医学界新聞

 

「コーチング」と「ナーシング」の出会い

効果的な活用法を考える

柳澤厚生氏(杏林大学保健学部臨床内科教授/第131回医学書院看護学セミナー講師)に聞く


 「コーチング」という手法が一般社会・経済界だけでなく,最近は医療界においても導入が試みられている。先ごろ上梓された『ナースのためのコーチング活用術』(医学書院刊)もその成果の1つと言えるだろう。

 日野原重明氏(聖路加国際病院理事長)は同書の「推薦の序」において,「病院やクリニック,老人ホームなどで働くナースが掲げる目標に向かう時に上司からの命令でなく自ら問題を解き,自主的に行動できるようにさせるのがコーチングである。ナースの仕事はチーム医療であることが多い。医療施設ではさまざまの年齢や性格のナースが働いている。彼らが自分自身の行動を学習していくには,その職場にコーチングをマスターした指導的ナースが必要であり,(中略)施設内のナースの仕事のやり方や身のこなしを刷新させるべきだと思う」と強調している。

 そこで本紙では,同書の編著者であり,また第131回医学書院看護学セミナーの講師でもある柳澤厚生氏に,「コーチングの効果的な活用法」について伺った。


「コーチング」との出会い

――どのような経緯で「コーチング」の研究をはじめられたのでしょうか。

柳澤 もともとコミュニケーションには興味を持っていましたが,「コーチング」との出会いはまったく偶然で,奇遇と言ってもよいほどです。友人が行っている「コーチ21」という組織の活動に接して勉強するうちに,これは私たち医療従事者にも活用できるのではないかと考えたのがことの発端です。その後,米国への学会出張の際に多くの医療施設を見学し,また関係者とも話す機会が得られ,「コーチング」が医療経営戦略から医療スタッフの教育にまで普及している米国の現状を目の当たりすることができました。

「5年後はどうしていたい?」と聞く

柳澤 例えば,患者さんが受診する一般的なケースを考えてみますと,まずヒストリー,つまり「既往歴」「家族歴」,そして「現病歴」などを聞かれますね。それから検査があって,診断が下され,治療方針が検討される。これが一般的な方法で,現在の医学はここで終わっているように思います。

 ところが「コーチング」の観点から考えてみますと本当の医療はそうではなく,例えば,「あなたはこういう病気ですが,5年後はどうしていたいですか?どのようなライフスタイルで生きていたいと考えますか?」と聞くべきだと思います。こういう質問に対して「できるなら薬は飲みたくない。旅行もしてみたい。仕事もバリバリしていたい。娘の結婚式には出てみたい」というような答えが返ってくるかもしれません。そういう患者さんの気持ち,考えを聞き出すことが医療の第一歩であるべきで,それを聞き出すためには,コーチングの手法が大変有効であると感じました。

“患者さんのための医療”を実現する「ロードマップ」

柳澤 具体的には,まず「ロードマップ」を作ることからはじまります。多くの場合は,スタートがあってゴール(目標)がありますが,そのゴールを達成するためには,どのような障害があるのでしょうか。例えば,接待が多い,仕事が多忙であるというような障害を打開するためにはどのようなことが必要であるのかを聞き出すことです。また一方では,ゴールを達成するためにどのような味方がいるのでしょうか。例えば家族であるのか,職場の上司や部下であるのか,などということを聞き出すことです。これらのことを聞き出すに際しては,コーチングが抜群の効果を示します。

 そして,患者さんがゴールに到達するためには,私たち医療者は何ができるのか。また,何をすべきなのかということを検討して「ロードマップ」を作ります。

 この時に忘れてならない大事なことは,この「ロードマップ」を主治医や看護師,栄養士などわれわれ「医療従事者」と「本人」,および「家族」が共に持つこと,つまり共有することです。それによって患者さんとの間に「ラポール(親密感)」が形成でき,初めて本来の意味での「患者さんのための医療」が実現できると思います。

教育現場における「コーチング」

――教育現場での活用についてはいかがでしょうか。

柳澤 現在,救急救命士課程の授業で「環境設定」の仕方から,「傾聴」「承認」「質問」から「提案」までのすべてのコーチングのスキルを教えています。20人ほどの少人数ですので「ロールプレイ」も交えていますが,学生は入りやすいようで反応は非常によいですね。特にチームワークが上手に取れるようになりました。「コーチング」の授業をひと通り受講した学生は,実習の先生から「学生が驚くほど変わった」と評価されます。お互いにアイコンタクトを取ったり,声を出し合ったりして,チームワークを醸成するためのコミュニケーション技術が格段に上達しました。

考えてみますと,コーチングの第一歩は「相手の考えや能力を引き出す」ことにあるわけですから,まさに学生に対する教育には打ってつけです。自分自身で考える姿勢を養成する意味でも抜群の効果をもたらします。また,「あなたならどうしますか?」という質問を投げかけることによって,部下や学生を育成すると同時に,彼らの判断能力を養成することにも大変有益だと思います。

実際に紹介して気づいた3つのこと

――実際に紹介して,どのように感じられましたか?

