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米国のSTD clinic研修から学んだ外来研修の重要性

本田 仁(ハワイ大学研修医)


 米国臨床留学には,時に日本で味わうことのできない経験がある。米国ではレジデンシーの初期から外来教育を学ぶことが研修過程の中に含まれている。これは初期研修において病棟業務が中心の日本と違う点の1つである。系統だった外来教育を学ぶことは,将来の病院勤務や開業といった研修終了後の道には必要である。

 私の所属するハワイ大学内科では,研修医1年目の外来研修は5か月にも及ぶ。外来研修はさまざま病院が教育現場になっており,患者層の違いなどから,各病院において特色ある研修を受けることができる。

 今回,外来研修の中でSTD(Sexually Transmitted Disease:性感染症)clinicで外部研修の機会を得た。米国のすべての研修施設でSTD clinic研修が行われているわけではないと思われるが,一般的に,外来の1つとして確立されている分野である。近年,日本におけるSTDの罹患者数は,特に若年者において,注目すべき問題の1つである。STDは比較的疾患数が限られているので,内科医が最低限の知識と対処の仕方を知っておくべき1つであると私は考えている。今回STD clinicでの研修を通して感じた外来研修の重要性を報告したい。

注意深い観察と 丁寧な説明が重要

 STD clinicは日本の保健所に相当するDiamond Head Health Centerという公的機関で行われている。そこには1名の医師,数名のコメディカルスタッフ(看護師,検査技師,社会福祉士)が,多い時で1日40人ほどの患者を診察する。業務内容は診察,STDの各種検査,HIV(Human Immunodeficiency Virus)の検査の説明,カウンセリング(pre-testing counseling),STD予防のための患者教育が主である。ここではHIV自体の治療は行っていない。

 診察は女性においては外陰部診察,内診および検体採取,男性においても陰部の診察および検体採取を系統だって学ぶことができる。ヒト乳頭腫ウイルス(陰部疣贅),単純ヘルペスウイルス感染などは視診が直接診断につながることもあるため,注意深い診察が必要とされる。残念ながら研修中に梅毒に遭遇することはなかった。検体の一部はすぐに顕微鏡下で観察し診断がなされることもあり,非常に実践的な研修といえよう。

 内診は日本では産婦人科医が行うことが多いが,ここSTD clinicにおいては必須の手技である。慎重を要する診察であり,患者層は10代も多く,内診を受けたことのない患者もいるので診察前に丁寧な説明が求められる。手技に留まらず,説明の仕方に関しても指導医から注意,指導されるので,非常に勉強になる。

 男性の診察も同様で,下着やズボンが分泌物で汚れていないか確認するなどの基本的なことから手ほどきを受け,最終的に陰部からの分泌物を検体採取する。実際,男性で下着の汚れた淋菌感染の症例をここで何度か経験した。

 顕微鏡による診断もSTD clinicにおいては非常に重要である。Wet preparation(Saline),KOH preparationおよびグラム染色を行う。トリコモナス症,細菌性腟症(所見:Clue cell),カンジダ腟炎(所見:yeast/pseudohyphae),淋菌感染,非淋菌性子宮頸管炎/尿道炎(NGC/NGU)等が診断可能である。(正確には細菌性腟症/カンジダ腟炎は性感染とは限らない)

STD clinicにおけるケアと予防

 現在,米国では研修医がグラム染色を行うことはほとんどない。私は日本での研修時代に指導医に教わり自分でやったりしていたが,ここでは染色標本の作り方から読み方までしっかり指導を受けることができる。STD clinicにおけるグラム染色の診断対象は淋菌感染とNGC/NGUが主ということになるが,グラム陰性双球菌が多核白血球に貪食されている姿は実に印象的である。グラム染色にはいろいろな意見があると思うが将来,感染症科志望の私にとっては非常に意義のあるものである。

 詳しい治療内容に関しては割愛するが,検査,治療は基本的に無料である。STDが診断された場合,必ずパートナーの検査,治療を強く勧めている。もちろん全例パートナーの治療までこぎつけることは不可能であるが,それでも情報を提示しパートナーも含めた包括的な検査,治療を強く促している。

 カウンセリングもSTD clinicおいては非常に重要な業務である。HIV testの前にはきちんとした説明がなされる。慎重を要する検査であるがカウンセラーの説明が巧みであり,患者は納得して検査を受けるかどうかを決めることができる。こういったこと1つとっても勉強になる。

 またSTD予防についての説明も,細かい内容まで説明・指導する。コンドームの使用については男女どちらが主導権を握っているか,ラテックス製以外のコンドームの紹介などである。無防備な性交渉がSTDに最も寄与していることを説明し,来院者には全員にコンドームが配られる。コンドームの使用の啓蒙もまた印象的である。

日本の初期研修にも 外来研修を

 今回,米国の外来研修を特色あるSTD clinicを例に紹介した。米国医療の醍醐味の1つはSTD clinicのみならず,外来研修を初期研修のうちから,しかも指導医とともに1対1で学べるところにあると考えている。もちろん外来研修を取り入れている日本の研修病院はあると思うが,数は少ないのではないかと思われる。文化背景,医療形態の違いはあるものの,日本でも初期研修のうちから,系統だった外来研修を行うことはよき臨床医を育てるために非常に重要でないかと考える。


《参考文献》
1)CDC: Sexually transmitted diseases treatment guidelines 2002. Centers for Disease Control and Prevention. MMWR., 51(RR-6),1-78, 2002.
2)青木眞:レジデントのための感染症診療マニュアル,医学書院,2000.
3)Jeanne M.M, et al: Predicting Chlamydial and Gonococcal Cervical Infection: implication for management of cervicitis., Obstetrics and Gynecology., 100(3), 579-584, 2002.

本田仁氏
2000年北里大卒。慈恵医大研修医,在沖縄米国海軍病院,東海大総合内科を経て,2004年よりハワイ大内科研修医。将来は感染症科志望。