医学界新聞

 

チームで育てる新人ナース

がんばれノート
国立がんセンター東病院7A病棟

[第8回]基本を見直す
主な登場人物 ●大久保千智(新人ナース)
●末松あずさ(3年目ナース。大久保のプリセプター)


前回よりつづく

 右も左もわからない新人が悩みや不安を書き込み,プリセプターや先輩ナースたちがそれに答える「がんばれノート」。国立がんセンター東病院7A病棟では,数年前から,新人1人ひとりにそんなノートを配布し,ナースステーションに常備しています。

 7月,病棟では夏休みに入り忙しさも増します。入職して3か月が経ち1人で付く処置やケアも増えてきます。心にゆとりが無く,日々忙しい業務,慣れないケアや処置に直面すると少しずつ基本を見落としがちになってしまいます。3か月しか経過していない中で,社会人として,一スタッフとしての仕事が求められることは,心身ともにストレスの強い中にいる1年目にとってかなりのプレッシャーであると思います。しかし同時にそれは周囲のスタッフにとっても同じプレッシャーがあるということです。チームで仕事をするということの責任感,どんな忙しい時も基本を忘れないことが大切です。


今回の登場人物
大久保千智,末松あずさ,原田操(4年目)。

7/11 ●末松
 先日は本当に汗腺から血のふきでるような多忙な中,夏休みをいただき,本当にありがとうございました。病棟に戻った瞬間,いつもは感じる浦島太郎のような気分はまったくなく,恐ろしいくらいすぐにとけこめました。とけこまざるを得ない,ボケてられない状況で幸か不幸か体のリズムはすぐに戻ったようです。

 さて最近どうですか? ずっと病棟が落ち着いていたので,今は大久保さんが初めて直面する,超多忙な時期だと思います。新しいことが山ほどあって,わからないこともますます増えてきているのではないでしょうか。

 先日の反省会で,先輩方から「1年生がまだできないことがたくさんあるのはわかっている。でも,いっしょに夜勤で先輩についてもらうということはそれだけ先輩の負担もあることを忘れないように」というアドバイスをいただきました。もし状態が悪い患者さんがいたら夜勤の前に「こういう状況のこういう人がいます。何かあれば相談するかもしれません」と最初に相手のスタッフに説明をしておく,などの準備をしてください。

 自分1人でまわるのが精一杯という状況も理解できますが,いっしょに働くスタッフの動きを見て,自分の行動計画をたてる,手が空けば積極的にケアに参加して先輩の技をぬすむ,手伝う,など少しずつ視野を広げられるように努力していきましょうね。これからの課題です(今の状況を否定しているわけではありませんよ)。もうすぐ夏休みですね。サザンの夏がやってきます。無事故をめざしましょう!!

7/21 ●大久保
 就職してもう4か月も過ぎるんだなーと思うと本当にあっという間だったなーと思います。いつもあたふたとしていて,ナースとして自分はこの先大丈夫なのかな? と考えさせられる毎日でした。でも4か月で沢山の患者様と会えてたくさん話を聞かせてもらったことが本当に楽しかったし,人間として多くのことを学ばせていただいたと思います。

 初めは少し苦手だなと思った患者様でも,何回か受け持たせてもらううちに苦手意識が無くなってもっと接していたい,もっと何か私にできることはないかな? と考えられるようになった時に,“人と接する仕事を選んで良かったな”と心から思いました。

 ただ,本当に基本的な業務を忘れていることがあり,もう1度基本を考え直さねばと思います。4か月で,少し慣れてきたからこそ曖昧なままでいることや適当にしていることはないか夏休みを機に考えてみたいと思います。

 基本的なことって,ほんの少しの注意や意識づけで実施できるけれど,それを怠ってしまうと大きなミスにつながっていくことを社会人になって心から実感しています。特に生命を預かっている病院で働くからには絶対に忘れてはいけないことだと痛感しています。夏休み明けにミスなどしないためにももう一度考えてみたいと思います。

 夏休みまで働けるか自信が無かったのにここまで来ることができて嬉しいです。先輩や同期の支えのおかげです。いつも温かい言葉をかけてもらえて嬉しくてよく涙が出てしまいます。夏休み後も,学生の頃,「がんセンターで働きたい」と思った気持ちを忘れず,一生懸命頑張ります。これからもどうぞアドバイス・フォローで支えてください。本当にありがとうございます。

7/25 ●原田
 21日の日勤は前日の準夜からで大変だったのにいろいろと厳しく言いました。私も帰省したあとだったので自分自身ミスを起こさないようにと思いながら仕事していたので。久々に大久保さんのフォローをさせてもらって,今だからこそ,忘れがちなことを身につけてもらいたいと思いました。

 あっという間に4か月たちましたね。この4か月でできるようになったことは本当に沢山ありますね。そして出逢った患者さんも沢山いますね。けど,できることが増えた分,見えなくなっていることもあると思います。

 できることが増えると,やらなくてはいけないことは自分のレベルより少し上に設定されるから,いっぱいいっぱいになっちゃうと思うけど,そんな時こそ最初に教わった時の手順や注意点をふり返る必要があるのではないかと思います。なぁなぁになっていること,なんとなくやっていること,体で動いてやってしまっていること,誰にでもあるけど,こんな時こそ,ふり返ってみるとどうしてその行為に至るのかわかるのではないかと思います。

 夏休みに入る時に,「看護診断の勉強をしよう」と言っていた大久保さん。意気込みはすばらしい! けど遊ぶときは遊ぶ! 寝る時は寝る。メリハリがあるほうが続くし,楽しくやっていけるのでは? まだまだ4か月。大久保さんの道のりは長いから,焦らず一歩一歩つみ重ねていいと思うよ。また夏休み明けるまで……リフレッシュした大久保さんの一皮むけたところを期待します。

大久保 処置等も1人で行うことがほとんどとなり,患者様との会話もだいぶスムーズになってきた頃です。そんな反面,少し粗さが出たり,根拠なく実施したりして,先輩に指摘されて初めてはっと気づく,ということが多くなっていました。1人でできることが増えて楽しくて仕方ないのに,指摘を受けると気持ちはどん底に落ちるくらいつらい。けれど,指摘があったから大きなミス無く仕事ができて,自分の看護の基本を作ることにつながったのだと思います。“独り立ち”はしても先輩が見守っていてくれることに当時も今も感謝です。

原田 まじめが長所の大久保さんですが自分に厳しすぎ,かつ1人で何もかも抱え込んでしまうので大丈夫かなーという不安はありました。そのキャラクターに対してこの時のコメントは正直言うと,厳しく言い過ぎたかなーという思いで書きました。ただ言うべきことは伝えておかなければという思いは根底にあります。みんなある一定の期間を乗り越えると,少し前のことを忘れてしまうので1年生の間に身につけるために振り返りをしてほしいと思いました。

次回につづく


病棟紹介
国立がんセンター東病院7A病棟は,病床数50床,上腹部外科・肝胆膵内科・内視鏡内科の領域を担当している。病床利用率は常に100%に近く,平日は毎日2-3件の手術,抗がん剤治療・放射線治療,腹部血管造影・生検・エタノール注入などが入る。終末期の患者に対する疼痛コントロールなど,新人にとっては右を見ても左を見ても,学生時代にかかわることがない治療・処置ばかりの現場である。