医学界新聞

 

ボーダーレス時代の外科を検証

第105回日本外科学会開催


 第105回日本外科学会が,さる5月11-13日,二村雄次会長(名大大学院教授・器官調節外科学)のもと,名古屋国際会議場で1万1000余名を集めて開催された。テーマは「日本の外科文化の発展-ボーダーレス時代での検証」。学術企画に加え,「新卒後臨床研修制度:1年を振り返って」「包括医療を振り返る」「外科専門医制度:新たなるスタート」「麻酔医不足に外科医はどう対応すべきか?」「医療とその法整備」「本邦の外科系medical journalが生きる道」の6つの特別企画が行われた。本紙では「麻酔医不足に外科医はどう対応すべきか?」と「医療とその法整備」を取り上げる。


■麻酔医不足に外科医はどう対応すべきか?

 麻酔医不足の背景には,手術件数の増加,女性麻酔医の増加,卒後臨床研修の必修化,麻酔医の低い社会的評価と待遇などがあるとされているが,一部の病院では手術待機期間が長くなるなど患者に深刻な影響が出ているという。

 特別企画「麻酔医不足に外科医はどう対応すべきか?」(座長=奈良医大・古家仁氏,杏林大・跡見裕氏)で,森谷宜皓氏(国立がんセンター中央病院)は,麻酔医不足を今後起こさない院内の対策として,(1)麻酔医のやりがい,生きがいを形成する(緩和医療,ICUとの連携,研究環境の整備),(2)病院独自の麻酔医教育システムの構築(緩和,救急,循環器,小児専門病院への研修),(3)麻酔医の育成に外科医も協力する体制をつくる(外科麻酔の継続),(4)女性麻酔医が働きやすい環境をつくる,(5)麻酔医,外科医間のコミュニケーションの強化,をあげた。一方,麻酔医不足は構造的問題であり,患者のために全力を尽くしている勤務外科医あるいは勤務麻酔医がhigh risk,low returnである矛盾が顕著に表出した結果であると述べた。さらに麻酔看護師制度の導入など,パラダイムシフトなくして,勤務麻酔医不足を根底から解決する方法はなく,麻酔医不足問題は明日の外科医,外科医療の問題であると述べた。

 麻酔医の立場から登壇した武田純三氏(慶大)は,麻酔科学会として行った現状の調査結果を概説したのち,麻酔科学会の対策として(1)麻酔医が働きやすい環境の整備,(2)学生・研修医に対する働きかけ,(3)麻酔医以外による麻酔の実施,を紹介。麻酔科専門医を増やすために,麻酔科の担当領域の周知,相応な処遇,女性医師のあり方の再検討が必要と述べた。具体的には,母親医師の活動しやすい環境,麻酔科標榜医を有する他科医師の協力,医療特区の利用をあげた。

 さらに武田氏は,米国の麻酔看護師制度の歴史的背景を述べ,本邦で一朝一夕にできることではないとした。また,麻酔医不足にはいろいろな要因があり,地域で麻酔医の空き時間を有効利用し,稼働率を高めることの重要性を説き,まずは自院の効率化に着手すべきと述べた。

 最後に座長の跡見氏は,「麻酔医の問題は医療制度そのものの問題であり,医療の根幹にかかわる。医師会,医学会をはじめ,いろいろなところで声をあげることが重要」と述べた。一方,注意すべき点として「麻酔看護師制度は必ずしもよいことばかりでなく,米国では州法によって,さまざまな運用がなされており,その一部が医療事故につながっている。また,医療特区はビジネスチャンスになるかもしれないが,医療をビジネスとして捉えてよいのか。一時的にはよいかもしれないが,医療水準の格差につながる恐れがある」と述べ,「今回の問題を医療制度の矛盾の発露として捉え,これを突破口として,麻酔医,外科医が一緒に戦っていく第一歩となれば」と特別企画を締めくくった。

■「医療関連死」のモデル事業について議論

 異状死の解釈をめぐっては,さまざまな議論がある。特別企画「医療とその法整備」(座長=東大・本眞一氏,斗南病院・加藤紘之氏)は,厚労省による「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を中心に議論が展開された。

 内科学会でこの問題に取り組んできた池田康夫氏(慶大)は,これまでの経緯を振り返った。異状死については,94年の日本法医学会ガイドライン,01年の日本外科学会ガイドライン,02年の日本内科学会会告があったが,昨年4月に,内科学会・外科学会・法医学会・病理学会による4学会の共同声明に進展。診療行為に関連した死亡事故を異状死として警察に届けるこれまでの考え方から,中立的専門機関を設立し,「医療関連死」としてそこに届け,調査・検証する方向へ議論が進められてきた。昨年9月には4学会の共同声明に日本医学会加盟15学会が賛同し,19学会による共同声明が出され,厚労省はそれに応じる形で本年度より上記のモデル事業を開始した。

 モデル事業では,判断に医学的専門性を特に必要としない明らかに誤った医療行為,管理上の問題での患者死亡は,これまでどおり,医師法第21条に基づいて「異状死」として警察に届ける。一方,医療の過程において予期しない患者死亡が発生した場合,診療行為に関連して患者死亡が発生した場合は,「医療関連死」として中立的専門機関に届け出ることになる。

 弁護士の加藤良夫氏(南山大)は,患者の視点の重要性を訴えた。医療被害者は(1)原状回復,(2)真相究明,(3)反省謝罪,(4)再発防止,(5)損害賠償の5つを望んでいる。医療事故調査の目的は,真相究明→教訓抽出→改善というプロセスに基づいた再発防止ひいては医療の質の向上である。医療側にそれらに対する真摯な態度が見られないと,被害者の心の苦痛はより増大する。事故調査は被害者の心のケアの機能も有すると述べた。

 さらに院内に設置される事故調査委員会のコツとポイントとして,(1)すみやかに委員会を設置,(2)外部委員の参加は必須で,その人選が肝要,(3)調査報告書完成までの期限,スケジュールを決め,精力的に進める,(4)被害者には常時報告する,(5)警察の捜査を優先させない,(6)提言した内容については実現状況を検証する,をあげた。

 総合討論ではモデル事業と医師法第21条との関係,警察の考え方,監察医制度に議論が及んだ。弁護士であり医師でもある児玉安司氏(東大)は,今の法律制度と今後のことを考えるのはまったく別としたうえで,最高裁の判例から異状死に関する概念は何ら変わっていないことを強調した。さらに医師法第21条の改正に向けて,医療界から立法府へのチャネルは開かれているのかと問い,民事・行政・刑事のバランスのとれた制度設計が必要と述べた。