医学界新聞

 

今問い直す“臨床的感性からの創造”

第40回日本理学療法学術大会開催


 第40回日本理学療法学術大会が5月26-28日の3日間,林義孝大会長(大阪府立大)のもと,大阪市の大阪国際会議場において開催された。「臨床的感性からの創造」をテーマとした今回は,特別講演「運動器の再生医療の現状と展望」,40回大会記念シンポジウム「リモデリング理学療法――科学的物理療法の提案」「臨床的感性からの創造」,市民公開企画「高校野球選手の障害予防」,河合隼雄氏(文化庁長官)による講演など,節目の年にふさわしい多彩なプログラムが企画された。

 なお,会期中に行われた役員選挙の結果,会長は現職の中屋久長氏(高知リハビリテーション学院長)が二選を果たした。


感性をみがく技法

 第40回日本理学療法学術大会記念シンポジウム「臨床的感性からの創造」(司会=東北大病院・半田健壽氏)では,山口武典氏(国立循環器病センター名誉総長),奈良勲氏(神戸学院大),寺山久美子氏(帝京平成大),の3氏がこれまでの経験に基づき,臨床的感性から創造する教育・臨床・研究を語った。

 山口氏は,病歴聴取の後で「主訴は失語です」と言ったレジデントに対し,患者の言う通りに書くことを求めた体験を例示。さらに,「不安感を与える言動は避ける」「専門用語は避ける」など,臨床家に必要な患者の診かたを伝え,最後は“see the patient, not the disease”の言葉で口演をまとめた。

 奈良氏は,「すべての成果は相互に関連しながらも広義の臨床(保健・医療・福祉)に反映されなければ無意味」と指摘。そしてその臨床においては,「科学のみで物事に対応することはできない」とアート性とのバランスを強調した。特に,「ことばは医療行為の一部である」として,ふだん使っている手だけではなく,ことばの重要性を認知させた。

 寺山氏は,恩師との出会いの中で語られた言葉を通して,生活直視・現場主義の重要性を強調。次に,サリドマイド児のADL支援によって,義手のない生活者の日常から学んだ経験を伝えた。また,「感性能力も廃用萎縮を起こす」と例え,「1日1回は感動しよう」と参加者らに呼びかけた。

 その後の討論では,「感性を磨くにはどうしたらいいか」と司会の半田氏から質問が出され,「恩師を持つことが大事」(寺山氏),「主観と主体を大事に,そうじゃないと客観的にもなれない」(奈良氏)などの意見が出た。 最後は,3人の演者が「感性の1枚」というテーマで写真を披露。山口氏は小鳥が枝にとまる写真から「枝は鳥を選ばす」と語り,すべての患者を受け止める医療者の感性を求めた。奈良氏は,インドネシアの部族の写真に会話文のキャプションをつけ,「文明の名の下に感性を失っていないか?」と問いかけ。最後に寺山氏は,自らの女児が産まれた時の写真を提示し,「子育ては感性育て」と育児の薦めを説いた。

変革期の臨床実習 徒弟教育のあり方は?

 教育シンポジウム「臨床教育の再構築――徒弟教育からの離陸」(司会=大阪リハビリテーション専門学校・西村敦氏)では,小野啓郎氏(阪大名誉教授),辻本好子氏(COML),内山靖氏(群馬大)が登壇した。

 医師養成とともに理学療法士教育にも尽力してきた小野氏は,「医学生向きの教科書との決別」をセラピスト教育の課題として提示し,医師とセラピストの役割分担を示した。また,「病状・予想されるリスク・障害の予後」の把握をチーム医療で共有することが大切であり,その土台として病態生理学の理解は必須であることを強調した。

 「賢い患者になりましょう」を合言葉に1990年から市民活動を続けるCOML理事長の辻本氏は,電話相談件数の増加とともに患者の権利意識の高まり,コスト意識を感じると述べた。また,患者の基本的医療ニーズは,確かな技術による“安全”と個別性の尊重による“安心・納得”であると,臨床家に必要な資質を示した。

 当事者を代表して内山氏は,養成機関の急増で協会員対学生の比率が1.5対1に達している現状を鑑み,臨床実習中心の教育を変革する必要があると発言。特に,一部でみられる「実習場面では教員不在,成績評定は学校,不合格なら進級できない」という臨床実習の実態が,学生のメンタルヘルス障害の引き金になっているのではないかと指摘し,教員に臨床実習教育への参画を求めた。また,変革のヒントとして,学内教育におけるPBL,OSCEの試みを紹介した。