医学界新聞

 

臨床現場の問題点も話題に

第18回日本エイズ学会開催


 第18回日本エイズ学会が,三間屋純一会長(静岡県立こども病院)のもと,2004年12月9-11日の3日間にわたり,静岡市のコンベンションセンター「グランシップ」において開催された。

 「広げよう 知識,育てよう 絆-ふじのくに 静岡からのメッセージ」をメインテーマとした今回は,研究,治療,予防教育といったさまざまな方面から,無料公開講座を含めて数多くの企画がなされた。


告知に際して医師にできること

 1995年にHAART(多剤併用療法)が開始,2004年には1日1回投与が可能な抗HIVの登場によるonce daily時代が幕を開けるなど,HIVの治療は年々進歩している。一方で,長期にわたるHAARTによって合併症に苦しむ患者も多く存在する現状もある。

 会長講演「1982年より臨床現場においてエイズ診療と研究を通して感じたこと」では,三間屋氏のHIV感染症診療とのかかわりと,その経験から得られた教訓が紹介された。氏は1977年より静岡県立こども病院血液腫瘍科にて勤務しており,1982年に米国で研修中,日本ではカリニ肺炎を起こす血友病患者はいないのかと質問を受けて,帰国後に非加熱凝固因子製剤を使用していた患者にHIV感染者を発見して以来,血液製剤によるHIV感染者の診療に多く携わっている。

 HIV診療に携わる中では,感染告知やカウンセリングの問題も避けて通れない。氏は特に拠点病院において医師の担うべき役割として,常日頃より院内の医療従事者にHIV/AIDSについての正しい知識の教育を行うことや,院内外各診療科へ出向き,患者背景を説明して診療の協力を要請すること,コメディカルスタッフに精神面での援助とプライバシーの保護を依頼すること,患者・感染者の希望があれば医療機関や他の患者およびボランティア団体を紹介するなどといった支援体制を確立することも必要と指摘した。

 講演の最後には,氏がHIV診療に携わってきた中で感じた「べき」集として,「臨床医は基礎医学や社会医学分野の研究者との交流を図ることによって,患者家族への対応に幅が出ることを認識すべき」などの7項目について提言し,講演を締めくくった。

早い段階でHIVを想起したい

 シンポジウム「見おとし,手おくれ,時間切れ?」では,今村顕史氏(都立駒込病院),山元泰之氏(東医大),堀成美氏(都立駒込病院)の3名が演者となり,会場に集まった参加者とともに,現在のHIV診療の問題点について議論した。

 山元氏によれば,近年は急性期症状で来院し,感染が判明する患者が増えているという。しかし,既往歴を見るとやはり梅毒やB型肝炎が多く見られることから,これらの疾患を目にした際もHIV感染の有無は確かめられていないことを指摘。臨床現場において早い段階でHIVを想起し,検査を勧めることの必要性を示した。

 一方,感染判明後の問題もある。東京都を例にすれば,40施設以上ある拠点病院のうち,入院患者は5施設にほぼ集中しており,外来については3つの施設がほとんどを担っているという。山元氏は,これらの施設ではすでに手一杯の状況であり,今後の患者数増加を考えると,非常に厳しい状態であると指摘。こうした受け皿の問題を解決するためには,HIV診療を行うことができる医師の養成が重要になるが,これについて今村氏は「0と1の差は大きい」と述べ,1例だけでも症例を経験できるチャンスを作ることが大切であると訴えた。

 この他,地方では感染者が少ないために,拠点病院といえども最新ガイドラインに沿った薬剤が準備できていないなどといった診療の温度差もあり,それぞれの現場で直面する問題には違いがあることも指摘されるなど,日本のHIV診療の現状における問題点が多く出される議論となった。

 最後に堀氏は,地域の医師で行うHIVの勉強会では「最新の抗HIV療法」についてよりも「いかにして検査を勧めるか」について勉強してほしいと強調し,議論を締めくくった。