医学界新聞

 

チームで育てる新人ナース

がんばれノート
国立がんセンター東病院7A病棟

[第2回]言葉にすることの大切さ
主な登場人物 ●大久保千智(新人ナース)
●末松あずさ(3年目ナース。大久保のプリセプター)


前回よりつづく

 右も左もわからない新人がその悩みや不安を書き込み,プリセプターや先輩ナースたちがまたそれに答える「がんばれノート」。国立がんセンター東病院7A病棟では,数年前から,新人1人ひとりにそんなノートを配布し,ナースステーションに常備しています。

 新人ナースの大久保さんが入職して10日が経ち,プリセプターの末松さんについてまわる日々から,1人で患者さんを3―5人受け持っていくような時期にさしかかりました。

 また,初めてプリセプター以外のナースがフォローにつくのもこの時期です。プリセプターの末松さんは,自分の指導のいたらなさが明らかになるような気がして不安だったといいます。


今回の登場人物
大久保千智,末松あずさ,川崎久恵(7年目ナース)

4/15 ●末松
 病棟に来て,実際患者さんとふれ合うようになって約1週間がたちましたね。

 どうですか? 覚えることも本当に気が遠くなるほどたくさんあります。私も一気に本当にたくさんのことを伝えているし,しかもとりとめないことも山ほどあって,混乱させているだろうと思います。毎日毎日すごくたくさんのことを求めてしまい「いっぱいいっぱいなんだよ!!!」と腹立たしいこともあると思います。キャパを越えそうになったら必ずそう表現してください。

 常日頃から言っていることですが,わからないこと,もう一度聞きたいこと,スピードが早すぎる,自信がないこと,そういうことがあれば必ずそう表現してくださいね。

 「はい」「大丈夫です」といわれれば,私は理解してもらえたと思ってどんどん説明していきます。大丈夫でなければわかってもらえるように説明します。遠慮しないでください。それがプリセプター,プリセプティだと思います。

 明日は初めて私以外の先輩についてもらいます。たくさんの助言をもらって学び取ってください。私の指導の稚拙さとかモロ出しだと思いますが,大久保さんの努力や感性はしっかり伝わるはずです。アピールしてください。

4/16 ●川崎
 今日は末松さん以外の指導係として,つけさせていただきました。

 末松さんと比べて,また違う点に厳しいチェックが入ったのではないでしょうか。学生ではないので,大久保さんのアセスメントをチェックさせてもらった本日です。

 やはりまだ4月なので,学生っぽさは残りますが,この1週間で結構周囲のアセスメント内容を自分のものにしつつあるのかな…というのが垣間見えました。

 面倒がらずに,恥ずかしがらずに,自分のアセスメントを言葉で表現してください。そうしたら,私たちは,それをさらに深めていこう・って返すので。これからもどうぞよろしく。

p.s.社会学の話,聞かせてね。おもしろそう。乱文,乱筆,ゴメンなさい。

川崎 「初めてプリセプター以外のスタッフが指導係につく」…この日を,末松さんも大久保さんも最初の試練として,かなり緊張して迎えます。指導した内容と,指導されている成果を問われると思っているからです。でも,こちらとしては“試してやろう”なんて気はなく,1スタッフとして,大久保さんにかかわるだけでした。

 1年目でも資格を持った看護師です。国家試験に合格してひと月未満の看護師であろうと,“学生ではない仕事人”としてアセスメントして,それに責任を持つということを求めていきます。その指導状況は,気まずい雰囲気もあり,新人を萎縮させているところがあるのは確かです。でも,答えられないことが悪いことではなく,知らずに患者の前に立つことや,知ろうとしないこと,または「これでいいのだろうか?」と自問自答しない姿勢の看護師にはなってほしくないので,アセスメントを言葉で表現してもらうようにしています。大久保さんの知識と感性をもってして生まれる“大久保の看護”が提供できるようであってほしいと,期待しているからです。

 また7Aスタッフが,何より新人に求めるものは“反応”です。末松さんもこの病棟で育ってきたので,その意味をよく理解して,こんなふうにノートに書き込んでくれたのだと思います。

 実はこの日,大久保さんは「ヒヤリハット」を起こしました。この日の書き込みをする時,この点をノートに残す必要はないと考えました。ボロボロ泣いて,師長に報告していましたから。1年以上経った今も,大久保さんはこの件を詳細に覚えているそうです。


病棟紹介
国立がんセンター東病院7A病棟は,病床数50床,上腹部外科・肝胆膵内科・内視鏡内科の領域を担当している。病床利用率は常に100%に近く,平日は毎日2―3件の手術,抗がん剤治療・放射線治療,腹部血管造影・生検・エタノール注入などが入る。終末期の患者に対する疼痛コントロールなど,新人にとっては右を見ても左を見ても,学生時代にかかわることがない治療・処置ばかりの現場である。

関連書籍紹介
『はじめてのプリセプター 新人とともに学ぶ12か月』(川島みどり,陣田泰子編集)
 本連載に登場するプリセプター,末松あずささんの新人時代のがんばれノートが収録。がんセンター東病院の新人教育が学べる,プリセプター,プリセプティ,看護管理者必携の一冊。