医学界新聞

 

チームで育てる新人ナース

がんばれノート
国立がんセンター東病院7A病棟

[第9回]死に触れる
主な登場人物 ●大久保千智(新人ナース)
●末松あずさ(3年目ナース。大久保のプリセプター)


前回よりつづく

 右も左もわからない新人が悩みや不安を書き込み,プリセプターや先輩ナースたちがそれに答える「がんばれノート」。国立がんセンター東病院7A病棟では,数年前から,新人1人ひとりにそんなノートを配布し,ナースステーションに常備しています。

 この日,早朝の静かなナースステーションの中で心電図モニターの音が鳴り響いていました。先輩と担当医とモニターを眺めていた時間がとても長く感じたのを覚えています。私にとってS様の看取りは初めての看取りでした。ご家族がS様の手を握りながら声を掛け続けている姿に胸がいっぱいになり,何と声を掛けてよいのかもわかりませんでした。

 S様の看取りを機に,看護師として人の最期の時に関われる幸せと責任を学びました。今でも患者様が亡くなると涙が出るけれど,この時の涙とは少し違うように思います。それは多分,S様が私に大切なことを教えてくれたからだと思います(大久保)。


今回の登場人物
大久保千智,白幡友子(6年目),寺田千幸(2年目)。

8/5 ●大久保
 先日,初めて患者様がお亡くなりになる瞬間に立ち会わせていただきました。直前の日勤では何とか会話も可能で,私にとっては急な死だったようにも思えました。その分,自分の気持ちが患者様や御家族の気持ちに近づけていたかわかりません。訪室した時に,御家族が患者様の体をさすったり声をかけたりしている姿が今でもよく思い出されます。御家族の一生懸命さとそれに応える患者様の姿に涙が出てとまらず,泣いてしまいました。

 亡くなられた時は,自分でも不思議と落ち着いていたような気がします。でもお見送りをする時は今までの患者様の姿が思い出されて,涙が出ました。このような場面に立ち会ったのは初めてでしたが,経験して今一番思うことは,“絶対に後悔しない看護をしよう”ということです。

 家へ帰ってからもしばらく,もっとたくさんの援助をすることができたのではないか,自分がやったことに間違いがあったのではないかとずっと考えていました。その後,少しずつ一緒に散歩に行ったことや洗髪をして“気持ちいい”と言ってくれた患者様の笑顔が浮かび,あの時にその援助ができて良かったなと思えるようになりました。

 「その患者様と過ごすその時」って後戻りできないんだ……と当たり前だけどそんなことを実感しました。

 1日が終わると,何となくいつも,援助が足りなかったなと考えたりもするけれど,その時に考えて終わってしまうことが多くてなかなか自分が納得するような看護ができません。でも後戻りできないのだからもっと責任や自覚をもって仕事をしなければ,と考えさせられました。

 S様と過ごすことができて本当に良かったです。受け持たせていただいている時も,お亡くなりになった今も,とてもたくさんのことを教えていただきました。“後悔しない看護”って何だろうって考えながらこれから患者様と接していきたいと思います。

8/7 ●白幡
 S様が亡くなったと聞いたのは3連休明けで,とてもびっくりしました。とても仲のよいご家族だったので,奥様や娘様は大丈夫だったのかと思いました。

 大久保さん,患者さんが亡くなる瞬間に立ち会うのは初めてだったんだね。人が亡くなるということはいろんなことを考えさせてくれます。人の魂は死んだらどこへ行くのだろうとか,“死”とは本当に怖いものなのだろうかとか,考えても答えがないことも考えてしまうことがあります。

 S様の最期を見て,“絶対に後悔しない看護をしよう”と感じ,S様への援助をふり返ることができ,S様と過ごすことができて良かったと思えたことはとても素晴らしいことだと思いました。患者様の今まで生きてきた時間のほんの少しの時かもしれないけれど限りある時間を有効に使えるよう,患者様とかかわっていきましょう。

8/9 ●寺田
 初めてのステルベン,お疲れ様でした。私もS様のことが大好きで尊敬していました。本当にたくさんのことを教わって,S様に会えたこと,大切な最期の時間をすごせたことうれしく思います。大好きだった分悲しいですが,私はS様のことをこの先忘れないと思います。

 大久保さんの記録で「後悔のないように」とありましたね。本当にそう思います。白幡さんの記録にありますが,S様とすごしたこと,そのかかわりを良かったと感じられたことは良かったと思います。私はターミナルや,その他の患者さんとかかわった後は,もっといいかかわりができたのではと後悔することが多いです。こうしたらいいという答えが明確でないのでやっぱり看護はむずかしい,と思います。でもその中で自分にできる精一杯のことを援助できたらと思います。

白幡 初めて患者様の死に触れて,大久保さんなりにいろいろなことを感じたのだなあと思いました。そして,それを振り返りよりよい看護につなげようとする姿勢が見られていますが,自分の行った看護に対して悩んでいる部分もあり,何年経験を重ねても死については難しいということを伝えたいと思い書きました。

寺田 患者様に対し,責任や自覚を持って看護を行っていくことはもちろん大切です。しかし,いつもそれで良かったのか,もっと何かできたのではないかという思いが残ります。私が悩んでいる時に先輩から「精一杯にできる看護をしていき,その精一杯できることを増やしていければいい」とアドバイスをいただきました。その時できる精一杯の自分で患者様に接し,そこからたくさんのことを学んでいくことが必要だと思います。

次回につづく


病棟紹介
国立がんセンター東病院7A病棟は,病床数50床,上腹部外科・肝胆膵内科・内視鏡内科の領域を担当している。病床利用率は常に100%に近く,平日は毎日2-3件の手術,抗がん剤治療・放射線治療,腹部血管造影・生検・エタノール注入などが入る。終末期の患者に対する疼痛コントロールなど,新人にとっては右を見ても左を見ても,学生時代にかかわることがない治療・処置ばかりの現場である。