医学界新聞

 

視点

患者の声を医療に反映させるために

和田ちひろ(いいなステーション代表・東京大学先端科学技術センター特任助手)


 「医療は提供者側の論理だけではなく,患者の目線で語られ,提供されるべきだ」。そう言われるようになってから久しい。が,実際はどうだろう。「患者の目線」と言っても,疾病や症状,年齢,性別によって患者らの考え方は異なり,誰の目線に合わせればそれが患者らを代弁していることになるのか甚だ疑問である。

 現在,中央社会保険医療協議会(中医協)の委員に患者代表を加えることが検討されているが,わが国にはそもそも「患者代表」と称する人が存在するのであろうか。もしいるとすれば,「患者代表」は患者らの声をどのように集約し,現行の医療に対して何を提言すべきなのだろうか。また(財)日本医療機能評価機構のサーベイヤーにも患者代表を入れるべきだという議論もある。が,いったいどのような人物が患者代表として想定されているのだろうか。

 筆者は以前,患者の声を医療に反映させる手法として,患者満足度調査に注目し,研究を行っていたことがある。しかし,患者は現在治療を受けている病院,もしくは今後お世話になるかもしれない病院をネガティブに評価することに遠慮するようで,どの病院で調査を行っても満足度が高くなるという傾向が見られた。

 どうすれば医療に対する患者の本音が聞けるのだろうかと考えた末,出会ったのが「患者会」であった。患者会には,同じ病気や障害,症状を抱えている人同士が集まっている。病気や障害に対するネガティブな思いを分かち合ったり,病院選択から日常生活での些細な工夫など,互いの体験的知識を共有したりできる。誰しも病気になると,「どうして自分だけが」という孤独感に苛まれるが,この気持ちを受け止めてくれるのが患者会である。

 多種多様な患者会の中で,近年急速に増えているのが「IT患者会」だ。「IT患者会」とは,メーリングリストや掲示板などインターネット上の双方向コミュニケーションツールを有効に活用し,同病患者同士のネットワーク化をはかっている会である。

 これだけ多岐にわたる患者同士の集合体があるのだから,疾患限定の活動を越えた,疾患横断的ネットワークが構築され,前述の「患者代表」などは患者側から提案されてもよいと思える。しかし,日本では数ある患者会が一堂に会し,「患者」の声として届けねばならない共通の問題を医療政策などより大きな潮流に反映させようという動きにはいまだ至っていない。患者の気持ちを受け止める温かい患者会活動に加え,新たな役割が医療界から期待されているのではないだろうか。

 「お任せ医療」から患者が医療に主体的に関与していく時代に移り変わりつつある今,患者代表の選出も,行政や医療提供者に任せるのではなく,1600を超える患者会がうまくアクションを起こし,真に「患者」の声を代弁しうる人を選出すべきではないか。患者の目線から医療を変えるために,今,患者会が動かなくてはならないと感じている。


略歴/1995年慶大文学部卒。98年同大学院政策メディア研究科修士課程修了。主な著書に,『ナースがつくる患者に選ばれる病院』(日本看護協会出版会),『最新版全国「患者会」ガイド』(学習研究社)など。