医学界新聞

 

座談会

臨床試験データマネジメントの現状と展望

大橋 靖雄氏 《司会》
(東大大学院教授・生物統計学/疫学・予防保健学)
福田 治彦氏
(国立がんセンターJCOGデータセンター長)
朴 成和氏
(静岡県立静岡がんセンター消化器内科部長)
辻井 敦氏
(アムジェン株式会社取締役執行役員)


 2003年7月末の改正GCPによって,これまで企業しか実施できなかった医薬品の治験を,医師・歯科医師自らが企画・実施することが可能となり,臨床試験の中核をなす「データマネジメント」が注目を集めている。

 本紙では,1980年代後半に臨床試験データマネジメントをはじめてわが国に紹介した大橋靖雄氏に司会をお願いし,研究者主導臨床試験を支援する立場から福田治彦氏,現場で臨床試験を担う立場から朴成和氏,企業の治験に長年携わっている立場から辻井敦氏にご出席いただき,臨床試験データマネジメントの現状と今後について話し合っていただいた。


大橋 医学書院から『臨床試験データマネジメント-データ管理の役割と重要性』,『米国SWOGに学ぶがん臨床試験の実践-臨床医と統計家の協調をめざして』という2冊の本が発行されました。私が両方の序文を,偶然書かせていただいたということで,本日の司会をさせていただきます。

 この2冊の本が,ほぼ時を同じくして出たというのは,大変時宜を得たことだと思っています。といいますのは,Evidence-Based Medicineのブームの中で,Evidenceを生み出すための臨床試験の重要性が広く認識されるようになったわけですが,残念ながら日本では,臨床試験の実践経験,特に研究者主導の臨床試験については経験が乏しく,それを行うための基盤も貧弱であったわけです。この2冊の本は,いかに臨床試験を計画し,実践するかについて,試験にかかわる多くの人たちの参考になる,大変よい教科書だと思います。これらをご紹介するのにあわせて,臨床試験の現状と今後の展望について議論してみたいと思います。

 最初に,今日のテーマでもある「データマネジメント」という言葉は,馴染みの薄い言葉だと思いますので少し説明をしておきたいと思います。データを集めたり解析するのは,医学に限ったことではありませんが,ここでは医学研究,特に臨床研究,臨床試験に限りたいと思います。どうして臨床試験かといいますと,この分野には利害相反(conflict of interest)という問題が常にあり,逆に言うと改竄などの問題が昔からあり,データの正しさを保証することが非常に重要で,これが他の分野ときわめて違うところです。専門性も必要とされますが,残念ながらその重要性は日本ではほとんど認識されていません。

 臨床試験のデータマネジメントを学問として定義するなら,その目的は臨床試験のデータを正確かつ精密に,そして効率的に,継続性をもって収集し管理する,ということになります。科学の側面もありますが,アートの側面も相当に大きい。そしてそれを,品質保証を伴って行うということになります。

 辻井先生,企業が行う臨床試験を治験というわけですが,そこでデータがどう集められているか,簡単にお話しいただけますか。

■企業の治験と研究者の臨床試験

辻井 臨床試験を行うためには,計画と手順を示したプロトコールと呼ばれるものが作られますが,データを収集する目的でプロトコールに対応して,症例報告書(Case Report Form;CRF)と呼ばれるものが作成されます。臨床試験を行った経過・結果を紙に書いていただいて,それをセントラル側,つまり企業のデータセンターに集めます。その中身がすべて正確で100%要求を満たしているとは限りませんので,必要と思われるチェックをして,問題点,疑問点に関して,もう一度書いていただいた先生方あるいは施設の担当者の方にうかがって,確認をします。紙のままでは処理できませんので,コンピュータでデータベース化して,そのデータを最終的な解析に用いるわけです。その作業を司るのがデータマネジメントです。

