医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


脈絡膜循環と眼底疾患

清水 弘一 監修
米谷 新,森 圭介 編

《評 者》林 一彦(はやし眼科院長)

眼科医ならば手元に置いておきたい ICG解釈を丁寧に解説した一冊

 眼科関連の雑誌を開くと必ずや目に飛び込んでくるのがICG(インドシアニングリーン)赤外蛍光写真である。ICGって何なの? 蛍光造影があるのになぜICG赤外蛍光が必要なの? どのように行い,どのように解釈するの? これらの質問に懇切丁寧に答えてくれるのが本書である。

 今から30数年前に成書『Fluorescein microangiography of the ocular fundus』(1973)に載せられていた微細な網膜毛細血管の蛍光造影写真に目を奪われた。その数年後には成書『Structure of the ocular vessels』(1978)が出版されたが,血管鋳型法より精緻に描出された三次元的網脈絡膜血管像に深く感銘を受けた。眼底学に衝撃を与えたこれらの名著は,いずれも清水弘一先生によるものである。

 本書は,清水先生が監修を担い清水門下にあった米谷新先生が編者を務めており,眼底のプロが今まで培った高度な造影技術と豊富な知識を惜しげもなく総動員して書かれた本である。

 およそ200頁のうち1章から6章までの60頁は総論で,7章から15章までが各論に割り当てられている。第1章の「脈絡膜の解剖と生理」は,一見不規則な脈絡膜血管の特徴をわかりやすく説明している。次章では,網膜色素上皮があるのになぜ脈絡膜造影が可能なのか,ICG赤外蛍光の特徴が簡潔に述べられている。撮影装置の違いによる読影時の注意点などにも触れており,これからICG赤外蛍光をはじめようという初心者にはありがたい。

 第3章は,お家芸のパノラマ撮影と高速撮影が盛りだくさんである。

 パノラマ写真には,中心窩から周辺部に至る脈絡膜血管網の分布パターンが見事に造影されている。きれいな写真を見ながら楽しく学べること請け合いである。

 第4章では,脈絡膜の加齢変化を正面からとり上げている。病的変化に脈絡膜がどのように反応するかを論じているのが第5章で,少しミステリアスな「光る血管」の第6章もワクワクしながら通読できる。

 各論の目玉は第7章の「脈絡膜新生血管」で57頁を割いている。古典的な加齢黄斑変性にはじまりポリープ状脈絡膜血管症と続き,最近注目されている網膜血管腫様増殖(retinal angiomatous proliferation)についても触れ,強度近視,網膜色素線条症と続く。

 第8章以降には主な脈絡膜疾患の典型的なICGがほとんど網羅されている。これらのすべては紹介できないが,「こんな病気のICGはどうなのだろう」と困った時,頼りになる助っ人として気の利いた助言をしてくれるに違いない。

 もう1つ見逃せないのがtea time。全部で14編収録されているが,肩の凝らない軽快な文章で,なるほどそうだったのかと思わずうなずいてしまうような逸話がぎっしり詰まっている。これだけを拾い読みをしても十分に元をとった気分になる。

 ICG赤外蛍光は撮影手技が若干複雑なため,誰もが気軽に行える検査ではない。しかし,これにより今まで未知の世界に埋もれていた情報が手に入るようになったため,眼底疾患の解釈を飛躍的に発展させる可能性を秘めている。本書は,通読によし,拾い読みも可,写真集のつもりで暇に任せて眺めてみるのも悪くない。眼科医ならばぜひとも手元に揃えておきたいイチ押しの本である。

A4変・頁204 定価21,000円(税5%込)医学書院


そこが知りたい! クリニカルパス

日本クリニカルパス学会 監修
日本クリニカルパス学会企画委員会 編
山中 英治,副島 秀久,今田 光一,岡田 晋吾 編集委員

《評 者》大道 久(日大教授・医療管理学)

クリニカルパスに取り組み, 一層発展させるための必読の書

 近年,クリニカルパスほど診療の現場で大いに受け入れられ,急速に普及したマネジメント・ツールはないといってよいだろう。専ら医師の指示待ちの医療から,全職種による計画的・組織的診療への移行を促進させた功績はきわめて大きいと言わなければならない。

 本書は,そのクリニカルパスの検討と普及に主導的に取り組んできた「日本クリニカルパス学会」が,発足当初から運営してきたメーリングリストにおいて,全国の病院からの問い合わせや意見交換の中から,医療の質の向上や合理的な医療を実施するうえで重要と思われる問題や課題について編集・整理したものであるという。

 Q and A形式で取りまとめられた内容は,パス導入時の院長のリーダシップの役割からはじまり,医師の積極的関与に向けた対応の仕方や院内意識改革の具体的方策へと進み,全病院的な導入手順,教育・研修の実践と,導入当初の基本的な課題にどう対応するかが,きわめて具体的かつ苦労した経験に基づいた説得力ある文脈で語られている。特に,医師側の抵抗をどのように受け止めて新たな院内体制を構築するか難渋している病院には,大いに役に立つものと思われる。

