医学界新聞

 

レジデントサバイバル 愛される研修医になるために

CHAPTER 11
親しき者にも礼儀あり(前編)

本田宜久(麻生飯塚病院呼吸器内科)


【前回からのつづき】

 研修医の研修生活を支えてくれる人,職種は数限りないが,やっぱり一番の支えはこれまた研修医である。研修生活ゆえの不安やつらさ,きつさの一番の共感者,研修医。研修医同士のつながりは孤立を防ぎ,磨きあい,将来を語りあい,実りある研修医生活の基盤となる。大学時代なら,「俺,友達いないんだよ」と言っても,なんとなくアウトローでかっこいいが,研修医が「俺,友達いないんだよ」といえば,悲惨そのものである。

遅れる時は早めに連絡

 ある日の16時40分。1年目研修医AとBは16時30分から救急外来当番だった。しかし,仕事が終わらず,まだ病棟にいた。

研修医A(ああ,もう救外の時間だ。仕事終わってないなあ。まあ,2年目のC先輩も当直がいっしょだし,ちょっと遅れてもいいか)

 救急外来では研修医2年目Cが待っていた。一方,Bはきちんと連絡をした。

研修医B「もしもし,研修医の○○ですけど,どうしても仕事が終わらないので,あと20分ほど遅れます」

研修医C「今日の1年目のもう1人の当直は誰? またAか。あいつはしょうがないなあ……」

コメント

 このケースの場合,2年目研修医がいるので患者対応はなんとかなるが,待たされる側にとっての時間は長いものである。何の連絡もなく仕事に遅れるのは,研修医同士のみならず,働くスタッフ一同にも迷惑がかかる。

その他の事例

 いわゆる飲み会への遅刻も研修医は常習犯。連絡できる時はしたいものだ。

悪いニュースほど早めに相談

 ある日の16時10分。今日の仕事がうまく進み,研修室でくつろぐ数人の研修医。突然電話が鳴った。皆の脳裏に浮かぶのは「あ,Aからだ。まちがいない……」。おそるおそるBが電話に出た。

研修医B「はい,研修医室です」

研修医A「あ,Bくん。ちょっと病棟の仕事がどうしても片付かなくって。4時半からの当直代わってくれない?」

研修医B「い,いいよ……」

研修医A「サンキュー(ガチャッ)」

研修医B「……。(ト・ホ・ホ,こんな時間に言うなよ)」

 頼まれると嫌とは言えないおひとよしの研修医B。今日もエンドレスな仕事がはじまってしまった。

コメント

 報告・連絡・相談はこの連載に何度も出ているが,同僚についても然り。いきなりの予定変更はつらいもの。観察していると「頼む人と頼まれる人」は結構決まっているのである。

SHAREのこつ

研修医B「いやー,すごいねえ! 大腿部の血腫でもショックになるんだねえ!!」

研修医A「ふーん。ほんとにぃ? 腹腔内の出血じゃないの」

研修医B「あ!? ちゃんと確認したよ」

研修医A「ふーん」

研修医B「……。(せっかく体験を共有しようと思ったのに…。もう,こいつにはプレゼンするのはやめよう)」

コメント

 元当院研修医の白井敬祐氏以来の伝統で,当院では「SHARE(共有)」の精神を大切にしている。氏曰く,「自分だけ知っていても,病院全体で知識や経験を共有しないと力にならない」。

 SHAREしようとする人を,まずは歓迎の心で迎えよう。その昂揚感が発言者の意欲をかきたて,貴重な臨床体験をさらに臨場感豊かに話してくれることだろう。

 逆に,せっかくSHAREしようと思った気持ちを萎えさせる一番の姿勢は「いきなりの批判的吟味」である。人の話を鵜呑みにせず吟味することは確かに大切な姿勢である。しかし,発言の出鼻をくじいては症例提示も守りの姿勢になり,結論に都合のいい部分しか話さなくなりかねない。

 だからこそ,まずは歓迎の心で発言者の昂揚感を高めたい。発言者と感情を共有したところで吟味に入るとよい。このケース,自分がAの立場であれば,まずはBの症例提示を楽しく聞いてあげ,そののちに鑑別について質問すればよかっただろう。

 Bの立場であれば,このくらいのことでめげてはいけない。「学会発表の訓練だと思えばありがたい質問である」と思って,淡々と続けるか,または,別の関心でAの頭がいっぱいなのであれば,そっとしてあげればよい。

その他の事例

 同僚が新しいカンファレンスの企画を立ち上げようとした矢先に「そんなの意味あるかなあ」と言いはじめる。批判よりも,ブレーンストーミングの手法で盛り上げていく方がよい企画が生まれる。当院では泡のように生まれ,泡のように消えていく企画やカンファレンスを大歓迎している。消えたとしても誰もとがめない。それが,いくつかの長生きする本物の企画が生まれる秘訣である。

イラスト/小玉高弘(看護師)
SHARE(共有)のこつ
「いきなりの批判的吟味」は相手の気持ちを萎えさせる。貴重な臨床体験をSHAREするために,まずは歓迎の心で相手を迎えよう。

次回につづく