医学界新聞

 

内視鏡医療のさらなる深化を求めて

第69回日本消化器内視鏡学会開催


 さる5月26-28日,第69回日本消化器内視鏡学会が,佐藤信紘会長(順大)のもと,ホテルニューオータニ東京(東京)において開催された。「内視鏡医療,医学のさらなる深化を求めて――創造,実践そして教育」をメインテーマとして開催された今回は,多様化する消化器内視鏡医療の領域に対応すべく33ものテーマが選定され,多くの演題が発表された。社会的な関心の集まっている医療過誤に関するパネルディスカッションには,多くの参加者が訪れた。本紙では,会長講演「生命医科学と光」と特別パネルディスカッション「内視鏡と医療過誤」について取り上げる。

「光」と内視鏡医療の発展

 会長講演では佐藤氏が「生命医科学と光」と題し,「光」をキーワードに生命科学全般と内視鏡医療とのかかわりについて,自身の研究経歴を振り返りながら講演した。

 氏は初めに,ほとんどすべての生命体に「光の吸収物質」が存在していることと,その吸収物質を介して化学エネルギー(ATP)を産生するシステムを持っていることに触れ,「光」が,地球上で生命が存在するうえで不可欠の条件であることを示した。こうした光吸収体は,動物,人にも多数残存しており,これらに対しての非侵襲的分光,蛍光,ラマン計測などは,血流の程度や細胞の酸素化の程度といった医学的に重要な情報を提供してくれる。

 続いて氏は,光ファイバーを利用したこれらの光吸収体の内視鏡下計測の歴史を紹介。「光」をいかに計測するかが,内視鏡下での診断・治療の発達に大きなポイントとなってきたと述べ,急性潰瘍,肝炎から肝硬変への進展,糖尿病などにおいて,血流とミトコンドリアの機能異常が大きく関わっていることを,光吸収体の内視鏡下計測が明らかにしてきたと解説した。

注目を集める自家蛍光診断

 この流れの中で,近年特に注目を集めているのが自家蛍光診断。癌組織は周囲の正常粘膜と異なる特有の自家蛍光パターンを有していることが知られている。このため,レーザーダイオードなどを用いて励起光を照射し,これによって発生する自家蛍光を測定することによって,客観的な診断が可能になると考えられている。佐藤氏はこれについても,「光と生命体との,切っても切り離せない関係を活用した診断法」であると大きく評価した。

 佐藤氏は最後に「生命にとって光は必要不可欠な要素。光による情報を,内視鏡下でいかに可視化していくか。これを追求していくことで,生命の根源に関わる機構の解明,診断,治療に貢献できる」と,内視鏡の将来展望について述べた。

■「内視鏡と医療過誤」について議論

 特別パネルディスカッション「内視鏡と医療過誤」(司会=獨協医大・寺野彰氏)では,冒頭,医師であり弁護士でもある寺野氏が医事関係訴訟の年次推移や内視鏡的粘膜切除術の手技の変遷について概説した。

 全国に先駆けて医事関係訴訟の専門部署となった東京地裁民事第30部の裁判長である佐藤陽一氏は,民事訴訟のなかの医事関係訴訟の位置づけや審理方式,自身が取り組んできた審理期間の短縮について述べた。また,東京地裁で行われている裁判官と鑑定人,訴訟当事者がラウンドテーブルを囲んで行う「カンファレンス鑑定」も紹介した。

 司会の寺野氏と同じく医師であり弁護士でもある児玉安司氏(東大)は,混迷する「合併症」に対する考え方について論じた。内視鏡による出血,感染,穿孔などに対して「これは合併症だから責任はないのでは」「同意書にも書いてある」という言葉はよく聞かれるが,普通の考えでは,予見できるのであれば回避するための努力をすべきであり,回避の手立てを尽くさなかったら過失となる。何が予期でき,何が合併症か,線引きの難しさについて,児玉氏は言及した。

 また,同意書についても,「これらのことが起こっても文句を言いません」という,医師に対する患者の約束なのか,「これらのことが起こらないようにきちんと予防します/起こったら適切に対処します」という患者に対する医師の約束なのか,疑問を呈した。

 裁判所での争点は,(1)適応,(2)インフォームドコンセント,(3)事前検査・前処置・前投薬,(4)手技(器具,人,方法),(5)後処置・経過観察,(6)合併症に対する適切な予防・対応,(7)他科・他院との連携,などであるが,これらは医学界での検討事項と重なっている。裁判所の判断は「医療界の良識」を反映したものであるはずで,判決を分析して負けない医療を考えることは,自分の影に怯える倒錯であると児玉氏は指摘した。

ESDが話題に

 矢作直久氏(虎の門病院)は,内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)を中心に,消化管腫瘍の内視鏡治療とその偶発症について口演した。ESDは内視鏡下でフレックスナイフなどの処置具を用いて,病変周囲の粘膜を切開した後,粘膜下層を剥離し病変を一括切除する治療法。ESDの適応は拡大しつつあるが,安全性確保の課題として,(1)トレーニングシステムの確立,(2)認定制度の設立,(3)新たな処置具の開発,を矢作氏はあげた。

 総合討論で,司会の寺野氏は,ESDのインフォームドコンセントの要件は,(1)未確定・研究的・実験的医療行為であること,(2)標準的医療は手術であること,(3)偶発症・有害事象についての十分な説明,(4)転移等についての予後の説明,(5)一般的成績と自施設の成績についての説明,と述べた。