医学界新聞

 

印象記

第35回国際生理科学学会に参加して

日比野 浩(大阪大学大学院・情報薬理学)


 金原一郎記念医学医療振興財団,第19回研究交流助成金の助成のもと,2005年3月30日-4月6日にサンディエゴで開催された,第35回国際生理科学学会(International Congress of Physiological Science:IUPS主催)に参加させていただきました。本学会は4年ごとに開催され,生理学分野において最大規模の国際学会です。

 今回の学会は,Experimental Biology meetingなど複数の学会と共同開催され,参加者は実に1万3000人にのぼりました。西海岸ということで,日本をはじめとしたアジア圏の研究者もかなり多かったように記憶しています。

学会で得たもの

 学会は,分野・項目ごとによく分類され,興味のあるシンポジウムやセミナーへ容易に参加することができました。私はイオンチャネルを研究しておりますが,さまざまな学会が開催されており,飛び入りで参加した会場で,予想外に興味深い内容の発表や講演がなされ,とても新鮮なものでした。

 何人かのノーベル賞受賞者の先生方の講演もありました。Peter Agre先生,Bert Sakmann先生,Erwin Neher先生,Eric Kandel先生,Joseph Goldstein先生,Micheal Brown先生と,そうそうたる顔ぶれで,迫力あるお話に圧倒されると同時に,深く感銘を受けました。

 当学会参加の主な目的は,演題発表を通じ多くの研究者と議論し,自身の研究の妥当性を検討すること。そして多彩な面からより深く研究分野を理解し,今後の研究に役立てるというものでした。今回,私はポスター発表を行いました。想像以上に多くの研究者と議論することができました。その中で今までにない切り口の意見,今後の研究の方向性にいくつかの重要かつ貴重なアドバイスも拝受し,大変有意義な時間でした。

 本学会は,比較的余裕のあるプログラムが組まれており,ランチタイムや夕方には,旧友や新しく知り合った研究者と,食事や会話をして,楽しい時を過ごせました。話題は研究のみならず,文化や政治の話などでも盛り上がりました。連絡先の交換などを行い,可能であれば近い将来にお互いの研究室を訪れ,セミナーなどを通じて交流しあうことも約束しました。これは,当初からの大きな目的でしたので,その意味で大きな収穫となりました。

米国再発見

 閉会式では,立食パーティーの後,会場を移動して,次回開催国,日本へのIUPSフラッグの授与式,また,オーケストラによる演奏などを楽しみました。

 一方で,ショッキングな出来事もありました。最も安全と考えられた繁華街で銃撃があり,一人が亡くなったのです。詳細は不明ですが,銃撃の数時間前まで現場の近くで友人と夕食をとっており,少し時間帯がずれれば命を落としていたかもしれないと考えると,身が凍る思いでした。サンディエゴは比較的安全な町と位置づけられていますが,アメリカでは危険は常に身近にあると実感した出来事でした。

 サンディエゴは,私が以前にアメリカの都市として渡航したはじめての都市でした。もう,10年近く前になりますが,その当時は,外国旅行すらもあまり経験がなく,びくびくしていたのを覚えています。数年前にも,学会でサンディエゴを訪問しており,毎回,美しい海岸線やヨットハーバーの数々に心打たれるのですが,今回もその風景の華麗かつ上品な雰囲気は,まったく失われていませんでした。初回訪問時は,アメリカの食事に少々恐怖感も覚え,中華料理とハンバーガーばかり食べていたような記憶がありますが,今回は,友人もいたことから,中華料理の再挑戦をはじめ,インドやタイ料理などできるだけいろいろな味を堪能いたしました。いずれも少々アメリカナイズされていましたが,かなり美味しく,アメリカのよさを再発見しました。

最後に

 次回は京都で開催ということで,どんな学会になるか今から楽しみです。京都の独特な歴史的ムードに異国情緒が加わり,学問的議論も大いに盛り上がるのではないでしょうか。このように学会がきっかけで,人と人との交流が生まれ,そしてそれが新しい学問や研究の基盤となり形作られていく,と考えると,サイエンスは素晴らしいなと感銘を受けるのは,私だけでしょうか。自分の研究も含めた益々の科学と医学の発展を祈るとともに,惜しみない渡航援助をしていただいた金原一郎記念医学医療振興財団に再び深く感謝の意を表し,学会印象記の筆をおかせていただきたいと思います。