医学界新聞

 

精神科研修と専門医制度導入

第101回日本精神神経学会の話題から


 第101回日本精神神経学会が5月18-20日の3日間,山内俊雄会長(埼玉医大教授)のもと,大宮ソニックシティにおいて開催された。

 精神科専門医制度を導入する節目の年に当たる今回は,「精神医学・医療の専門性の確立を目指して」をテーマに,シンポジウム20題,教育講演14題など多彩なプログラムが組まれた。本紙では,「精神科新臨床研修制度と精神科専門医制度についてのシンポジウム」の模様を報告する。


 「精神科新臨床研修制度と精神科専門医制度についてのシンポジウム――精神科卒業後教育はどうあるべきか」(司会=慶大・鹿島晴雄氏,桜ヶ丘記念病院・藤澤大介氏)では,新臨床研修制度下で必修化された精神科研修のあり方をめぐる議論が中心となった。

 朝田隆氏(筑波大)は,卒後研修委員会(委員長=日大・小島卓也氏)が専門医制度に関して作成した(1)研修プログラム,(2)研修ガイドライン,(3)研修教材の概略を説明。(2)においては,精神科専門医として必要な研修の方法・レベルを記述し,各論は疾患群ごとの特徴を考慮した記載であることを示した。保坂隆氏(東海大)は,精神科七者懇卒後研修問題委員会の立場から,新臨床研修制度での精神科研修必修化の経緯を説明した。大方の予想を覆して精神科の必修が決まった後は,研修内容の充実や指導医養成に着手したことを紹介し,「制度見直しの際は精神科を必修化してよかったと思わせなければならない」と強調した。

 佐藤玲子氏(横浜市立大)は,過去に精神科研修を経験した他科医師へのアンケート結果からは「精神科医にコンサルトする時期の見極めができるようになった」など概ね好評ながら,指導内容のばらつきなど課題も明らかになったと話した。また,クルズスでは「精神科以外で精神疾患をみる際どうするか」という視点で議論していると述べた。単科精神科病院の立場からは佐藤創一郎氏(慈圭病院)が,受け入れの際は研修期間2か月確保を条件にし,指導医-研修医の1対1ペアを原則に指導していると報告し,「期間が短いと精神科に対する誤解を生むなどマイナス面が多いのでは」と現状に苦言を呈した。

 秦伸之氏(長崎大病院)は「1か月の研修で必ず経験すべき疾患が3つは多いのでは」など精神科医の声を紹介する一方で,他科との兼ね合いもあり期間の延長は難しいことから,研修疾患・内容の改善について提言した。渡邊公彦氏(旭川赤十字病院)は,身体科では不十分な精神面の評価,不眠・せん妄への対応を精神科研修で学ぶことの利点をあげる一方,研修期間が短く疾患を理解するには不十分であったと経験を語った。

 ディスカッションでは,会場から「1か月では精神疾患特有の経過もわからない」と意見が出るなど,研修期間の妥当性をめぐる議論が中心となった。これに対し会長の山内氏は,まずは精神科研修の効果を示すエビデンスを集約するなど,臨床研修制度見直しに向け長期的視野に立つことを求めた。同じく会場から発言した西園昌久氏(心理社会的精神医学研究所)も,新制度を追い風と捉え,精神科医が医学教育界に関わりを深めていくよう要望した。今後は,学会が卒後臨床研修の評価に着手する動きが出てきそうだ。