MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


標準産科婦人科学
第3版
丸尾 猛,岡井 崇 編
《評 者》深谷 孝夫(高知大教授・生殖加齢病態学)
記述がよく整理され,学生から産婦人科専門医まで使いやすい教科書

しかしながら,医学教育の現場にいると昨今の学生の教科書に対する考え方が変化していることがわかり,なかなか面白い発見をすることがある。今回この『標準産科婦人科学 第3版』を通読しているうちに,昨今の学生教科書事情が頭に巡ってきた。
1つは,すべての学生ではないが教科書は代々先輩から受け継ぐものと考え,使用していることである。綺麗に色分けしたアンダーラインが施された教科書を見ると,きわめて系統立って勉学していると勘違いしてしまいそうである。しかし,学生にその内容を尋ねると,教科書のアンダーラインとは異なり知識が系統立っていない。答えは簡単である。綺麗に色分けしたアンダーラインは何人もの手を経ているためで,教科書の見かけと現在所有している学生の知識とは並行してはいない。なぜ教科書を受け継ぐのかは判らないとしても,学生には5年たっても教科書の内容は変わらないと考えている可能性は十分ある。医学教育を行っている立場の人間としてわれわれが反省しなくてはならないと痛感させられる。
学生教科書事情のもう1つの特徴はできるだけ簡単に記述してあるもの,絵が豊富であるもの,「いい国作ろう鎌倉幕府(1192年)」ではないけれども医師国家試験を乗り切るための暗記法が記述してあるものを選ぶ傾向がある。それはそれで悪いとは言えないが,35年前に医学教育を受けていた者にとっては何となく寂しい感がある。
本書をあらためて熟読してみたが,その内容の豊富さに驚かされた。また,本書であればわれわれはもとより,学生でも十分満足できるのではないかと考えた。その特徴は後述するが,内容が豊富ですべての事項に関して記述がよく整理されている感があったことに驚いた。われわれでも専門外の知識の整理のため,年に一度は最新版の教科書を紐解くべきと痛感させられた。
さて,本書の特徴を紹介したい。まず主な症状とそれに対応する疾患の表が診察法の次に記述されていることは斬新である。特にこれから産科婦人科を学ぶ学生にとって,どのような症状と疾患がリンクするのかを理解することは,それに引き続く産婦人科解剖学・生理学が学びやすいと考えられる。個々の分野について感想を述べることは字数の関係上できないが,今日的な産婦人科検査法,画像診断法の充実が図られており,実際の写真はもとより図表もきわめて理解しやすい。学生にとっても本教科書は使いやすいのではないだろうか。また,加齢あるいは妊娠など経時的に生理あるいは病態が変化する分野では,時間経過に即応した記載がなされ,われわれ臨床医にとってもきわめて有用である。なかんずく,EBMが確立された最先端の診療が述べられており実践的である。
最近,内容豊富な素晴らしい教科書が次々と出版されてきた。新しく改訂された『標準産科婦人科学 第3版』もその中の1つであり,内容の充実度の観点から学生・研修医はもとより産婦人科を専門とするすべての人々に満足感を与えてくれるものと思われる。座右の書の1つではないかと考えられる。


Josef Zihl 著
平山 和美 監訳
《評 者》清澤 源弘(東医歯大助教授・眼科)
視野の自然回復を待つだけでなく,意図的探索行動で患者の行動を改善

本書の内容では,脳血管障害の20%に合併する同名性視野障害と,その60%が示す探索障害に対するリハビリテーションに関する記載がほぼ半分を占めている。筆者は半盲の患者さんを多数診察しながら,“視覚的な探索の練習”などというものが存在するということさえ知らなかった。本書は視野の自然回復を待つだけではなく,意図的に探索行動をさせることによってその患者の行動が改善されることを示している。
さらに以下の章では,コントラスト感度の障害,中枢性の色覚障害,視空間知覚の障害,視覚性失認,中心暗点を対象にそれらの自然回復とリハビリテーションの方法が論じられている。これらの障害も成分として検出され認識されることは少ないが,現場では比較的頻繁に現れている重要な症状である。22頁にわたる詳細な訳者注が付されていて,その内容も大変わかりやすく本文の内容への理解を助けている。
A5・頁264 定価3,675円(税5%込)医学書院