医学界新聞

 

WONCA2005年アジア太平洋学術会議

世界の一般医・家庭医が一堂に会し,京都で開催


 世界一般医・家庭医学会2005年アジア太平洋学術会議(WONCA Asia Pacific Regional Conference 2005)が,「国際化と標準化:一般医学・家庭医学の挑戦」をメインテーマに,5月27-31日の5日間,京都国際会議場にて開催された。同会議は,WONCAが3年毎に開催する世界大会開催年をのぞき毎年開催され,日本での開催は初めてのこと。日本プライマリ・ケア学会,日本家庭医療学会,日本総合診療医学会が合同で組織委員会(委員長=三重大・津田司氏)を設置し,準備を進めてきた。なお,この会議は日本学術会議との共同主催であり,第28回日本プライマリ・ケア学会学術集会,第20回日本家庭医療学会学術集会,第13回日本総合診療医学会学術集会が同時開催された。


 WONCA AP2005では,黒川清氏(日本学術会議会長),ジョナサン・ロドニック氏(カリフォリニア大サンフランシスコ校),山折哲雄氏(国際日本文化研究センター名誉教授),尾身茂氏(WHO西太平洋地域事務局長),M.K.ラジャクマール氏(マレーシア家庭医学会会長),ヘンク・ランベルト氏(アムステルダム大)の6名が基調講演を行った。

 開会式後に登壇した黒川氏は,「世界のヘルスケアの課題と可能性」と題して講演。人口動態や医学の歴史的な変遷を辿りつつ,環境問題やエイズなど昨今のヘルスケアの課題を指摘した。さらに,医療コミュニティはこれら課題に対し傍観するのではなく,将来の世代のために,行動するべきだと訴えた。

 その他,シンポジウムは「国際化と標準化 一般医学・家庭医学の挑戦」など8題,ワークショップは「Basic Research Skills for the GP」など19題が企画された。アジア太平洋地区だけでなく世界中の一般医・家庭医が集う中,一般演題やセミナーも通して,世界の診療・教育・研究について国際的な討論が行われた。

■日本の家庭医療,総合診療のあり方を議論

家庭医研修プログラム構築へ

 家庭医療に対する関心が高まる中,日本家庭医療学会の会員数は急速に増加し,現在は1000名を越えるに至ったが,学会主導の専門研修ガイドラインはまだ定められていない。第20回日本家庭医療学会では,シンポジウム「家庭医研修プログラムの現状と将来――家庭医療専門医に向けて」が企画され,まず家庭医研修プログラムワーキンググループに属する若手医師5名が,家庭医研修の現状・課題を提示した。

 齊藤裕之氏(奈義ファミリークリニック)は,家庭医をめざす若手医師の悩みとして,日本の家庭医モデルが不定で,家庭医に特化した後期研修を提供している施設の存在が不透明であることを指摘。学会に,家庭医療専門医制度の創設を求めた。川尻英子氏(三重大)は,三重大家庭医療学研修プログラムのレジデント1期生としての経験を紹介。海外の家庭医研修プログラムの見学や,離島診療所での研修を行ったことを報告した。

 福士元春氏(横須賀市立うわまち病院)は,自らの地域医療研修での試行錯誤を踏まえ,「逃げられない状況で患者さんと真剣に向き合うことで得られるものは大きい」とし,現場で生じた問題を解決しながら学習する,ボトムアップ・アプローチの重要性を述べた。森敬良氏(出雲市民病院)は,2004年7月に設立した「家庭医療科」外来を紹介。将来的には,病棟もみる家庭医を養成し,行政との連携をとりながら僻地へも展開したいと構想を語った。大橋博樹氏(聖マリアンナ医大)は,専門医としての家庭医の構築をめざす若手医師たちの活動を紹介。家庭医をめざす医師が孤軍奮闘しないためにも,まずは家庭医療専門研修プログラムに基づく研修施設の認定が必要であると持論を述べた。

 最後は学会会頭の山田隆司氏が登壇。専門医制度の創設を急ぐよりも,まずは社会の家庭医に対するニーズを考えることの重要性を強調した。日本に不足しているのは,地域の医療ニーズに見合った,総合的な診療能力を持った医師であると指摘。この点を考慮しながら,学会としては,研修プログラム認定と評価に重点を置き,組織強化や国内学会・団体との協調を図っていく考えを示した。

 なお,3月の一般紙において,家庭医の認定試験を今夏にも学会で実施する旨の報道があったが,学会HP上で「当面認定試験を学会主導で実施することはない」と否定した経緯がある。今回改めて,プログラム認定を優先する意思を表明した。

総合診療部と新臨床研修制度

 第13回日本総合診療医学会のパネルディスカッション「新医師臨床研修制度における総合診療部の役割」(座長=熊本大病院・木川和彦氏,天理よろづ相談所病院・郡義明氏)では,各施設の取り組みが紹介されたあと,総合診療部の果たすべき役割が議論された。

 藤本卓司氏(市立堺病院)は,「総合内科は(未診断の症例や不明熱ばかりでなく)コモンな症例を多く持つべきである」と主張。分類不能な症例は全内科医が順番に担当することや,専門内科との合同カンファレンスを通して良好な関係を築くなどの工夫を紹介した。

 杉本元信氏(東邦大)は,東邦大学大森病院総合診療・急病センターにおいて急性疾患診療体制を構築。1年次研修の内科・救急・外科の基本研修科目のすべてを担当するプログラムを紹介した。

 江村正氏(佐賀大病院)は,総合診療部における1年次研修医の外来研修を紹介。「病棟中心の研修では身につかないことを学べる」と意義を語り,研修医の外来指導に専念する医師を日替わりで確保することがポイントであるとした。

 高木敦司氏(東海大)は,初期研修2年間に続き,3年目も総合内科で研修する試みを紹介。また,専門医への総合診療能力再教育も重要な役目であると強調した。浅井篤氏(熊本大)は,「研修医に対する倫理教育は空白地帯」と指摘し,臨床生命倫理の研修を提言。総合診療科医がその実践の担い手として適切であると語った。

 ディスカッションの中では,「コモンディジーズが専門内科に行く傾向があり,苦労している」という現場の悩みも聞かれ,「診療部再編時にかなりの話し合いをした」(杉本氏),「総合内科の力量が重要,コモンディジーズは専門内科医と同等のレベルで診れるように」(藤本氏)など,診療科の垣根を低くする方策が議論された。