 本書はパスの作成手順とパス大会など病院としての対応について言及はしているが,パスの事例集ではないので個々の疾患への適用について検討しようとする場合は別の対応が必要である。しかし,本書はパスの導入に伴う医師・看護師等が記載する診療録をはじめとする医療記録のあり方を解説し,より合理的な記録方式や電子カルテへの発展の方向を示しているという意味で,むしろ意義が大きいと言える。

 また,パスの電子化にも紙面を割き,診療報酬や入院診療計画書との関係にも明確な方向を示しており,改めてパスの医療における波及効果が大きいことをうかがい知ることができる。そして,バリアンス分析とアウトカムの設定,ベンチマークと臨床指標など,医療の質評価としてのツールの有用性を示し,クリニカルパスの今後の発展の方向も示唆している。

 さまざまな制度改革や医療費抑制で,診療の現場において有効で合理的なマネジメント手法は必須となっている。クリニカルパスの有効性は誰もが認めるところであり,いまやなりゆき任せの診療手順は,医療経営の観点のみならず受療者の立場からも容認できない状況となりつつある。本書は,これからクリニカルパスを導入しようとする病院のみならず,さまざまな取り組みの経験を踏まえて一層の発展を期するための必読の書といえるだろう。

B5・頁172 定価2,625円(税5%込)医学書院


高齢者のための和漢診療学

寺澤 捷年 編

《評 者》秋葉 哲生(慶大客員教授・東洋医学)

西洋医学の健全さを 保つためにこそ漢方医学は必須

 この本を手にして,出版物としてのあまりのまとまりのよさに同種の著述を手がけている者として多少のねたましさを覚える,というのが正直な感想である。本書は,21世紀のわが国の医療における東洋医学の占める位置を,明確に,かつ実証的に350頁余のなかに凝縮して示してみせた。

 編者の寺澤捷年氏については多く語るを要しないだろう。昭和54年から富山医科薬科大学の和漢診療部・和漢診療学講座を率いて多くの俊秀を育て,今日のわが国の漢方医学隆盛の推進力となった。医学教育のモデルコアカリキュラムに「和漢薬を概説できる」という一項が入り,漢方医学をアカデミズムの舞台に引き上げた功績は何人も否定することはできない。最近では,21世紀COEプログラム「東洋の知に立脚した個の医療の創生」のリーダーとして,より広範な活動が期待されている。

 本書の構成は,寺澤氏による冒頭16頁までの概論部分と,それ以降の寺澤氏麾下の全国で活躍している22名の臨床家による分担執筆部分とからなる。分担執筆部分は,高齢者に見られる病的状態を,ときには診断名でときには状態名で柔軟に分類して症例を示しつつ主題を展開している。その結果,他領域とくらべて独自性の強い高齢者疾患の特徴が的確に明らかにされているのは見事である。

 ことに西洋医学では用いる薬剤すら見当もつかないような“漢方的病態”に対して,古典の記述を手がかりに方剤を適用し症状を改善させるというプロセスを目の当たりにすると,だれしも漢方治療はわが国の医療に不可欠であるとの思いを深くするにちがいない。いや,西洋医学の健全さを保つためにこそ漢方医学は必須であると表現するのが適切だろう。ここには,洋漢統合というような言葉すら過去へ追いやるほどの,事実のみが持ち得る訴求力がある。

 各論の輝かしさに幻惑されるかもしれないが,評者にとって真に本書の存在感をおぼえた部分は冒頭16頁の概論であった。大学教育における漢方医学理論が執筆者寺澤氏の念頭に置かれているのは明らかである。立脚点は明快で,陰陽も五臓六腑も気血水も,できるかぎりこれまで積み上げた氏の教室の基礎研究の成果から説き起こして解説を試みている。文面に多少の迷いはみられるものの,このように伝統医学的術語を理解して成功する地点にはこれまでだれも到達したことはなかった。

 概論に関心を寄せる読者もあり,一方,各論部分に強く魅かれる読者もあろう。どちらにしてもけして御損はないことを,仲人口でなく,評者としてお約束したい。しかし,類書の刊行を構想している向きには,大変手ごわい先行者が現れたものである。よほどの内容がない限り,企画書は陽の目をみない公算が大になったということだけは肝に銘じる必要があろう。

A5・頁384 定価4,725円(税5%込)医学書院


新 ことばの科学入門

廣瀬 肇 訳

《評 者》加我 君孝(東大教授・耳鼻咽喉科学)

ニューロサイエンスや音楽・ 聴覚心理学とともに発展した 話しことばの科学を わかりやすく解説

 原題『Speech Science Primer, 4th Edition, Physiology, Acoustics, and Perception of Speech』は,元東京大学医学部音声言語医学研究施設,音声言語病理部門の教授であった廣瀬肇先生が渾身の力をこめて翻訳されたものである。明快でわかりやすい優れた翻訳で読者の理解を容易にしている。

