医学界新聞

 

安全のためネットワークする看護職

平成17年度日本看護協会通常総会開催


 さる5月16-18日の3日間,日本看護協会(南裕子会長,会員約57万人)の平成17年度通常総会および職能集会が,千葉県・幕張メッセイベントホール,ほかで開催された。平成17年度のスローガンや学生会員創設・事業計画・予算などの審議および任期満了にともなう役員改選が行われた。


 今年度の通常総会は,会長および役員の改選が行われた。南会長の任期満了による退任にともない,新会長には久常節子氏(慶大)が選出された。今回の役員選挙は各役員とも,定員と同数の立候補・理事会推薦となった。全役員はほぼ全会一致の賛成多数で選出された。

 総会の議題は,(1)名誉会員の推薦,(2)平成16年度事業報告,(3)同決算報告および監査報告,(4)平成17年度スローガン,(5)学生会員の創設について,(6)新卒看護職員の卒後研修の制度化推進について,(7)平成17年度事業計画,(8)平成17年度収支予算,の8議題が提出された。

看護協会の組織力強化

 平成17年度のスローガンには,「国民の安全と安心を支えるために,ネットワークする看護職-いつでも,どこでも,だれにでも-」が提案された。

 執行部は,「病院から在宅,介護保険施設や社会サービス,障害者施設・健康保険病院,職場から地域まで,看護職と人々との連携を含めたネットワークの必要性が求められている。さらには国内外の看護の連携,国際協力,災害支援なども含めて,看護職のネットワークが必要」と提案理由を説明し,賛成多数で本スローガンは採択された。

 看護協会の組織力強化を図るため,新たな会員種別として「学生会員」の創設が提案され,執行部より提案理由・内容,そして定款改正の手続きの説明がなされた。質疑応答では,まず現在就労している看護師の協会入会率を上げることを考えるべきではないかなど指摘された。執行部は,20代前半の入会率の向上につながると説明し理解を求めたが,より深く議論を行いたいとの意見が多く,本議題については,要望に応え継続審議をするということで再提案され,可決された。

質の確保と安全の向上

 医療の高度化,複雑化に伴う医療の質確保,安全体制の確立など,安心して納得のいく質の高い看護体制の構築のために,新卒看護職員の卒後研修の制度化推進が提案された。

 執行部は,厚労省のヒヤリ・ハット事例集から,平成14年のヒヤリ・ハット総発生件数は3万3000件を超えたなか,看護師がかかわったものが約2万6000件が報告され,そのうち配属部署年数0年の看護師が4割を超えたことを提示し,医療安全対策強化を推進するためにも,新卒看護職員の卒後研修の制度化が必要であると強調。

 また,医療安全の観点および患者の権利意識向上にともない,人間を相手とした技術の実践経験が制限され,入職後3か月経過した新卒看護職員の多くが,基本となる看護技術の半数を1人で行うことができないこと,入職後2か月で夜勤業務をこなさなければならないなど,さまざまなストレスが重なり,1年以内の離職率は全体の8.5%に達していることにも触れ,新卒看護職員の離職防止の観点からも,卒後研修制度の必要性を説明。賛成多数で可決された。

新会長挨拶

 新会長に就任する久常氏は,「病棟における看護職員の人員配置は先進国の最下位と言ってもよいぐらいひどい状況です。こういう状況を看護協会が力を合わせて改善していく,そういう強い協会にしていくことが,医療環境を改善していくこと,国民にとって非常に安心できる,安全な医療環境をつくっていくということにつながる」と述べ,国民のため,看護職能団体のため,全力を尽くしていきたいと語った。

■職場におけるメンタルへルスの必要性

 会期3日目には,保健師,助産師,看護師の各職能集会が行われた。このうち看護師職能集会では,シンポジウム「看護者の労働安全衛生-職場におけるメンタルヘルス」(座長=日看協看護師職能委員長・松田厚惠氏,同委員・服部満生子氏)が行われ,労働安全衛生のあり方について提言がなされた。

看護職員のストレスと 暴力被害の実態

 まず始めに菊地令子氏(日看協常任理事)が「看護の職場における労働衛生ガイドライン」について口演。労働衛生およびメンタルへルスについての指針を提示した。続いて,小田清一氏(厚労省)が「医療現場における職場のメンタルヘルス」をテーマに,医療現場職員のメンタルへルス不全の現状と対応について口演した。

 若狭紅子氏(東女医大)が「メンタルへルスのサポートシステムの必要性」について,看護師を取り巻く環境の変化,それに伴うストレスの多様性,そしてメンタルへルスの現状と課題,問題点を指摘し,今後の展望について提示した。

 さらに「体験事例を持つ立場から」と題し,坂爪なを美氏(杉戸保健センター)が,暴力事件被害について「身体の傷は時間の経過とともない癒えていったが,心の傷(PTSD)は辛く,長期間にわたって苦しめられる」と語り,組織として暴力を許さないという姿勢が大切と述べた。同テーマで,飛鳥井望氏(都精神研)が口演し,暴力被害に対する影響,二次被害・受傷,自責感などについて語った。

 最後に高橋高美氏(武蔵野赤十字病院)が,「組織でのルールづくり」について提言。「臨床現場で何が起こっているのかを把握し,分析・対策立案,方針の決定,組織化,職員教育していくことが必要である。また,メンタルへルスケアは,リスクマネジメントである」と見解を述べ,口演を終えた。