医学界新聞

 

インフォームド・チョイス

~不妊治療・私らしい選択のために~


 さる5月28日,聖路加看護大学において,まさのあつこ氏を招き,聖路加看護大学21世紀COEプログラム市民セミナーが開催された。現在,不妊症のカップルは約1割に達し,体外受精を行った際の成功率は,平均2割である。これらのことから,「子どもは産んで当然ではなくなった」と,まさの氏の講演が始まった。


医療関係者と患者 認識のギャップ

 患者にとって不妊治療とは「人生」の一大事であり,“失敗したくない”,“子どもを授かりたい”という想いが強い。しかし,不妊医療関係者にとって不妊治療は,“100%の保証はできない,失敗することもある”と冷静に考えている。しかし,こうした冷静さが現場で必要なことも確かであり,この認識のギャップを完全に一致させることはできない。ここで重要なことは,認識のギャップを埋めるための手段であり,「さまざまな説明を受け,患者自身が十分納得できる治療法の選択をする=インフォームド・チョイス」であると氏は強調。その過程において“どこまで共感・共有できるか”を確認することが必要なのではないかと述べた。

 さらに社会が不妊を受け止めることが必要になってきていると指摘。「産んで当然」という考えが,家族・周囲からのプレッシャーを生み,さらには患者自身が子どもを授からなければと考えストレスを招いている。この現状を改善するためにも,一歩踏み込んだ考え方,小学生から生命倫理・患者の権利といった医療教育を行うなどを課題に挙げ,社会とのギャップを埋めていきたいと述べた。

選択のあり方

 医師主導で治療法を決定する「インフォームド・コンセント」ではなく,医師・看護師・不妊カウンセラー・患者がそれぞれの立場で選択肢の提示・サポートをし,その中から患者自身が治療を“やめること”を含めて意思決定できる「インフォームド・デシジョン」が望まれる。また,不妊治療に対し,自らが納得し選択・決定する「私らしい選択」ができる環境をつくることが,これから解決していく課題であり,そのためにも医療機関・自治体・不妊専門相談センターの連携に,元患者・体験者も加わり,より強い連携を図っていきたいと述べ,講演を締めくくった。


まさのあつこ氏
フリーランスジャ ーナリスト。2004年春,不妊治療に終止符を打ち,公共政策などを中心に執筆活動を再開。衆議院議員の政策秘書など,多くの職業を経験。