大橋 福田先生はJCOG(Japan Clinical Oncology Group;日本臨床腫瘍研究グループ)データセンターのセンター長をされているわけですが,医師主導の研究ではどんな流れになっているか,簡単にご紹介ください。

福田 基本的には,辻井先生のおっしゃったのと同じですが,違うところは研究者である医師自身がプロトコールを作るところです。治験の場合は承認申請のために薬事法という規制(regulation)がかかっていて,GCP(Good Clinical Practice;医薬品の臨床試験の実施に関する基準)に従ってやらなければならないという法的枠組みがありますが,日本の研究者主導の臨床試験には法的な枠組みがまだありません。

 それと,研究者主導の臨床試験では企業の治験ほど人が割けませんので,集めるデータの品質管理についても省エネでやっていくことになります。ボランティア的といいますか,企業の治験の場合は医療機関と契約して,人件費に使える研究費が医療機関に下りますので,CRC(Clinical Research Coordinator)を医療機関の職員として雇用できますが,日本の国費の研究では,医療機関との契約ではなく,研究者に研究費が下りますので,施設の職員としての雇用ができません。ですから,研究者主導の臨床試験でCRCはボランティア的なかかわりにとどまっています。

大橋 そこが実は,データマネジメントひいては臨床試験の質全体をあげていくうえでいちばん問題になっているところではないかと思います。朴先生,静岡ではどうされていますか。

 やはり治験管理室のCRCはほとんどが非常勤職員で,治験による収入から人件費を支払うようになっています。一度病院全体の収入に計上されるので,直接ではないのですが,その範囲内で雇う形になっています。ですから,JCOGなどの医師主導臨床試験を手伝う際には,彼女たちはまったくボランティアになってしまいます。

大橋 アメリカが常によいというわけではありませんが,アメリカのCRCにとっていちばん高いインセンティブは,癌を例にとればNCI(National Cancer Institute)のハイプライオリティ試験で,次が院内で行われる臨床研究,その次が共同研究グループで,企業の治験は最後になります。日本は,まったく逆転している。それが製薬会社主導で,薬事法下でシステムが作られてきた日本の臨床試験の根本的な問題で,そこが意外と認識されていません。

■治験のこれまでの問題点

大橋 日本の治験に大きなインパクトを与えたのは1997年の新GCPですね。何が大きかったかというと,カルテの閲覧を製薬会社ができるようになり,日本のデータでも品質保証がなされるようになった。これをソース・ドキュメント・ベリフィケーション(Source Document Verification;SDV)といいます。SDVとはモニターという人たちが,あがってきた調査票ともとのカルテ,看護記録(これらを原資料といいます)とをつき合わせて問題点をチェックすることです。それで,日本の臨床試験の質は一変し,一方,データマネジメントのコストが一気にあがった。全部人の手によるもので,日本は人件費が高いですから。そしてその全体のプロセスを,製薬会社が監査という形でチェックするようになった。

 研究者主導の研究ですと,モニタリングや監査までは要求されていないし,SDVまでは行われているわけではありません。進んでいるJCOGでも,一部の抜き取りですね。

福田 そうです。2000年から抜き取りによる監査を行っています。

大橋 他のグループはほとんどまだやっていないという状況です。治験のSDVでは非常にていねいに,細かいところも見るようになってきたわけですが,それで現場で困ることが起きてきたわけです。そのへんは朴先生,ご意見があるのでは?

