医学界新聞

 

看護人員体制に関するエビデンス集積を

-「医療安全確保のための看護人員体制とアウトカムに関する日米セミナー」より


 「医療安全確保のための看護人員体制とアウトカムに関する日米セミナー」が2月19日,東京・日本プレスセンタービルで開かれた。これは2004年度厚生労働科学研究「医療安全確保のための看護人員体制とアウトカム指標の検証」の主任研究者である井部俊子氏(聖路加看護大学長)の発案によるもので,「報道関係者を通じ,看護界の現状を一般市民に知ってもらいたい」という願いで開催された。


 セミナーの冒頭では井部氏が,看護人員体制とアウトカムに関する研究で著名なリンダ・エイケン氏の「看護への不十分な投資こそが医療ケアの質と安全に関する問題の核心である。このことを証明する多くのエビデンスを集めるのが必要」という言葉を紹介。「(人員不足を)ぼやくだけではなく,一般の人々の健康や安全の重責を担う看護師が,どういう戦略を立てるべきかを考えたい」と抱負を述べた。

ICU化する一般病棟, 看護師の離職が加速

 セミナーは4部構成で行われた。第1部では,医療法や診療報酬届出要件に定められた看護師の配置基準などを井部氏が概説。続けて,福留はるみ氏(神奈川県看護協会)が,急性期病院における勤務体制・医療安全対策に関する調査結果を報告した。141病棟1987人の看護職を対象とした同調査によると,深夜と早朝に業務が重なる場合が多く,特に多忙感は朝方にピークを迎える。また,患者の急変・死亡,緊急入院は深夜にも発生していることから,「これら負荷の高い業務が発生した場合,対応できる人員の少ない深夜勤でのリスクは高い」と分析した。

 第2部では,嶋森好子氏(京大病院),陣田泰子氏(聖マリアンナ医大)が口演。嶋森氏は,患者の状態から必要な看護サービス提供時間を測る「看護必要度」や,診療報酬制度の「夜間勤務等看護加算」について説明した。また,3つの国立大学病院,27の市中病院の調査結果から,ICU基準による重症患者(2対1の看護体制が必要とされる患者群)がハイケアユニットや一般病棟にも多く存在するデータを示し,「患者の重症化と看護師の過重労働」という病棟の現実が明らかにされた。

 陣田氏は部長就任後の2年間で100人の増員を成し遂げたが,結果は「焼け石に水」。近年は在院日数短縮,院内IT化のための度重なる会議により,さらなる過重労働が生じていると述べた。さらに,看護師の離職理由を調査した結果,「健康上の理由」が年々増加していることから,「このままでは離職が加速する」と警鐘を鳴らした。

米国における研究の現状

 第3部では,ナンシー・ドナルドソン氏(カリフォルニア大サンフランシスコ校),パット・マックファーランド氏(カリフォルニア看護リーダー協会)が登壇。「エビデンスに基づく変革」の重要性を強調し,患者のアウトカムと看護師配置に関する研究の現状を述べた。

 米国ではこれらデータの入手先が多岐に及び,肺炎や転倒などの有害事象と看護師配置を関係付ける研究も多い。一方で,データ入手先や定義がそれぞれ異なるため正確性が確保できず,標準化した分析方法とツールの必要性が指摘されるようになった。そこで1990年代初頭,米国看護師協会が看護師配置とアウトカム測定に用いる指標を定めるため,看護の質のレポートカード作成に着手したという。

 カリフォルニア州で看護師対患者比率が規制された際には最適比率を巡って調整が難航した教訓から,標準化された測定方法やデータ分析の重要性を説いた。現在は,妥当性と信頼性の高いアウトカム・データベースの構築を目指す「カリフォルニア州看護成果連合(CalNOC)」が結成され,州内の170病院が参加。統一された指標に基づくデータ収集・分析がなされている。

研究方法の標準化に向けて

 最後の第4部パネルディスカッションでは,演者らが会場の参加者を交えて活発に意見交換した。議論の中では,フロートナースの夜勤での活用など,シフトを可能な限り少なくする仕組みづくりが提案された。嶋森氏は,5か国の夜勤体制を調査した経験から,「1週間に3つのシフトが入っているのは日本だけだった」と話し,個人の希望を取り入れた柔軟な勤務体制を作る時期にあると指摘した。

 また,CalNOCのような病院間でのデータ収集・分析が日本の大学病院でも行われつつあるが,現状ではデータ収集方法が標準化されておらず,比較分析に活用し,さらに社会にアピールできるものになっていないことも課題にあがった。井部氏は「CalNOCのコードブックも参考にしながら,データベースをつくることを検討したい」と今後の指針を示した。

 続けてドナルドソン氏は,「標準化された研究方法を開発するよい機会。これは簡単なことではないが,私たちにはエビデンスを集めて変革していきたいという希望があった」と発言。日本版データベース・プロジェクト発足に向けてエールを贈った。