医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《標準作業療法学 専門分野》
身体機能作業療法学

矢谷 令子 シリーズ監修
岩崎 テル子 編集

《評 者》望月 秀郎(長野医療技術専門学校教務部長)

基礎・応用・臨床を一貫して学べる教科書

 近年,身体障害に関する作業療法の書もだいぶ増えてきたが,学生にとって使いやすく優秀な書は少ない。というのは,卒業後,国家試験に合格してからの技術書的な専門書が多く,初歩から基本,応用,臨床にまで流れよく書かれているものが少ないように感じていた。

 今回出版された本書は,『標準作業療法学 専門分野』シリーズの1冊で,学生にとっては至れり尽くせりの編集形式となっており,前述した基本,応用,臨床を一貫して学べるようになっている。

 まず,教師の側からみてみると,一般教育目標(GIO),行動目標(SBO)の一覧表によって教授目標が各章ごとに明確に出されていることに目がいく。もし,教師側で内容的な追加をしようとしたら,この目標に必要項目を追加すれば,自分の考える教育内容としての充実がより図りやすいといえるだろう。また,学生側から考えてみても,予習復習がしやすいよう,随所にキーワードマークがつき,各章末にキーワード集として解説してある。そして,GIO,SBOと並んで,自己の修得度を確認できるように習得のチェックリストが設けられていることも,学習意欲をそそる工夫といってよいであろう。

 本書の内容の特色は,従来,「身体障害作業療法学」と呼んでいたものを,生活機能分類(ICF)の立場から「身体機能作業療法学」と言い換えた点にある。作業療法士にとっては,残存機能や能力の評価利用は当然のことであり,ポジティブ,ネガティブの両面を考えることが一人の人間を正しくとらえる要点であることに社会がようやく気づいていただけたとの思いであるが,書のタイトルが与える影響にまで言及したことは素晴らしいことである。

 本書の構成も,約4割で基礎的な内容と身体機能作業療法の流れを説明し,残り6割を実践事例として,具体的な疾患別に,大まかな書式統一を図りながら,臨床経験豊かな作業療法士によって書かれている。いずれもその道での実体験と豊富な文献を駆使しての疾患別の解説・技術内容であり,その疾患の種類も,脳血管障害,頸髄損傷,神経変性疾患,末梢神経損傷,神経・筋疾患,熱傷,関節リウマチ,骨・関節疾患,切断,呼吸器疾患,ターミナルケアに及んでいる。さらに,神経変性疾患,神経・筋疾患や骨・関節疾患などは具体的な多数の疾患名を項立てして1つひとつに対して解説してあり,教師側が未経験な分野については大変役に立つ。

 全体を通じての編集にも配慮が行き届いており,各頁に図表や写真を適宜配置してあり,文字だけのページは数えるほどしかない。これも今どきの学生の心理に配慮している結果であろう。時折淡いグリーンの文字や図表を用いて固い内容に柔らかさを与えているなど随所に執筆者,編集者の心遣いが感じられる良書である。本書はこれから作業療法士をめざそうという学生諸君には,身体機能に関する作業療法の書として,最も基本となる1冊としてぜひ推薦したい書である。

B5・頁400 定価4,935円(税5%込)医学書院


WM臨床研修サバイバルガイド 神経内科

小林祥泰 監訳

《評 者》吉井 文均(東海大教授・神経内科)

病棟医・薬剤師が執筆したチーム医療にも役立つ書

 『The Washington Manual』のNeurology Survival Guideが島根医科大学の小林祥泰教授以下教室員の方々により翻訳されて出版された。この本は従来から馴染みの深いワシントン・マニュアルの新シリーズとして企画されたもので,その神経内科版である。

 この本でまず特筆すべきことは,実際の執筆に当たったのがワシントン大学のレジデント(病棟医)と薬剤師ということである。最近わが国でもそうであるが,診療のスタイルが以前とは大分変わり,病棟ではチーム診療が普通に行われるようになった。アテンディングといわれる指導医を筆頭に,病棟医,研修医,医学生がチームを形成して患者の診療に当たる。

 この本は病棟医・薬剤師の立場から日常診療のポイントが書かれているので,チーム診療でも役立つ極めて実践的な内容になっている。モーニング回診で患者さんの診察に困ったとき,チーム回診で上級医から質問が投げかけられたとき,検査成績の解釈に迷ったとき,薬の処方を考えるときなど,白衣のポケットからちょっと取り出して,知識の確認や整理をするために極めて便利な本である。

 内容的にも神経学的病歴と身体所見,神経解剖の基礎知識,画像所見の読み方,神経学的診察方法を始めとして,日常の診療でよく遭遇する主な神経症候や神経疾患などが網羅されている。それぞれの症候や疾患の項目では,最近のトピックス的な事項や新しい治療法についても随所に触れられている。

 脳卒中の項目では代表的な大規模臨床試験についても記載されており,この点は同様のマニュアル本にはみられない特徴といえよう。

 さらに本書では,付録の項目も充実している。生検の報告をみるときに役立つ神経病理学的用語の解説ばかりでなく,ウェブ上の情報源がすぐに検索できるようにアドレスが紹介されている。また,実際の診療でよく使用する薬剤の解説や処方の仕方,神経内科でよく使用する計算式や重症度評価スケール,診断基準などが簡潔にまとめられている点も便利である。

 本書は神経内科の研修医や医学生ばかりでなく,他科の先生方や一般診療に当たられている開業医の先生方が,情報過多の時代に急速に増加する医学知識を容易にかつ素早く入手して,効率的に仕事を行うために十分活用できる本である。