医学界新聞

 

多職種で医療界の関心事を議論

第5回日本クリニカルパス学会開催


 第5回日本クリニカルパス学会が2004年11月19-20日の両日,藤村重文会長(東北厚生年金病院)のもと,仙台国際センター他にて開催された。「わかりあえる医療の実践をめざして」をテーマとした今回は,DPCや医療安全,EBM,記録の効率化など,昨今の医療界を取り巻く話題と関連したプログラムが多数企画された。発足以来会員数が増加する同学会だが,今学術集会にも多職種から成る2600人が参加した。

DPCの問題点を指摘,対象病院の拡大は?

 特別講演「包括評価導入とパスの今後の課題」では,池上直己氏(慶大)が登壇した。最初に,包括評価を「患者の状態と実施した処置によって患者を分類し,各分類に包括報酬を設定する方式」と定義。導入の条件としては(1)患者分類の開発,(2)患者情報の適切性の担保,(3)医療サービスの質の担保,(4)退院後の受け皿,の4点をあげた。

 次に,日本独自の診断群分類であるDPCによる包括評価について言及。前述の4つの条件の達成度を考慮すると,DPC包括評価は「きわめて未完成なもの」との見方を示した。DPCの妥協点として池上氏が特に強調したのは,「費用調査を行わず,臨床的観点だけで分類をデザインし,報酬額は移行前の当該DPC分類の出来高払いの実績に基づいて設定した」ということ。そのため,出来高払いの問題点をそのままDPCで踏襲する可能性が出てくる。実例として,胃の悪性腫瘍・胃切除術において,「合併症なし」のほうが「合併症2」よりも1日あたり点数が高くなってしまうケースをあげ,「サンプリングに問題があったのではないか。コストを反映せずに開発したため,整合性がない」と指摘した。また,他の妥協点としては,特定機能病院でも平均在院日数が2倍近く異なるため,一律の報酬ではなく医療機関によって異なる係数を定めたこと,DRG式の1回入院でなく1日当たりの報酬を設定したことをあげた。

 外来は出来高払いということもあり,DPC対象病院では検査や化学療法の外来へのシフトが進んでいる。その一方で,DPC対象病院が出来高で請求した場合のデータの提出を厚労省が求めていることから,「そのデータが今後どう使われるかは明らかにされていない」としながらも,外来シフトした病院は次回診療報酬改改定において医療機関係数が下がる可能性を示唆した。また,DPCの導入によって(特に抗がん剤治療などで)病院間のばらつきが大きいことが明確になったことから,ガイドラインの作成やパスの活用を通じた標準化の推進が求められることを強調した。次回診療報酬改定の焦点であるDPC対象病院の拡大については,医療機関係数や入院期間の区分を再算定する必要があることなどから,「現状では急速に拡大するとは思わない」との見解を示した。

 最後は包括評価とパスの関連,今後の課題について言及した。アメリカでパスが広まった大きな要因は,包括化が導入された際に保険者が病院に対してサービス内容の担保を求めたためであると説明。パスの内容と使用実態が一定の水準を満たせば,DPCによる包括評価でも懸念されている粗診粗療を防げるとして,「学会としてパスの第三者評価をしてはどうか」と提案した。また,今後高齢者人口が増えるのに伴い,「標準的経過をたどらない虚弱高齢者にパスは対応できるだろうか」と指摘。医療面だけでなく,MDSなど介護保険のケアプランと一体化した連携パスの開発を今後の課題としてあげた。

エビデンス重視のパス作成のために院内で話し合いを

 パスの作成・活用にあたっては医療チーム内での合意が不可欠となる。そこでは,エビデンスの共有や診療過程の標準化が不可欠であり,EBMや診療ガイドラインを取り入れる契機にもなっている。シンポジウム「EBMとクリニカルパス」(座長=東北大 荒井陽一氏,岸和田市民病院 山中英治氏)では,エビデンスを重視したパス構築の課題が議論された。

 まずは小林亜美氏(医療科学研究所)が,EBMの概要を紹介。現状ではEBM/EBNでカバーできない領域も多いことを課題としてあげ,院内データを分析・活用し,自らがエビデンスをつくる志が大切であるとした。

 以後は臨床に携わる5人の演者が,パスの実例を紹介した。野口良輔氏(水戸済生会総合病院)らは2001年に自院で前立腺全摘手術のパスを作成し,エビデンスを蓄積しながら第3版まで改訂を重ねている。バルーン抜去は,初版12日目から3版で6日目に短縮。抗菌薬投与もCDCガイドラインに基づき徐々に短縮し,現在では2日間になり,使用薬剤も変更したと話した。また,これら変更点による患者への影響を調査した結果,トラブルはなかったと説明した。

 沼畑健司氏(東北大)も同様に,前立腺全摘手術でカテーテル抜去時期や抗菌薬投与期間を短縮したことを報告。カテーテルの早期抜去と従来の抜去の比較において,術後1年間にわたる患者へのQOLアンケート調査の結果などから考察しても有意差は見られなかったと述べた。

 青儀健二郎氏(国立病院機構四国がんセンター)は,氏がかかわった「乳がん診療ガイドライン」作成の経過を説明。多施設共通乳がん診療用パス作成にあたっての腋窩ドレーン抜去の時期や予防的抗菌薬投与に関する議論を紹介し,パス作成にあたってエビデンス重視はもちろん,医療者間のコンセンサス形成を念頭に置かなければならないと強調した。

 続いて,1997から抗菌薬投与に関するRCTを続け,その結果を大腸手術パスに応用している橋爪正氏(青森市民病院)が登壇。予防的抗菌薬投与に関するRCTの結果からは,概ねCDCガイドラインを肯定する結果が得られたとしながらも,細かな部分で検討すべき点が多いことも指摘した。また,糖尿病の有無が術野感染率に大きく影響するとのデータを示し,術前管理において血糖管理を厳密化することの重要性を強調した。

 最後は,笠原善郎氏(福井県済生会病院)が院内でのパス作成推進のポイントを説明。同院では,重要なガイドラインに関する内容は,パス大会などを利用し,院内に周知徹底している。また,パス委員会の中にエビデンス部会を設置。同部会はEBM導入に関する具体的な手法を指導するほか,パス大会で紛糾した問題点に関しては,エビデンスの検索をパス作成チーム任せにせず,部会が組織的に行うようにしていると述べた。

 ディスカッションでは,エビデンスとなる文献の不足に悩む声が会場から出された。これに対し演者らは,「パスを作成して走らせることで,エビデンスを取り入れる機会が増える」と,パス作成を機に医療者の意識改革がはじまったことを積極的に評価した。また,何よりも大切なのは,院内の医療者間の話し合いであることが確認され,座長の山中氏からは,エビデンスはもちろん,患者の意向も重視したパスの作成を期待する言葉が語られ,シンポジウムを終えた。

パス学会発「そこが知りたい!」ハウツー本刊行

 日本クリニカルパス学会のHP上で運営されているメーリングリストをもとに編集された『そこが知りたい! クリニカルパス』が弊社より刊行されました。

 「パスは診療計画書として使えるか?」「病院内でパスのフォーマットは統一すべき?」など,パスで悩む多くの医療関係者がまさに知りたかった疑問に対する先駆者たちのアイデアや知恵が満載されています。

『そこが知りたい! クリニカルパス』
監修:日本クリニカルパス学会
編集:日本クリニカルパス学会企画委員会
編集委員:山中英治/副島秀久/今田光一/岡田晋吾

B5・頁172 定価2,625円(本体2,500円+税5%)医学書院