医学界新聞

 

連載全4回

USMLE最近の動向
Step2CSを中心に

第2回 Step2CSの特徴と採点基準

松尾高司(メリーランド大学産婦人科レジデント)


2638号よりつづく

新規導入されたStep2CS
-何が変わったか?

 1998年より施行のCSA(Clinical Skills Assessment)は,2004年6月をもってStep2CSと名実ともに様変わりすることになりました(CSとはClinical Skillの略です)。CSAが外国人医師だけを対象としたものであったのに対し,Step2CSでは米国人医学生もその対象にした試験になります。以前のCSAの特徴としては以下の項目があげられます。

1)外国人医師のみが受験対象。
2)受験資格としてStep1およびTOEFLの合格が必要。
3)合格後の有効期限は2年間のみ。
4)試験会場は全米で2か所のみ。
5)採点基準において「英語力評価」は独立項目ではない。

 5)項に関してですが,たとえ模擬患者との会話で大きなミスを犯したとしても,他の項目である「コミュニケーションの評価」や「データ収集の評価」で点数を補うことができました。ECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)によりますと合格率は2002年で82%,2003年で84%とあり,約9000から1万1000人の合格者を毎年出していたようです。2003年度の外国人医師のStep1およびStep2CKの初回合格率がそれぞれ65%および75%であることを考えるとかなり高い合格率です。日本の受験者の方々も口を揃えて「受ければ合格する」とコメントされていたようです。

 それではStep2CSはCSAと比べてどのように変わったのでしょうか?以下にその特徴をあげます。

1)外国人医師および米国医学生が受験対象。
2)受験資格としてStep1の合格のみ必要。
3)一旦合格すれば永久に保証される。
4)試験会場は全米で5か所に増加。
5)採点基準において「英語力評価」は独立項目となった。

 2)項に関してですが,米国医師免許証を取得するにあたり,TOEFLの合格は今後必要とされなくなりました。4)項に関してですが,CSAがフィラデルフィアとアトランタの2か所の試験会場であったのに対し,さらにヒューストン,シカゴ,そしてロサンゼルスの3か所が追加になりました。私は「カリフォルニア州は日本人を含めアジア人がかなり多い。したがって,外国人のその多様な英語のアクセントをよく知っているはず。また,土地柄もリベラルな州」という発想から試験会場をロサンゼルスにしましたが,模擬患者たちは季節ごとにランダムに各試験会場を転々としているとも聞きます。試験会場による模擬患者の社会的偏りはないと考えてよいと思います。

 また,懸念される5)項に関してですが,Step2CSはその採点にあたり,(1)Integrated Clinical Encounter:データ収集能力(問診,理学所見,およびカルテ記入),(2)Communication and Interpersonal Skills:コミュニケーション能力,(3)Spoken English Proficiency:英語能力,の3項目がそれぞれ独立して採点されることになり,合格するためにはこの3項すべてが基準点以上を満たすことが必要になります。1つでも基準を満たさない項目がある場合,たとえ他の2項目が基準を大きく上回ったとしても,結果は不合格となってしまいます。CSAで可能であった「他の項目による挽回」がStep2CSでは不可能になったというわけです。

 このような特徴を踏まえ「Step2CSはCSAよりも合格するのが難しくなるのではないか」との前評判が多かったようです。かくして2004年6月から新規施行され,合格基準点を定めるための母集団の確保ということで,各試験会場とも同年12月から2005年1月まで結果発表を待つことになりました。結果が発表され始めた現在,私の印象としては予想通り米国医学生のほうが外国人医師より合格率は高いように感じますが,まだはっきりとした統計データが発表されていませんので,勇み足的評価はできません。しかし断っておきたいのは,米国人医学生や英語にまったく不安のない外国人医師であっても意外に不合格であったり,逆に英語にアクセント(訛り)や不安のある外国人でも,きちんと合格するということです。その違いはなんでしょうか? いったいどのようなツボがこの試験にあるのでしょうか?

受験者はどのように 採点されているのか?