 ていねいといいますか,私たちがいちばん困るのは,その時々に判断したことが,あとで振り返って不整合があると,「あの時の判断は間違っていなかった」と言いたいですが,整合性を取るために,なんとか解釈を変えて,「試験全体を通して整合性を取れるようにしてください」と要求されます。それが,われわれにとってはいちばん嫌な仕事です。このように無理やりプロトコールに合わせようとするところが,けっこうありますね。

大橋 それはかなり高度な話ですね。しばしば,知識の足りないモニターさんたちと先生方との間に軋轢が生じています。辻井先生の本にも書いてありましたが,現場に行って,「DM(データマネージャ)がこう言っていますから,先生直してください」と。それが,白血球の分画を足すと100%にならないで101%になるとか,そういうことまでチェックすると言います。細かすぎる。そのへんが,実はDMの評判が悪くなったことの背景でもあると思います。

 もう1つ,企業によってSOP(Standard Operating Procedure;標準業務手順書)が違いますので,「こう書けばよいだろう」と思っていると,「うちでは違いますので,こういうふうに判断してください」と言われることがあります。

大橋 過渡期といえば過渡期ですね。本質が見失われて,できあがったもののみかけの整合性を取るため,前向きに作ろうという発想ではなく,できあがりから逆に入っていったところがあると思います。それが一過性であることを期待しますが,ここ数年間に現場で起きたのはそういう問題です。

福田 その件について,今後どう改善していくかというビジョンはあるのでしょうか。

辻井 ビジョンというのは,難しいですが,最初に朴先生がおっしゃった,ある時点で評価したものをあとで直すというのは,私は個人的には直しすぎだと思います。もちろん,明らかに間違っていたものなら当然直すべきですが,その時点までに得られた情報の評価として,こうだったのだということは当然あり得るわけですから。

 臨床では当然ですよね。

辻井 ですから,逆にそういうことをきちんと,「あれは誤りではない」という情報として確認していくのが,本当の姿ですよね。ここまでの情報ではこの判断,ここまで得られたからこういう判断に変わる,ということがきちんと説明できれば,私はかまわないと思います。

大橋 辻井先生のおっしゃるのは,もっともなんですが,必ずしも皆がそう思っているわけではないんですよ。

辻井 現場になればなるほど,端的につじつま合わせをしてしまうのは,非常にお恥ずかしいところです。

 よくあるのは,1コース目と2コース目で同じ有害事象が起こった際に,別の情報が入ったために違う判断を下した時に,「1コース目と2コース目で違う判断を下すのはおかしいです。どっちかを直してください」と言われます。

福田 それは,企業のDM部門がおかしいのか,モニターさんがおかしいのか。

辻井 「おかしい」と言われると,少しかわいそうかもしれないですが,やはりいちばん最初にチェックするのはDMでしょうね。

大橋 臨床試験をきれいなものだと思っているんですよ。しかし,実際の臨床はダイナミックなものなんですね。そこの理解が少し足りないのかもしれない。

 私たちは,最近CRFを作るところから相談を受けたんですが,ブック(book)タイプで,あとで見直して1コース分を書き直すのは大変なので,できるだけビジット(visit)タイプにしてほしいとお願いしました。また,外資と日本の企業では,医師の判断の重みがぜんぜん違っていて,外資系企業のほうが医師の判断を尊重すると感じます。そんなに偉そうにいえるほど医師の判断が常に正しいとは限りませんが,日本の場合は,医師の判断がものすごく軽んじられています。

大橋 それは,臨床試験を頼まれる医師のプロフェッショナリズムが違うからでしょう。JCOGの問題を言っているのではなくて,いままでの治験がそうでした。それは文化で,あまりよくない伝統を引きずっているところがあります。

 ブックタイプのCRFというのも日本の文化なんです。全部まとめて,あとでチェックするわけです。1回のビジット,つまり外来ごとに調査票を書くとなるとたくさんの枚数が必要になって,それを時系列に管理しなければならない。これは,日本の臨床現場ではできませんでした。ところが,アメリカの場合はコーディネーターがいるからそれができた。

 それから,日本の場合は,経緯がわかるということで一覧性が重要視された。また,臨床試験を専門にコーディネートしてくれる人がいなくて,医師が全部自分の理解できる範囲で,あとで振り返って書いていたということもあります。

