の「Diagnosis and treatment of early gastric cancer」が見事に射止めた(濱中氏インタビューを別掲)。また,次点には「El Salvador Atlas of Gastrointestinal Videoendoscopy(Julio Murra-Sacca氏)とともに,Roy Soetikno氏(米国スタンフォード大)・藤井隆広氏(東京銀座・TFクリニック,元国立がんセンター中央病院内視鏡部)らの「Diagnosis of flat and depressed colorectal neoplasm」が受賞した。ここで特筆しておかなければならないのはスタンフォード大消化器助教授のRoy Soetikno氏である。氏は内視鏡診断で世界的に広い視野を持ち,わが国でも国立がんセンターなどで研修を行うなどの経験がある。氏が所属するスタンフォード大消化器センターは世界的にみても活発な施設であり,日本人臨床家・研究者を積極的に受け入れている(氏は濱中氏が得たAwardにも共同演者として名前を連ねている)。日本の内視鏡診断学が国際的にさらに受容され広がっていくためには氏のようにハイレベルな診断医・治療医の存在と日米協力が欠かせないものとなろう。

さらに求められる国際交流

 Press conferenceで司会も務めたJohn Johanson氏(抄録審査委員,イリノイ大臨床助教授)は,会見後のインタビューで,「最近は韓国,中国からの参加が多くなってきたが,やはりアジアでは日本からの参加者が多い。会を主催するものにとって参加者人数はその会議が成功したか否かの最大のメルクマールといってよい。その意味で消化器病の学問的・臨床的水準の高い日本からの参加者が多く出席することは喜ばしいことである」「診断技術の世界規模の進展の中で臨床・研究とも“学問に国境なし”の時代になってきている。日本人のドクターたちが遠路参加していることにならってわれわれ米国人もUEGWや日本のDDWなどに積極的に出ていかなければならないと感じている」と,今後の国際交流の必要性を主催者の側から述べている。とくにわが国の消化器病関連学会は,米国にもヨーロッパにも大きな影響を与えてきた経過を踏まえて,今後ともこれら欧米の学会と協働していくことが求められる。