柳澤 「セミナー」や「院内研修」など,さまざまな場面で「コーチング」を紹介して,3つのことに気がつきました。

1つは参加した看護師さんが一般のビジネス・コーチングの研修に参加する人たちよりも高いレベルのパーソナル・ファンデーション(個人基盤)を持っていることですね。学習意欲が高く,常に問題意識を持ち,真面目に前向きに取り組んでいます。2つ目は看護師さんたちが抱えるトラブルやストレスの原因は患者さんとの関係に起因するのではなく,多くは職場のリーダーシップやコミュニケーションに起因していることです。3つ目は,私たちがコーチングを教えることで職場のリーダーシップやコミュニケーションが改善して,トラブルや問題点が解決され,看護師さんたちのストレスを減らす効果があったことです。

 これらのことから,もともとリーダーシップやコミュニケーションの十分な知識を持っていたのに,それを十分に現場に活用して行動に移すところまではいかなかった。そこで私たちからコーチングの技術を習得することによって,今までの知識を活用し,行動に移し,トラブルや問題点を解決していったのだと考えられます。

「タイプ別コーチング」

――「タイプ別コーチング」(表参照)を大変興味深く拝見しました。

柳澤 これは先ほど申しました「コーチ21」が開発した「CSI:Communication Style Inventory」を使って診断したもので,「親分肌のコントローラー(支配型)」,「目立ちたがり屋のプロモーター(促進型)」,「冷静沈着なアナライザー(分析型)」,「人の“和”を大事にするサポーター(支援型)」の4つに大別されます。

 この「4つのタイプ分け」はコーチングだけでなく,患者さんにもコントローラー,プロモーター,サポーター,アナライザーの4つのタイプに合わせたアプローチをすることで,より深いレベルのコミュニケーションを交わすことができます。

 ただ,タイプ分けで注意しなければならないことは,同じ人でも「環境が違うとタイプも変わる」ということです。この本にも書きましたが,例えば私も大学教授の時はコントローラー,コーチングを教えるセミナーではプロモーターに,学会ではアナライザーであり,家ではサポーターの父親になります。

●「4つのタイプ分け」早見表
 コントローラープロモーターアナライザーサポーター
行
動
の
傾
向
・行動的でエネルギッシュ
・スピードが速い
・率直で単刀直入
・アイディアが豊富
・順応生が高い
・社交的
・話好きで楽しい人
・現状維持より変化を好む
・行動は計画的で慎重
・客観的で冷静
・真面目で頑固
・コツコツと粘り強い
・完全主義者
・人の援助を好む
・協調性が高い
・人の感情に敏感
・人間関係を重視
・決断に時間が必要
自
己
表
現
の
特
徴
・声が大きい
・ストレートな物言い
・「~すべき」「~のはず」という言葉が多い
・堂々とした表現や態度
・威圧的な印象
・表情豊か
・身振り,手振りが多い
・早口でおしゃべり好き
・「すごい!」「うそ!」など感嘆詞が多い
・抑揚ある話し方
・オープンな印象
・論理的な話し方(5W1Hで話す)
・モノトーンな表情と話し方
・言葉を選び慎重に話す
・メモ上手,メモ魔
・感情表現は不得意
・クールな印象
・受容的な態度と言葉
・ゆったりとした口調
・遠慮深い
・「~していい?」と同意を求める
・優しく穏やかな印象
強
み
・目標への集中力
・確固たる信念
・リスクを恐れない
・強いリーダーシップ
・結果を出す
・チャレンジ精神旺盛
・人から好かれる
・臨機応変で柔軟
・楽しく前向き
・コミュニケーションが上手
・創造力豊か
・冷静な判断力
・論理的思考
・忍耐力,持久力
・堅実で確実
・精度を高める
・人への安心感
・人への気配り
・人間関係作り
・相手の感情把握
・聞き上手
弱
み
・独断と偏見を持ちやすい
・威圧的でけんか腰
・せっかちで待てない
・相手の気持ちに鈍感
・結論を急ぎすぎ
・しゃべりすぎて人の話を聞かない
・地道なことが苦手
・あきっぽく忍耐に欠ける
・思いつきで行動
・自己弁護が強い
・頭でっかちになる
・とっつきにくい
・決断や行動が遅い
・頑固で融通が利かない
・優柔不断
・人の目を気にしすぎ
・妥協しすぎる
・自己主張できない
・受動的になりすぎ
動
機
づ
け
・権限
・率直
・競争
・楽しさ
・新しい環境
・自由
・情報の提供
・充分な時間
・一人の時間
・周りからの承認
・安心できる人間関係

患者さんのためのコーチング活用術

――今後の抱負をお聞かせください。

柳澤 この『ナースのためのコーチング活用術』を作っていく過程で実感したことですが,このコーチング法はチームや職場の人間関係には非常に有効に機能しているのですが,残念ながら現在のところでは,まだ「患者さん」との関係の上では十分に機能していないのではないかということです。つまり,患者さんから直接聞き出す,引き出すというところまでは機能していない。この段階では,私はまだ未完成だと思いました。

その点からも,今後は「コーチングを使った患者さんのためのロードマップの作り方」をテーマとした『患者さんのためのコーチング活用術』が次のステップとしてあると痛感しました。

――どうもありがとうございます。

●2004年医学書院看護学セミナー開催案内

◆第131回セミナー
 「ナースのためのコーチング活用術」
 〔講師〕柳澤厚生(杏林大学保健学部臨床内科教授)
 〔日時〕10月26日(火)17:30-19:30
 〔会場・定員〕徳島市 ホテルクレメント徳島・300名
◆参加申込み方法
 ・参加ご希望のセミナー名,お名前,ご住所,ご職業,ご勤務先,電話番号を下記までお知らせください。折り返し整理券をお送りします。
 ・セミナーへの参加は無料です。
◆おことわり
 ・当セミナーは,医学書院が独自に開催するものです。日本看護協会や日本看護学会との共催ではありません。
 ・定員になり次第,参加申込みは締め切らせていただきます。
◆問合せ・申込み先
 〒113-8719 東京都文京区本郷5-24-3
 (株)医学書院PR部「看護学セミナー」係
 TEL(03)3817-5692/FAX(03)3815-7850