福田 アメリカのほうは外来治療が主体だったという理由もあるかもしれないですね。日本は,治験にまで入って治療する人は入院している場合が多かったと思います。

大橋 もう1つは,日本には短期の治験が多くて,長期の臨床試験がほとんどなかった。何年もブックタイプでやることはできないですよね。

 全部のブックを書き終わって,それがチェックされて,何回も戻るというので,そこに膨大なタイムラグが生じて,それが日本の治験の遅れにもつながっていた。文化的な側面がCRFの形態に影響して,それが治験の遅れにまで影響していたという,ちょっとおもしろい現象なんですよ。集めるのはビジットタイプがよくて,一覧性という意味ではブックタイプがよい。両方の文化のよいところを取り入れればよいと思います。

 ブックがやり取りされると,訂正に訂正印を押していましたから,冗談ではなく,ハンコと訂正で紙面が汚れて読めない調査票が行ったり来たりしていたわけです。しかも,郵送できませんでしたから,全部人が持って歩き,コストがかかっていた。

福田 郵送できないというのは,規制があるんですか?

辻井 紙に書かれたものはないです。ただ,郵送は管理体制として不適切というような指導はありますね。

福田 外資はどうなんですか。

辻井 外資もモニターさんが運んでいます。

福田 アメリカでも?

辻井 アメリカでしたら,ファックスでも郵送でも,なんでもOKです。

■EDCへの移行

大橋 日本でも,CRFを直すための行ったり来たりを少なくし,人件費を軽減するために,エレクトロニック・データ・キャプチャリング(Electronic Data Capturing;EDC)がかなり話題になっています。研究者主導の研究では,インターネットを使ったEDCが導入されています。外資系ではすべてEDCにしろという会社もあるわけでしょう?

辻井 はい。すでに何社かは,今後数年をかけて全部移行しようとしていると聞いています。

大橋 その中で,データマネジメント部門はなくなるのかというと,それはとんでもない?

辻井 それはあり得ないでしょうね。データ入力の部分はなくなり,データチェックなどについても,入力と同時にコンピュータで機械的にチェックできる部分が増えますが,全体を通していろいろな次元でみるデータマネジメントが必要になってくると思います。

大橋 EDCで自動チェックできるのは,おおよそ1枚の調査票の中の整合性だけ,式に書けるものだけで,もう少し高度な判断は見なければわからないですね。やはり専門性が必要でしょう。

辻井 あと,入力する時にあまりガチガチにチェックすると,だんだん入れる方が嫌になるということがあります。ある程度ゆるいチェックにしておかないと,現実にはEDCが動かない危険性があります。

大橋 EDCにするとコストが安くなるというのは嘘で,イニシャルコストは1.5倍くらいになるというのが実態のようですね。EDCにすると入力する人が必要になるので,製薬会社は研究者あるいは施設に1.5倍くらいのお金を払わなければならない。効率化はするけれども,決して安くなるものではないですね。JCOGもEDCを計画していますか。

福田 計画していますし,テクニカルにはできる仕組みはもう持っています。ですが,入力したあとの仕組みがまだできていないのと,JCOGは3000人のユーザーのいる大きな組織ですので,そのユーザー・パスワードの管理をどうするかというような問題が解決されないと,実行には移せません。

大橋 認証の問題,広い意味での品質保証の問題が,まだクリアされていないわけですね。それと,厚労省のほうでEDCをどこまで容認するか。だいぶ前向きになってきているようですね。

辻井 そうですね。実際にいくつかの企業が相談に行って,「まあ,これでいいでしょう」という話が出てきているようですから,ハードルが高いわけではないと思います。

■研究者主導臨床試験の課題

大橋 研究者主導の臨床試験の重要性は,皆が認めるところになってきました。JCOGの影響が非常に大きいと思いますが,2000年から,臨床試験に対して国が補助金(厚生労働科学研究費補助金「データマネジメント推進事業」)を出すようになった。下山正徳先生,福田先生の功績ですが,これは非常に大きな一歩でした。

