医学界新聞

 

後期研修の標準化に向けた議論が始まる

第23回臨床研修研究会の話題より


 第23回臨床研修研究会が4月16日,アクトシティ浜松(浜松市)において開催された。聖隷浜松病院(堺常雄院長)が当番病院を務めた今回は,「後期研修について考える」「新臨床研修制度における安全管理」の2題をテーマにシンポジウムが行われた。新臨床研修制度がスタートして1年を経た今,最も関心の高いテーマであるためか,両シンポジウムとも会場からの質問が相次ぎ,熱気のある研究会となった。


後期研修で教育の充実を

 シンポジウム「後期研修について考える――初期研修をどのようにして後期研修に結びつけるか」(座長=聖マリアンナ医大・齋藤宣彦氏,沖縄県立中部病院・平安山英盛氏)では,初期研修後(3年目以降)のいわゆる後期研修のあり方に関して,4名の演者による口演が行われた。

 まず,レジデントの立場から谷美菜子氏(神戸市立中央病院)が登壇。現在は専攻医である谷氏は,「初期研修と後期研修の差が非常に大きい」と実感を語った。その理由として,初期研修中は屋根瓦方式の教育がベースにあり,指導医との連絡も密だが,3年目以降は主治医として治療方針の決定から夜間当直まで重責を負わなければならない点をあげた。後期研修医はスタッフの肩代わりではなく,教育を受けるべき立場であると強調。実りある後期研修とするためには,各専門科での到達目標を設定し,個人の能力や希望も考慮した魅力あるプログラムを構築すべきであるとした。

 大学病院の立場からは北村聖氏(東大)が,これまでの大学での後期研修の欠点として,時に研修よりも医局人事が優先されることや,到達目標・教育方略が明確でないなどの問題点をあげた。一方で,市中病院と比較した際の大学病院の長所としては,大学院を有し,臨床研究・基礎研究を実践できることが最大の強みであると分析。そのうえで,今後の臨床系大学院のあり方を提示。研究者養成コースと高度専門職養成コースに分け,後者においては臨床研究に重点を置き,専門医などの資格取得も目標にすると構想を語った。最後に「キャリアデザインプロジェクト」と名づけた後期研修プログラム案を紹介。大学における教育体制のあり方を変革し,多様性のある長期的プログラムを提示したいと述べた。

卒後研修のSTRUCTURED 3年次以降の研修制度を提示

 臨床研修指定病院の立場から登壇した西野洋氏(亀田総合病院)は,氏が経験したアメリカの卒後研修制度の印象を“STRUCTURED(構造化)”と端的に表現。「日本の卒後研修の期間や内容があいまいとなっているのに対して,アメリカではレジデンシーの期間および研修内容が明確で,感銘を受けた」と語った。日本においても初期研修と整合性のとれた後期研修のあり方について,中立的な場で議論したうえで構造化し,将来的には後期研修のためのコンピューターマッチングを導入すべきではないかと持論を述べた。

 矢崎義雄氏(国立病院機構)は冒頭で,現行の専門医制度を念頭に臨床研修を考えることの問題点を指摘。その理由として,現行の専門医制度は学会ごとに取得基準も様々で,professional degreeというよりacademic degreeに近い場合もあり,必ずしも優れた臨床能力を有する医師の育成システムとなっていないことをあげた。そこで,よき臨床研修医を育てるためには,新臨床研修制度後も引き続き系統的に教育を受ける制度が必要であると強調。卒後3年目以降の「診療科研修制度」構想を試案として提示した。

 同構想では,研修コースの年限を専門領域ごとに3年ないし5年と想定。例えば,内科における5年間の診療科研修では,初期3年で内科関連領域全般の研修を行い,後期2年で臓器別の分野に特化された研修プログラムを行う。医師臨床研修(2年)と診療科研修(5年)を終えた段階で,さらなる専門研修に進むことになる。また,施設は提供できる研修プログラム,プログラムごとの募集人員や到達目標を公表。定められたプログラムを修了し,一定の症例数および検査手技を経験した場合には第三者機構が認定する称号を与える案を示した。今後は各方面と議論を尽くし,「オールジャパンで,標準化された研修コースをできるところからつくっていきたい」と語った。

 会場からは,矢崎氏が示した構想と学会の専門医認定のあり方に関して質問が出された。矢崎氏は,臨床能力を担保する内容ならば,学会の既存プログラムを尊重していく考えを示し,その際は「情報公開が必須の条件」とプログラム内容の公開,初期研修医への情報提供を求めた。また,処遇に関しては,初期研修と違い法制化をめざす制度ではないことから,「病院で給与を出して,研修を進めることになるのでは」との見解を示した(同日行われた厚労省・文科省との協議の中では,高度な専門性を持つ分野であり,職業選択の自由の観点からも,初期研修以後の国による規制は難しいとの考えが厚労省から示された)。その他,ディスカッション中ではプログラムの標準化と病院ごとの独自性の兼ね合いや,指導医の養成など話題が多岐におよび,「いまだ発展途上」(司会の平安山氏)という後期研修のあり方についての議論が深められた。

■新研修制度下における安全管理を議論

 シンポジウム「新臨床研修制度における安全管理」(座長=神戸市立中央市民病院・盛岡茂文氏,堺常雄氏)では,最初に河野龍太郎氏(東京電力技術開発研究所)が基調講演を行った。氏は,安全を第一とする原子力発電や航空機といったシステムと比較しながら,「医療においては特に人間の能力管理が不十分である」として,未熟練技能者が医療行為を担う危険性を指摘。シミュレータの活用などを通して「失敗を安全に経験させる」ことにより,タスク遂行に必要な技量レベルに合格した者だけが業務に就くことができる体制づくりを訴えた。

コミュニケーション, 監督体制,看護の視点

 清水誠司氏(安城更生病院)は,研修医の臨床能力を着実に伸ばす方法として,「十分な指導のもとで安全を確保しながらも,可能な限り研修医自身に問題に正対させ,自ら考えたうえで判断させる」のが病院としてのコンセンサスと紹介。医療安全確保の鍵は,頻繁で良好なコミュニケーション構築であるとして,「良好な人間関係を構築できること」を基準にした採用試験の概要を説明するなど,active safetyを特色とした試みを紹介した。

 綾部健吾氏(聖路加国際病院)は,内科病棟での安全管理策を紹介。治療方針は主治医が最終決定権を持つほか,処方および注射は(1)主治医の治療方針に従い病棟長(3年目以上の研修医が担当)が処方する,(2)あるいは受持医が処方し,病棟長が最終確認。1年目を中心に行う手技に関しても病棟長が監督を行うなど,病棟が研修医中心に動く中で監督体制を整える試みが報告された。

 最後に登壇した梅田靖子氏(聖隷浜松病院)は,2004年4月から「臨床研修専任看護師」として配置され,研修を支援。研修医の技術・コミュニケーション不足による患者のリスクを回避するほか,研修状況の把握調整を担っている。院内アンケート結果でも,「カウンターサインが徹底された」「上級医に聞きにくいことを聞ける」など,リスク回避に役立っているという意見が多く出たと報告した。

 ディスカッションでは,医療機器の操作方法統一や,研修医の過酷な勤務状況の改善が話題にされ,最後は司会の堺氏の「病院をあげて研修医の安全管理に取り組むことが重要」との言葉でまとめられた。