 試験があくまで試験であるように,このStep2CSも限りなくゲーム的要素を盛り込んだ試験のようです。英語に熟練していても不合格になってしまうのは,ツボの踏み忘れやピットフォールに落ちてしまうことが原因ですし,逆に英語力に不安があったとしても,的確に要点をついていけば合格をものにすることができると思います。受験者の採点はあくまでも客観的です。「はい」「いいえ」で行われ,模擬患者の主観の入った評価ではありません。ですから,どのように採点が行われるかに精通することは,合格への早道であるといえます。以下に上記3項目についての採点方法並びに要点をまとめます。

(1)Integrated Clinical Encounter
 ここでは模擬患者への問診内容や理学所見を患者側が評価・採点したものおよびPatient Noteとよばれるカルテを医師側が採点したものが加味されています。模擬患者に対しどの質問を行い,どの検査を行ったかを模擬患者自身およびマジックスクリーンの外側に入る採点者がチェックリストに○か×の要領で客観的に採点していくようです。カルテ記載内容の点数割合は全体の10%にしかなりません。つまり,医師側による医学知識に関する評価はこのStep2CSという試験においてはたったの1割にしかならないということです。残りの90%の評価はすべて非医療者である模擬患者側によってなされるのです。このことはこの試験がいかに単なる医学的知識を問う試験ではなく,患者とのコミュニケーションや医師としてのマナーを重要視する試験であるかということをよく物語っています。

(2)Communication and Interpersonal Skills
 いわゆる患者とのコミュニケーションや医師としての患者への態度が評価されます。具体的には下記のようなチェック項目を○×で採点していくというごく客観的なもので,「模擬患者自身の印象」といった主観的な評価ではありません。評価項目としては以下のものがあげられます。

(1)入室時にドアをノックしたか
(2)きちんとした清潔な服装ならびに容姿をしているか
(3)対面にあたりきちんと自己紹介をしたか
(4)適度なアイコンタクトを保っているか
(5)患者に対し注意を払っているか,集中しているか
(6)患者への敬意を払っているか,偏見を持っていないか
(7)適切に患者へ被布をしたか
(8)スムーズな説明で次の行動に移ったか
(9)患者への共感はあったか。安心感も持たせることができたか
(10)患者の言動を遮ったか
(11)Open-endの質問で開始したか
(12)患者に対し一度に2つ以上の質問をしたか
(13)明確な英語で説明したか
(14)理学検査に先立ちきちんと手洗いをしたか
(15)誠実に患者の意見に聞き入ったか
(16)効果的に言い換えをすることで患者へわかりやすい説明をしたか
(17)理学所見を取る際,きちんと目的を説明したか,先立って説明したか
(18)的確なサマリーを行ったか(検査計画の説明をしたか)
(19)患者を不安がらせるような説明をしたか
(20)患者の質問に対し的確に答えたか

 この場合20項目中の点数で評価がなされ,16項目満たした場合で80点といった具合です。上記はあくまで例えですので実際のものではありませんが,これと類似の評価がなされています。このように,「入室時ノックをする」「被布をする」「手を洗う」等といったゲームのルールに熟達していなければ,どれほど英語に熟達していても,このゲームの勝者となることはできないのです。上記のツボは確実に押さえましょう。

(3)Spoken English Proficiency
 評価される項目を以下にあげます。

(1)明快な英語を話しているか
(2)一般人にもわかりやすい英語を話しているか

 前者では文法や発音の正しさを評価しますが,それがすべてではありません。はっきりと患者に説明する能力が問われます。拙い文法や語彙力であっても,きちんと患者と意思疎通ができる程度のごくスタンダードな英語力で十分とされています。「すべての会話を3語ないし4語で行いなさい。ゆっくりと大きな声で話しなさい。それで十分です」という講師もいるようです。受験者の英語のアクセントはよほどのことがない限り問題となることはありません。試験中に「患者に対しどれほど自分の英語が通じているか」を客観的に知る方法として,患者が「excuse me?」と聞き直した回数で評価するのが的確のようです。また「わかりやすい英語で話したか」ということも重要です。ここで「わかりやすい」とは医学的専門用語を使うのではなく,一般人でもわかる平易な英語で説明しなさい,ということです(Lay language)。

 今回はStep2CSの特徴と採点基準といったルールに関する説明をしました。ゲームのルールに精通することは勝利への最短コースです。しっかり頭に入れることをお勧めします。

つづく


※本連載中の症例はUSMLEの公式サイト,問題集,予備校等を通して収集した情報にもとづくものであり,筆者が実際の試験で経験した症例とは一切無関係です。

松尾高司
1999年宮崎医大卒,同年阪大産婦人科入局。
2004年セントルイス大産婦人科研究員を経て,05年より現職。