 本書の構成はユニークで,第1章は“ことば,言語,思考”ではじまる。われわれは言葉なくして深く考えることはできないので,言葉は思考の道具と呼ばれるが,話し言葉も書き言葉もその前に思考という準備の過程がある。思考なくして言葉はなく,言葉なくして深い思考もない。本章では難解な言語と思考についてわかりやすく,かつ興味がもてるように工夫されている。小生も改めて理解が深くなった気がした。第2章は“ことばの科学の先駆者達”である。言葉の音響的性質について19世紀のHelmholzの研究からはじまり,現代の研究者についてまで紹介している。第3章は“音響学の基礎”で,音の生理学的側面について聴覚生理的な立場から解説されている。第4章は“ことばの生成 1.生理学的基礎:神経支配,呼吸および発声”で,神経生理学的,呼吸生理学発声の生理学の基礎的な解説である。第5章は“ことばの生成 構音とことばの音の性質”は本書の中で最も多くページが割かれている。構音がどのようにして作られるか解剖学的な側面と音響的な面,さらに何種類ものフィードバックのメカニズム,そしてことばの生成モデルと文の生成モデルへと展開する。第6章は“ことばの知覚”について解説されている。ことばには意味があるが,これがどのように聴覚認知されるのか内耳から脳に至るまでわかりやすく記述されている。第7章は“ことばの科学の研究機器について”である。この領域の研究にはコンピュータが不可欠であること,中でも音声を目で見るスペクトグラムが重要である。他にわが国で開発された電気的パラトグラフも紹介されている。本書を便利な手引きとしているものに,補章の“耳で聞く資料集”がある。本書は“音声”を扱っているので,原出版社のホームページにアクセスすることによってウェブサイト上で本書の音声サンプルを聞くことができるようになっている。巻末の用語解説も便利である。

 本書はもともと米国の聴覚言語障害や音声科学のコースをとる学生用に書かれたもので,わが国では言語聴覚士の教育テキストとして,さらに医学や音声・言語の心理学を学ぶ学生の基礎テキストとして,理解のための座右の書として重宝がられるであろう。小生は研修の頃,ベル電話研究所のデニッシュとピンソンの書いた『話しことばの科学―その物理学と生物学―』(原題:The Speech Chain)を愛読したが,その時代に比し本書で“話しことばの科学”自体がニューロサイエンスや音楽・聴覚心理学とともに広く深く発展したことに感銘を受け,ここに推薦する次第である。

B5・頁280 定価6,510円(税5%込)医学書院


画像診断ポケットガイドシリーズ
脳 Top 100 診断

Anne G Osborn 編著
百島 祐貴 訳

《評 者》蓮尾 金博(国立国際医療センター・放射線診療部長)

単なる翻訳書にとどまらない 初学者にも使いやすいガイド

 本書は全米出版社協会のBest Textbookに選ばれた“Diagnostic Neuroradiology”の著者であるAnne OsbornによるPocketRadiologistシリーズの“Brain Top 100 Diagnoses”を慶應義塾大学医学部放射線診断科講師の百島祐貴氏が翻訳したものである。

 実は若手のためにすでに購入していた元本が批評子の手元にあったことから,両者を比較してみた。まず手にとって見ると,大きさはほとんど同一で白衣のポケットにすっぽり収まるサイズである。厚みは若干厚くなっている。

 本を開くと,索引の次に本書の使い方が記載されている。ここにはレイアウトの説明のみならず,疾患の探し方が例示しながら解説されている。辞書の凡例のようであるが,100項目とはいえ便利な使い方を最初に説明するのは親切である。続いて,本書で用いられる主な略語が一覧として掲載されている。これらの多くは神経放射線診断に携わっている者には常識的な事項であるが,初学者には参考になるであろう。

 本文のページを開くと,すべてのページの肩に疾患分類が記載され,その下に各章の中の配置順を示す番号が振られている。これだとページをぱらぱらと繰るだけで目的の項目を簡単に探し出せる。本文は箇条書きで記述され,1疾患につき3ページで構成されている。そして3ページの中に各疾患の基本事項,画像所見,鑑別診断,病理,臨床,さらに文献を,写真やイラスト付でまとめてある。

 記述内容はさすがAnne Osbornによるもので,日々の診療に利用するのに必要にして十分である。箇条書きの利点は多くのことを狭いスペースに詰め込むことができることであるが,これだけの内容を盛り込むのは箇条書き以外では不可能であろう。

 なお,本文中の用語の解説が訳注として下段に随時記述されており,初学者にとってわかりやすいよう配慮されている。図は写真とイラストの両者が使用されているが,写真は各々の疾患の特徴をよくあらわすものが厳選され,イラストは疾患の理解に役立つ美しいマクロ像がリアルに描かれている。最後の索引では,疾患索引と用語の索引がそれぞれ和文と英文とで記載されている。

 いかに内容が優れていても,使い勝手がよくなければ,よい本とは言えない。その点,本書は元本にはないさまざまな工夫が施されており,大変使いやすくなっている。単なる翻訳書ではなく,改良版である。本書はこれから放射線医学を勉強しようとする人から,専門医試験,認定医試験を受けようとする人,さらには神経放射線診療を行うすべての人に役立つものと思われる。1冊手元に,いやポケットに入れておくことをお勧めしたい。

A5変・頁360 定価5,250円(税5%込)MEDSi