 それらがきっかけとなって,データセンターという研究者主導の研究をサポートする組織ができあがった。癌はJCOGが,癌以外は国立国際医療センターにJCRACという組織が創られて,現在,動いています。

 さらに2003年7月末全面施行の新GCPにより,医師主導治験が始まりました。2005年1月の段階で,4つの治験届けが出されていると思います。これは治験と同レベルの信頼性保証を研究者自身がやっていかなければならない。そうすると,やはりキーはデータマネジメントと安全情報の管理なんですね。きょうは,安全情報管理のことは話しませんが,データマネジメントをどうしていくのかが問題になります。癌の分野ではJCOGもやるんですね。

福田 準備をしています。

大橋 われわれのNPOでも,実は1つ支援をスタートさせたところです。そんなに人は使えないですから,その中でどう効率的にやっていくかが大きな問題です。人を育てなければいけない段階に入ったと思います。

辻井 教育については,技術だけでしたら,そんなに苦労しないで教えられますが,フィロソフィーとか,なぜこんなことをしなければいけないのか,品質管理とは何かというような話を理解してもらおうと思うと,そこがいちばん伝えにくく苦労しています。

大橋 伝えにくいというのは,この分野がまだ学問体系としてできていないということなんですね。もうひとつ止揚しないといけない気がします。

福田 実務の泥臭いところをやらないとわからないし,実務だけだとフィロソフィーの深め方がわからないですね。

大橋 データマネジメントの教育は実践の場がないと意味がありません。それで研究者主導研究をやっているJCOGでも,われわれのNPOでも,実践の場として教育を担い,一方,民間でセミナーを開くというような有機的な連携をしています。

■標準化への期待

辻井 あとは標準化の方向性を,きちんと作り上げていければいいですね。大量のデータを処理していけば,コストはどんどん下げられます。医師主導治験であっても,企業の治験であっても,本質的には変わらなくて,項目数や量が変わるだけなので,皆で協力しあえばコストがけっこう抑えられる気がします。

大橋 領域ごとの標準フォーマットみたいなものがあるといいですが,なかなか難しいですね。NCIがやろうとしましたが,結局,よいレベルのものができてこない。そこは永遠の課題なんですよ。

 せめてわれわれにできることは,研究グループの中での標準化ですね。JCOGが実際にやっているし,われわれのNPOもそうです。ただ,企業間は難しいですね。企業それぞれのフィロソフィーがありますから。

辻井 そうですね。オペレーショナルな手順と組み合わさっていますから,その背後には,組織といいますか,人のグループがそれぞれあります。全部を一挙に変えるというのは難しいですし,一部の人は,そこにノウハウがあるとまだ思い込んでいます。実際は,データマネジメントは全体をスピードアップさせるためのものなので,もっと業界内でシェアしてかまわない情報だと思います。

大橋 コーディネーターの方は,CRFが企業によって違うのは困る。全部が同じだったらどんなに助かるかと言うんですよね。

 私は治験管理室も担当していますが,企業によって持ってくるCRFがぜんぜん違うことに,いちばん困っています。ただ,今回,EDCに向けていろいろ考えましたが,かなりの部分でカスタマイズされたものを作っていただいており,あとは毒性のコード化を共通で作っていただければ,たいていはできるんじゃないかと思いました。副作用がいちばん問題になりますが,当院は電子カルテなので,毒性の流れを日単位,週単位,月単位にでも自由に時系列に組み替えて一覧することができます。毒性の項目は,NCI‐CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)の全項目の入ったデータベースを作っておいて,そこから抜き出せばいくらでも簡単にできるという気がします。

