医学界新聞

 

インタビュー

看護国試の新傾向は継続されたか

青木 きよ子氏(順天堂大学教授)


 前回の看護国試は,改定された出題基準の適用や必修問題の導入などの大きな変更点があり,今回はそれらが踏襲された模様だ。ただ,過去を振り返ってみれば,問題の質と難易度が一定せずに教育現場が混乱したこともあり,前回の傾向が継続されたのかどうか,注意する必要がある。

 弊紙では昨年,受験者6人の座談会を企画し,新しい国試の傾向を分析した(2582号)。今回は,その座談会で司会を担った青木きよ子氏(順大教授)へのインタビューを企画。前回との比較を中心に,第94回看護国試の問題を分析した。


必修問題は適切なレベル
実践力求める一般問題が増加

――出題形式ごとに,感想をお聞きしたいと思います。まずは昨年導入された必修問題について,前回は「適切なレベル」という声が多かったですが,今回はどうでしたか。

青木 前回に引き続き,必修問題に関しては非常に基本的な問題が出されました。合格基準の8割も妥当な線だと思います。

――昨年の受験者による座談会では,出題基準の小項目に忠実だったというお話でしたが,今年もその傾向は変わりませんか?

青木 そう思います。ただ,これは一般問題にも言えることですが,出題基準の同じ中項目から複数出題されているところがありました。医療事故を防ぎ,利用者の安全性や看護の質を保証するという出題意図はわかりますが,もう少し出題内容を散らばらせてもいいのかなと思いました。

――次に一般問題は,昨年に引き続き,午前が専門分野,午後が専門基礎中心だったようです。昨年は,保健医療福祉を統合した広い視野を求める問題や時事的な問題が多く出される傾向があったと分析されていました。

青木 今年もやはり,保健医療福祉の知識がまんべんなく問われていたと思います。それと,検査・治療などの実践的な援助内容に関する問題が目につきました。あとは,健康増進法や介護保険法などの法的な知識を問うものが多かったですね。

 実践的な援助内容の例で言えば,塩酸リドカインとブドウ糖液をあわせた点滴静脈注射の滴下速度を問う問題がありました。実習の時にはここまで具体的に実施できる経験はないと思いますが,医療安全を考えた場合には重要な計算だと思われました。

――難易度は妥当な水準でしょうか?一般問題と状況設定問題で269点中165点以上が必要でした。

青木 中には「ここまでの知識を求める必要があるのかな」という問題も多少は含まれますけれど,6割が正答率のラインだとすれば,これも妥当な範囲でしょう。

――「マイナーな疾患が出た」という受験者の声を聞きましたが,これは特に今回に限らず,毎回似たような状況でしょうか。

青木 そうですね。学生は主要な疾患を中心に勉強をしがちです。ですけれども,機能障害の視点で問題が出ていますから,疾患ベースで勉強しても対応できない。疾患に囚われすぎないことが大事です。

――基本的な看護・医学の枠組みを理解していれば,初めて出会うマイナーな疾患でも,問題は解けるということですね。

青木 冷静に考えれば解けます。あと気づいたのは,午前の一般問題は出題基準に則って整理できるのですが,午後の一般問題,専門基礎の部分は基準のどこに該当するのかがわかりづらい問題が見受けられました。解剖生理の知識をストレートに問う問題は少なく,複合型の問題が多くて難しかったので,正答率も落ちたのではないかと思います。厚労省は問題ごとの正答率を出しているはずですから,午前の一般問題と差が開きすぎないよう,適切なレベルにあわせていってほしいと思います。

――次に状況設定問題です。「答えを絞りきれない」という声が毎年出ます。

青木 今年は看護観を問うような,どうにでも解釈できる問いは少なかったので,あまり混乱することはなかったと思います。難易度も例年どおりです。「メニエール病が出るとは思わなかった」と学生は言ってましたが,平衡感覚障害者の看護や平衡感覚機能の検査はたしかに出題基準の成人看護学の部分には載っています(大項目「感覚機能障害をもつ患者の看護」における小項目)。

 それと,一時期は病態のアセスメント能力を問われた時期がありましたが,いまは「アセスメントしたうえで,どんな援助が必要か」という,援助に結びつけた問い方が多いです。そういう意味ではより実践的であり,統合した判断力を求められ難しいかもしれませんね。

――アセスメント能力を前提とした問題ですね。

青木 医学というよりは看護の視点で問う。でも決してアセスメントを軽視しているのではなくて,それを統合した問い方になっていると思いました。

小項目に沿った出題内容 実習体験も重要に

――最後に全体的な傾向と対策をお聞きします。前回の大きな特徴として,出題基準の小項目に則って整理されていたというお話でした。今回もその傾向は続いたと考えていいでしょうか。1998年に最初の出題基準が出た時は,当初やはり小項目に則っていたのに,年を追うごとに基準から離れていったという指摘があります。

青木 前回からの出題傾向が継続され,出題基準に忠実だったと思います。出題基準の小項目は重要キーワードと考えて学習しておかないといけません。あまりにも出題基準に囚われた学習では問題がありますが,国家試験を受けるためにはやはり必要です。私どもは補講の際に出題基準を意識して,講義でできなかった部分はそこでおさえているのですが,学生は「補講がとても役立った」と話していました。

 あと,学生は「実習で経験したことを思い出しながら解答した」と言っていました。机上の学習だけでは不足ということでしょう。特に,今回は検査・治療に関する問題が多かったのですが,こうした実践的な問題を解くには,実習場で体験したり,ほかの学生の経験を共有したりする機会が重要になってくると思います。

――必修問題に関する対策の必要はありますか?

青木 いまの難易度なら,特に必修に絞った対策の必要はないと思います。ただ,この難易度が維持されるのかが教員,学生にとって心配です。この難易度で8割を基準にするのは「基礎教育で最低限保証するレベル」として妥当ですし,出題のレベルをこの程度に維持してほしいと思いますが。

――プール制が進んでいますが,今後の国試への提言をお願いします。

青木 今年の出題でも問題によっては,正答率にばらつきがあると思います。問題の中には100%近いものがあるでしょうし,相当低いと予想される問題も見受けられます。一般問題においては,正答率が6―7割の問題をプールしていくと,年によって難易度にばらつきがでることがなくなり,年により合格率が著しく異なるといった状況を防ぐことができると考えます。

――国試を変えていくことで「こういう内容を強化しておかなければいけない」という教育の指標になるとも思うのですが,先ほどのお話に,実習が国試に役立ったという話がありました。そういう意味では,新人看護師の実践能力の育成に向けて,教育にもいい効果が出るかもしれませんね。

青木 これまで問題が4年制大学の受験生に有利な内容と言われることが多く,確かに保健医療福祉の広い知識を問うような問題では保健師の教育を受けている4年制大学は有利かもしれません。ただ,今回のように実践能力を求める問題が増えれば,実習を重視している教育機関などは合格率があがり,大学教育も実践力を強化するのかなと思いました。

――以前は国試の傾向が読めずに教育現場も混乱しましたが,前回今回とよい傾向ですね。ありがとうございました。(このインタビューは東京アカデミー再現の試験問題をもとに行いました。)


青木きよ子氏
順天堂看護学校卒,筑波大大学院教育研究科修士課程修了。医学博士。順天堂医療短大講師,助教授を経て現職。数年来,学内で国家試験委員を担当し学生の指導に当たっている。専門は成人看護学。