医学界新聞

 

看護実践分類のさらなる普及へ

第11回日本看護診断学会開催


 さる7月2-3日に,第11回日本看護診断学会が,黒田裕子会長(北里大教授)のもと,横浜市のパシフィコ横浜において開催された。今大会のテーマは「定着させようNANDA看護診断-NANDA-NIC-NOCの実用可能性を探る」。電子カルテの導入が進む中で,標準化された看護実践分類であるNANDA,NIC,NOC(以下,NNN)をいかに導入し,普及させていくか。NNNの開発をリードする第一人者による招聘講演や,実際に電子カルテにNNNを導入した施設の報告など,充実したプログラムの学術大会となった。


看護実践を言葉にする意味

 会長講演で黒田氏は,「医師をはじめ他の医療者に,看護師が行っている看護実践を正確に伝えるため,また電子カルテに看護実践を記録するためには,看護実践がきちんと整理分類され,標準化された言葉で表現されている必要がある」と述べ,標準化された看護実践用語が必要とされる理由について説明した。

 NNNの過程では,まずNANDA看護診断(以下,NANDA)によって患者の健康問題を把握,目標とする看護成果(NOC:看護成果分類)を設定し,そのための看護介入(NIC:看護介入分類)を選択する。黒田氏は「NNNは看護師が患者に対して行う看護実践の根拠として,エビデンスに基づいた看護計画の立案に大いに役立つ」とその重要性を強調。その一方で,NICには抽象的な表現で記述されているものや,制度上日本では実施できない行為も含まれているため,各施設で工夫する必要があることを指摘した。

看護過程の3要素を統一

 NANDA Internationalは,2000年にアイオワ大学看護分類センターと共同でNNNアライアンスを結成。NANDA,NIC,NOCをリンクさせた「NNN看護実践分類体系」の開発を進めている。

 Martha Craft-Rosenberg氏(NANDA International理事長)は「NANDA,NIC,NOCを1つの構造に統一することにより,それぞれが必ずしも最適な形で配置されるとは限らないが(NANDAの一部にはNNN看護実践分類体系に当てはまらないものもあった),看護過程の3つの必須構成要素を1つの目に見える形で提供することの重要性はそれを補って余りある」とその意義を説明。

 さらに,NNNを日本で使用することについて,「用語を日本語に翻訳することはできるが,NNNの概念が日本の文化にそのまま適合するのかは,実際にやってみなければわからない。日本的に改良することも必要なのではないか」と提案した。

根拠に基づいた看護を提供

 Sue Moorhead氏(NIC-NOCセンター長:the Center for Nursing Classification and Clinical Effectiveness)はNICおよびNOCについて講演。「看護は根拠に基づいて行われるべき」と述べ,各施設でばらばらだった看護実践がNICによって成果(NOC)と結びついた根拠あるものになると述べた。

 また,NOCは看護介入の成果を「最も望ましくない状態」から「最も望ましい状態」まで5段階のスケールで測定することができ,経時的なケアの評価や,どの介入方法が効果的かを判断するためのデータを提供することができると強調した。

 氏は今後もNICとNOCの洗練を推し進めていくことを約束し,「電子カルテにNNNが活かされるようになれば,次の段階としてそこから得られたデータを活用し,成果の評価と有効性の研究が可能になる」と今後の発展への期待を語った。

■臨床・教育におけるNNNの可能性を探る

 シンポジウム「NNNの実用可能性」(座長=西南女学院大・小田正枝氏,宮城大・菊地登喜子氏)では,電子カルテの普及が進む中で臨床や教育の現場でNNNがどのように活用されているかが報告された。

 東京臨海病院では,看護師の臨床判断,看護介入とその成果の明確化を目的として電子カルテにNNNを導入。高原靜子氏(東京臨海病院)がその概要について説明した。

 電子カルテ上ではまずNANDA看護診断の枠組みを用いた患者プロファイルを作成し,それを元に看護計画を立案。そして目標となるNOCを設定,それに対応したNICを選択する。

 しかし,導入後の看護師による自己評価では,NANDA看護診断の定義等は理解しているものの,アセスメントについては自信がないという結果が得られたことから「事例を用いた教育を継続的に行うことや,NNNについてアドバイスできる専任の指導者が必要」と述べた。

 潮田孝子氏(東邦大医療センター大森病院)は,電子カルテへのNNN導入に必要な条件として,「思考過程に沿って入力でき,簡単に操作できる」ことをあげた。氏の施設では専任スタッフが直接メーカーと交渉,学習会への参加などで看護診断を理解してもらい,上記の条件を満たした電子カルテを実現した。氏は「看護診断の導入前に,研修や学習会による十分な教育が必要。導入後も継続してサポートしていかなければならない」とし,質問に対するホームページでの回答や,中途採用者の研修時に再受講の参加を受け付けるなど,具体的なサポート体制を紹介した。

看護教育にNNNを導入する

 続いて登壇した穴井めぐみ氏(西南女学院大)は看護教育の立場からNNNの実用可能性を口演。氏の大学では2年時にNANDA看護診断およびロイ看護理論,3年前期にカルペニート看護診断などについて演習を行い,それらに基づいた実習を3年後期に行っている。

 氏はこうした経験から,NANDA看護診断を正確に理解していることを前提としたうえで,看護介入においてNICが学生の教科書として利用でき,学生が看護計画を立案する際にNNNは有用であることを報告した。

 柏木公一氏(国立看護大学校)はICNP(看護実践国際分類)について説明。ICNPは国際看護師協会(ICN)が維持管理を行っている用語集で,共通の用語体系を用いて世界各国のさまざまな看護用語集を比較することを目的としている。

 氏は「例えば独自の看護用語集を持っているNANDA Internationalと韓国のソウル大学が互いの用語集をICNPで表現することにより比較することができる」と,具体例をあげてその有効性を強調した。

 口演後のディスカッションでは,臨床現場から看護基礎教育に求めることとして,高原氏,潮田氏は「看護診断を臨床とリンクした形で,具体例で学べるように学校と臨床現場との話し合いが必要なのではないか」と提言した。