医学界新聞

 

画像診断の診療報酬上の問題点が議論に

第28回日本脳神経CI学会開催


 さる3月18-19日,第28回日本脳神経CI学会が,松井孝嘉会長(松井病院)のもと,かがわ国際会議場(香川県)ほかで開催された。「脳機能マッピングとニューロナビゲーション」「高磁場MRIの現状 7テスラと3テスラのMRA」「脳腫瘍の組織像と画像所見の関係」を“3本柱”として開催された今回は,日々進歩する画像診断技術をどう臨床に活かしていくかについて,深い議論が交わされた。


■3TMRIの臨床的意義が強調される

 3TMRI(3テスラのMRI。テスラは磁気の強さを表わす単位。1テスラ=10000ガウス)は,従来の1.5TMRIを超える画質を持つ画像診断装置として注目を集めている。シンポジウム「3TMRIの臨床応用」では,脳動脈瘤,脳腫瘍などに対する画像診断として,3TMRIがいかに活用できるかについて,各施設における実際の取り組みが報告された。

急性期脳卒中では第一選択

 佐々木真理氏(岩手医大)は,3TMRIの臨床上での特徴を概説。高いS/N比(信号雑音比)が画質向上をもたらすこと,また磁場の強さがもたらす微小血管や微小出血の描出などを大きな利点としてあげる一方で,DWIやT1WI画像を劣化させることや,RF発熱が1.5Tの4倍となること,騒音の問題など,デメリットについても指摘した。佐々木氏は1.5TMRIが高品質で完成されつつあることから,現状では3TMRIの臨床的意義はまだ確立されたものであるとは言えないとし,今後の臨床研究を待ちたいと述べた。

 一方,宇野昌明氏(徳島大)は,急性期脳血管障害患者に対する3TMRIの使用について自施設の取り組みを紹介した。徳島大脳神経外科では,2004年3月より3TMRIを導入,急性期脳卒中患者に対して第一選択の検査法として使用しているという。宇野氏は3TMRIについて「1.5Tに比べて短時間で鮮明な主幹動脈の描出ができる」「病巣以外にも,テンソル画像を短時間で測定できる」などを大きな利点とした。一方,脳幹の虚血巣では1.5Tと比べて画像の歪みが強く,診断に苦慮することが多かったと指摘。また頸部MRAの評価が不鮮明なものもあったという。宇野氏は,これらのデメリットの改善が必要であるとしながらも,急性期においては短時間で画像描出できるメリットは捨てがたいとし,3TMRIの臨床での有効性を強調した。

発症予測・治療に期待

 3TMRIによる診断能向上・診断速度向上による効果については,脳動脈瘤や脳腫瘍においても同様に報告があった。一方,3TMRIが持つ高い描出能力によって,従来解明できなかった疾患の病態解明・予防にも期待が集まっている。及川博文氏(岩手医大)はパーキンソン病,アルツハイマー,多発性硬化症などの変性・脱髄疾患への3TMRI臨床応用について解説した。及川氏によると,高コントラストSTIR画像などの3T固有の可視化手法や,それぞれの画像の解像度向上などにより,これらの疾患の早期診断や病態解析が進む可能性があるという。特に,アルツハイマー病の診断では,1.5Tでは描出困難だった,後部帯状回や無名質などの軽微な変化が描出できるようになり,発病の予測の可能性がでてきたと述べた。

 3TMRIの臨床的価値については,特別講演で登壇した中田力氏(新潟大脳研統合脳機能研究センター)も言及。機能画像について最新の知見を紹介していた中田氏は,3TMRIについて,構造画像診断に用いる範囲ではベストと述べる一方,fMRIなど,機能画像診断で用いるには,改善すべき課題がまだ残っているとした。

■画像診断の保険点数適切化を求める

 昨今の医療保険財政を巡る状況は極めて深刻であり,そのことは画像診断についても例外ではない。シンポジウム「画像診断の保険点数は適切か」では,近年の画像診断の診療報酬改定の話題を中心に,今後の保険医療における画像診断のあり方が議論された。

2002年の厳しい改定

 川渕孝一氏(東医歯大)は,まずここ数年の診療報酬改定におけるCT・MRIの撮影点数の推移を概観。これまであまり手をつけられることがなかった画像診断に,2002年の改定ではMRIで3割の減算,2004年には特殊MRIも減算されるという,厳しい改定となったことを指摘した。

 川渕氏はこの上で,医療産業としての視点からこの保険点数を評価。1年当たりの装置の減価償却費,技師人件費,メンテナンス費その他を計算すると,1億5000万円のMRI装置を購入した場合,耐用年数(6年)内で投下資金を回収するには,1回の検査当たり1万3866円の収入が必要となる。しかし,現行の保険点数で試算するとMRIの1検査あたりの平均収入は1万1677円と指摘,多くの施設では保険収入でまかなえていない現状を明らかにした。

質の高い医療を確保するために

 また,齋藤孝次氏(釧路脳神経外科病院)は,こうした保険医療費の抑制政策が,安全な医療の提供を妨げていると指摘。現行の保険制度では,機器の性能が問われないため,欧米各国に比べて安価で性能の低い診断機器が導入される傾向がある。齋藤氏はこうした現状を批判し,「高性能機器はより質の高い診断・治療が可能であり,結果的には医療費抑制に寄与するはずである」と述べ,現行の制度の不備を指摘した。

 堂本洋一氏(伊勢慶友病院)もまた,「3DCT画像等の作成にはCT機器だけでなく,高価なワークステーション構築のための費用と労力,大量のデータ保存のためのメディアが必要であるが,それについての保険点数上の評価はない」とし,同様に画像診断に関する保険点数の不適切さを訴えた。堂本氏は「よりよい医療を提供すればするほど,経済的にマイナスになる」と述べ,国民的な議論としていくことが必要だと述べた。

 また,堂本氏は,この後のディスカッションでも,「医師や国民が医療にどのような関心を持っているのか」を理解し,「自分の提供する技術にどのような理解を求めていくのか」について考えていく必要があると述べ,今後,この問題を社会問題として訴えていく必要があると述べた。