医学界新聞

 

循環器看護の発展をめざして

第1回日本循環器看護学会開催


 さる11月20日に,日本循環器看護学会の設立総会および第1回学術集会が,東京都中央区の聖路加看護大学において開催された。設立総会において,世話人代表および第1回大会長を務める井部俊子氏(聖路加看護大学学長)は「三大国民病の1つである循環器病に関する看護を必要とする人々が増加しており,循環器病にたずさわる看護職者の知識・技術を交換する場としても,学術集会の設立の時期がすでに来ている」と設立の経緯を説明。当日は400人近くの参加者が集まり,関心の高さがうかがわれた。


看護とテクノロジーの統合

 近年医療技術の進歩に伴い,さまざまな医療機器が患者のベッドサイドに置かれるようになってきた。特に循環器看護においては人工呼吸器や心電図,輸液ポンプなどに習熟することは,患者をケアしていくうえで欠かすことのできないものとなっている。しかしその一方で,これらの機器を操作することが看護であるととらえられがちな傾向もあるという。井部氏はこの問題について「看護のアイデンティティーとテクノロジー」と題し,記念講演を行った。

 まず氏はマーガレット・サンデロウスキー氏の『策略と願望』という著書を紹介。この中で看護の現状について「技術的な機器の操作が看護と同義語となり,看護師は今や『画面上の世界』で患者監視を行うようになった」と指摘されており,看護師の業務が,医師の“目”として患者をモニターするだけになってしまっていないか危惧されていることを述べた。

 氏は「循環器看護にかかわる看護師にとって,『療養生活支援の専門家』というアイデンティティーを高めるためには,今後テクノロジーと真の看護をどのようにドッキングさせていくか考えていく必要がある」と強調。そのためにはモニターの音だけでなく,患者の語りにも耳を傾けるEBN(Evidence-Based Nursing)とNBN(Narrative-Based Nursing)の統合が促進されるべきであろう,と結んだ。

先端医療における看護

 今回の学術集会では,循環器病における先端医療とその看護について「再生医療」「補助人工心臓」「薬剤溶出性ステント」の3テーマにおいて教育セミナーが行われた。

 東京女子医科大学では,生分解性ポリマーに骨髄細胞を播種した再生血管を用い,これまでに46例の手術を行っている。小泉雅子氏(東女医大心研)はまず,「再生医療は特殊な医療であるため,インフォームド・コンセントや生活的介入も含め,医師が行う部分が多くを占める」と説明し,現状では再生血管の内皮細胞が完全に形成される1-3か月間の抗凝固・抗炎症療法の管理が主な看護の役割であると述べた。

 しかし,将来的に再生医療が普及すれば看護師の担当する部分も多くなるだろうと予測。治験担当医師による勉強会などで理解を深め,術前の患者・家族の治療への理解を助け,不安に対するアプローチができるようになるべきと述べた。

 続いて堀由美子氏(国立循環器病センター)は,補助人工心臓(ventricular assist system:以下VAS)を装着している患者の看護のポイントとして「VASの駆動状態の観察,作動不全の予防」,「患者・家族に対するVASの管理指導」をあげるとともに,VASによる生活面での拘束感や作動不全への不安など精神的なサポートも重要であると強調した。

薬剤溶出性ステントの注意点

 薬剤溶出性ステント(drug-eluting stent:以下DES)は,これまでのステントの課題であった新生内膜増殖による再狭窄を防止するために表面に免疫抑制剤や抗がん剤がコーティングされている。今年3月に厚労省によって輸入が承認,8月には保険適用となり,今後虚血性心疾患の治療方針に大きな影響を及ぼすと予想される。

 土居仁美氏(三井記念病院)は,DESを使用した患者において最も注意が必要なSAT(亜急性血栓性閉塞)予防についての患者指導を説明。SATを予防するために患者は術後3か月はチクロピジンなどの抗血小板剤を服用しなければならず,無断で服薬を中断しないことや,チクロピジンの副作用について退院時に十分指導しなければならないと強調した。

 また,DESを用いたインターベンション療法が成功しても動脈硬化が起こりやすい体質が改善されたわけではなく,生活習慣の改善についても指導が必要であると述べ,口演をしめくくった。