医学界新聞

 

医療者と工学者の連携で未来の看護を

シンポ「先端生命医療および工学との融合による新しい看護開発」より


 シンポジウム「先端生命医療および工学との融合による新しい看護開発」(座長=金井Pak雅子氏,柳修平氏:いずれも東女医大)が3月7日,東女医大看護学部で開催された。医学・看護学の発達において医療者と工学者の連携が重要性を増す中,日米の研究者が参加者とともに活発な議論を繰り広げた。


医療提供体制の現状打破に テクノロジーの活用を

 シンポジウムに先立ち,2名の演者による講演が行われた。最初に,看護師であり,ヘルスインフォマティックス(健康情報科学)分野で著名なジェームスP.ターリー氏(米国テキサス大)が講演。これはテキサス大からのインターネットによる遠隔参加であった。

 「先端生命医療における看護の役割――ヘルスインフォマティックスの活用」と題して講演したターリー氏は,最初に日本における急速な高齢化や労働力の減少,病院主導の医療提供体制を概括。そのうえで,「これ以上労働量を増やすのではなく,賢明な方法を考えなければ問題は解決できない」と分析した。そして,賢明な方法のひとつとしてテクノロジーの活用の重要性を強調し,特にゲノム学,ロボット工学,情報技術,通信技術の4つは医療に深い関係があると指摘し,それぞれの分野の最新動向を紹介した。

外科手術の進歩と 再生医療の未来

 続いて,東女医大の先端生命医科学研究所所長を務める岡野光夫氏が登壇。「先端生命医療の現状と看護への期待」と題して,自施設での研究の現状と将来を語った。同研究所では,オープンMRI,リアルタイムナビゲーション装置を備えたインテリジェント手術室を設置し,術中MRIにより,正常な細胞まで傷つけない手術を支援。すでに約250例の手術がなされているという。また,マイクロレーザ手術ロボットの活用により,これまで以上に正確にレーザをあてることができることも紹介した。

 再生医療については,心臓や肝臓などの複雑な臓器の再生のカギを握る「細胞シート工学」と呼ばれる新技術を紹介。ラットの心筋梗塞モデルに心筋パッチを移植し,心筋梗塞の改善を図った実験を動画で示すと,会場からは感嘆の声があがった。さらに医薬の概念についても言及し,従来の低分子医薬からバイオ・遺伝子医薬へ,さらに次世代では細胞医薬や組織医薬に進化すると説明。「ケアの仕方も変わってくる,新しい時代をみなさんでつくりあげてほしい」と参加した看護師たちに呼びかけた。

 その後のシンポジウムでは,ターリー氏,岡野氏が会場の参加者を交えて討論した。その中では,労働力としてのロボットと看護の役割に話が及び,ロボットによる食事の提供などでケアの質が下がるのではないかと危惧する声が会場から出た。岡野氏は,「技術が取って代わる仕事があれば,そのぶん本来の看護の役割が果たせる」と述べ,ターリー氏もこれに同調し,開発の過程で看護の意見を取り入れていくことも重要であると語った。

 また,教育においては,医学・看護学・工学と縦割り型のシステムでは限界があるとの指摘がなされ,次世代に向けて単位互換を容易にするなど,大学の改革を求める提言がなされた。