医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 書評・新刊案内


認知症ケアの考え方と技術

六角 僚子 著

《評 者》本間 昭(都老人研参事研究員/日本認知症ケア学会理事長)

認知症ケアに携わるすべての医療従事者へ

 本書の中でも示されているが,「2015年の高齢者介護」では今後,認知症ケアが高齢者ケアの中で大きな割合を占めると言われている。しかし,第一線のケアスタッフの間で認知症について必ずしも十分に理解されているとは言い難い。彼らが接する要介護認定者の半数以上に認知症が疑われるにもかかわらずである。どのような考え方に基づいてケアが行われるにせよ,まず疾患について正しく理解されることが理にかなったケアの基礎となることは言うまでもない。この意味で本書は今までに類をみない。

 本書の内容を簡単に紹介すると,まず疾患としての認知症について基本的な事柄が述べられ,認知症ケアで欠かすことができない認知症の人にとっての家族の意味と役割,そして認知症ケアに関わる関係者に求められる姿勢が,具体例を踏まえてわかりやすく述べられている。そして,これらに基づいた認知症ケアの基本的な対応と彼らの日常生活を支える援助技術がやさしいイラストで描かれている。さらに,アセスメントとケアプランの実際と認知症の人の生と死,地域の力の活用法が著者の視点で示されている。特徴的なのは,まず疾患としての認知症の理解を踏まえてその人の立場に立ち,個性を大切にした理にかなったケアを行うためのノウハウが,著者の豊富な臨床経験に基づいて述べられている点である。認知症ケアに携わるすべてのスタッフに一読を勧めたい。欲を言えば,認知症ケアの基本的な対応と援助技術を裏付けるエビデンスが求められるが,これはむろん著者の責ではなく老年看護学および関連領域に今後求められる最大の課題の1つであろう。

 最後に,本書には明日からの実践に役立つ考え方と技術が豊富に示されているが,著者が本書をまとめるに際して払った努力と認知症ケアに対する見識に対して敬意を表したい。

B5・頁176 定価2,520円(税5%込)医学書院


もっと! らくらく動作介助マニュアル
-寝返りからトランスファーまで

中村 惠子 監修
山本 康稔,佐々木 良 著

《評 者》森田 定雄(東医歯大病院リハビリテーション部・助教授)

DVDでさらに理解しやすく

 本書は,先に発行された『腰痛を防ぐらくらく動作介助マニュアル』の完全リニューアル版である。

 前書を読んで,移動介助がちょっとした工夫で,いかに楽に行いうるかを実感された方も多いと思うが,今回のリニューアル版では前作で説明されていた手技の中から,実際に用いられる頻度の高いものに的が絞られ,詳述されている。中でも本書の最大の特徴は,付録がDVDになったことである。前書の付録であるCD-ROMに比べて,本書のDVDは画像が遥かに鮮明となっただけでなく,音声による解説が加わったことが最大の改善点で,このDVDを見るだけで,本書で言わんとしている移動介助のポイントが理解できるようになっている。このような手技書では図を多用して理解を図るのが一般的だが,やはり動画の威力は絶大で,DVDを見るだけで本書のエッセンスは理解できる。

 患者を中心として回転する動きで行うベッドから車椅子への移乗介助,頭部を骨盤の方向へ動かすことによる寝返り介助などは理解しやすく,多くの職種の人が容易に実際の現場で利用できるであろう。著者らの推奨する移動介助方法では,介助者の負担が軽減して腰痛の防止につながることと,被介助者の安全性が図られると述べられているが,中でも重要な指摘は被介助者の快適性である。勢いをつけて一気に行われる従来の移動介助方法は,被介助者にとってかなりの苦痛を伴うが,本書の方法ではこの点が大きく改善されている。本書ではさらにこの移動介助動作が,従来の移動方法とどこが異なるかについて,3次元動作解析のデータを用いてわかりやすく解説されている。本書で勧めている介助動作のバイオメカニクスについて視覚的に理解ができて,その有効性を納得できるであろう。

 先にも述べたが,本書では実際に行う頻度が高く,比較的簡単に安全に行いうる介助動作が多く述べられており,非常に理解しやすい内容となっているので,移動や寝返りに介助を要する入院患者,施設入所者,在宅の人たちの治療,看護,介護に関与するあらゆる職種の人たちにぜひとも一読をお勧めしたい。

B5・頁204 定価3,780円(税5%込)医学書院


ケースで学ぶ
子どものための精神看護

市川 宏伸 編
鈴木 俊介,高峯 アヤ子,櫻田 信敏,森 哲美 編集協力

《評 者》白石 洋子(都立松沢病院看護部長)

小児精神看護の道標

 現代社会が抱える複雑な環境や社会が,大きなひずみとなって現われる児童期・思春期にある子どもたちの「心の病」は,今,大きな社会問題となっています。

 子どもの場合は,必ずといってよいほど親子の問題や家庭内の問題に突き当たります。そこで,子どもの感情・思考・行動特性を正しく理解し,保護者との関係を良好に保つことが看護していくうえで大切となってきます。

 小児・児童精神看護は,成長発達途上にある子どもたちが,それぞれの発達課題を達成できるよう親や教師と協力し合いながら,子どもたちが自立できるよう関わっていかなければならない大変な仕事です。

 本書は「子どものための精神看護」を詳しく解説してくれています。著者は,児童・思春期の小児精神医療を専門とする都立梅ヶ丘病院に勤務する医師・看護師等です。子どもの精神医療の場合,専門病棟を持つ病院はあまり多くなく,専門スタッフも少ない状況にあります。そこで多くの経験から得られた知識・看護技術を系統的にまとめた本であるといえます。

 本書は,6章から構成されており,1章から3章までは,子どもの精神科を取り巻く現状や子どもの精神疾患とその対応等について,4章では,求められる看護師の役割,5章では,子どもにみられる精神症状への対応がケースを通じてまとめられ,6章は子どもの精神科におけるさまざまな問題についての構成になっています。

 各章は,それぞれ独立しているようですが,順に読み進めていくうちに,子どもの精神症状への関わりへの理解が深まっていくように構成されています。特に,5章は,子どものさまざまな精神症状に対して,臨床現場で応用できる看護の視点と具体的なプランや看護のポイントが詳細に表記されています。

 つまり,よくみられる精神症状のいろいろな場面を設定して,その時看護者がどのように介入していけばよいかが,わかりやすく表現されているのです。

 統合失調症,気分障害,神経性障害,発達障害など,子どもの「心の病」は,同一疾病でも,その現われる症状には統一性がなく,まったく違う症状を示すことが多いと言われています。そこに,小児精神医療の難しさがあり,1人ひとりの症状やその背景が違うなかで,これまで試行錯誤的に,看護者の工夫でもって子どもたちに関わってきた方々には,この本は真の道標となるでしょう。

 小児・児童精神医学の分野は,今後ますますその重要性は増してきます。児童・思春期の精神科の看護において,発達途上にある子どもたちが,健全に発育していくことをサポートし,子どもたちとの心の交流を深めることの重要性をこの本から学ぶことができると思います。

A5・頁320 定価3,360円(税5%込)医学書院