大橋 電子カルテとの連携は,EDCの次の課題ですね。なかなか大変ですが,静岡はそうとう先端的なシステムなので,1つのプロトタイプになるかもしれません。

福田 アメリカ国内で,FDAのレギュレーションが,標準化に向けて持っているインパクトなり役割というのはあるんですか。

辻井 アメリカの中でも,ケースカードは,いまのところ各社バラバラですね。ただ,データを解析する分野ではCDISC(Clinical Data Interchange Standards Consortium)という動きがありまして,スタンダード・データ・フォーマットというのが決まりました。これがガイドラインとして出ましたので,今後は,それを作ればOKになります。それにいちばん適したCRFは何かという模索が,だんだん進んでいくと思います。

福田 癌であれば,研究者主導試験は,ほとんどNCIが仕切っているようなものですから,グループによっていろいろ違いはあるとしても,少なくとも毒性基準は共通化されています。

大橋 標準化というものが,どれだけその後のプロセスを効率化するかが皆にわかってきて,いまおっしゃったCDISCができたということです。いろいろな壁がかなり取り払われる印象がありますね。

 日本の中で,研究者主導でどういうところがイニシアティブをとっていくか。私は,基本的に教育が重要で,ある程度人が同じコンセプトやフィロソフィーを持てば,事態は早く進むと思うんですよ。すぐにできるものではありませんが,準備はしておくべきです。そういう意味でも,2冊の本が出て,全体のフィロソフィーとか,理解のレベルを上げるところに貢献すればよいと思います。SWOG(Southwest Oncology Group)の本が出たことによって,特に臨床家の先生方が,「臨床試験って,こういうものか」という共通認識を持つことは大きいと思います。

 コーディネーターはようやく確立しつつある。次に,データマネジメントだと思うし,あとは,臨床試験全体をコーディネートする医師の立場というのも,ほんとうは作らないといけないですね。

 臨床試験の登録制度が始まり,UMIN(大学病院情報ネットワーク)のシステムが4月には動きますが,その登録がけっこう難しい。デザインがきちんとしていないと登録できない。そこで,方法論に対して認識が高まることを期待しています。そして,その中でデータマネジメントの重要性がさらに認識され,そのために具体的な議論が,大きな目標に向けて動いてくれればと思います。本日はお忙しいところありがとうございました。

(おわり)


大橋靖雄氏
1976年東大工学部計数工学科卒,79年東大大学院工学系研究科博士課程中退。84年東大病院講師,同助教授を経て90年東大医学部教授。92年の大学の機構改革を経て,現職に至る。主著に『多次元データの解析』(共著,岩波書店),『SASによる生存時間解析入門』(共著,東大出版会)など。現在,NPO日本臨床研究ユニット理事長,日科技連データマネージメントセミナー運営委員長を併任。

福田治彦氏
1987年神戸大医学部卒。兵庫県立柏原病院,国立がんセンター中央病院,神戸大附属病院にて,計9年間消化器内科医/内視鏡医として臨床に従事。95年より国立がんセンター中央病院内科医員,96年よりJCOGデータセンターの実務管理に専任。98年より国立がんセンター研究所臨床情報研究室長(現職),99年よりJCOGデータセンター長。専門は臨床試験方法論。

朴成和氏
1987年東大医学部卒。87年東大附属病院,88年社会保険中央病院,89年国立がんセンター中央病院にて研修。91年国立療養所松戸病院を経て,92年国立がんセンター東病院内視鏡部医員。2002年より現職。治験管理室長を併任し,電子カルテでの治験システムを構築中。専門は消化器がんの化学療法。04年からJCOG消化器がん内科グループ代表者。

辻井敦氏
1983年星薬科大卒,薬剤師。外資系製薬会社の臨床開発部門で15年以上にわたり,臨床試験データの統計解析と臨床データマネジメントに携わる。製品開発プロジェクトリーダー,臨床開発部門長,プロジェクトマネージメント部門長などを経て,2001年より現職。現在,東京理科大非常勤講師,DIAデータマネージメントプログラム委員長,日科技連データマネージメントセミナー運営委員を併任。