医学界新聞

 

家族とともにあゆむ糖尿病療養支援

第9回日本糖尿病教育・看護学会開催


 さる9月18-19日,第9回日本糖尿病教育・看護学会が中村慶子会長(愛媛大)のもと,愛媛県県民文化会館(松山市)において開催された。「家族とともにあゆむ糖尿病療養支援」をテーマにした今回は,全国から2000名にも及ぶ参加者を集め,一般演題数も180を数えるなど,過去最高の盛況を見せた。


糖尿病看護における家族ケア

 会長講演「1型糖尿病をもつ子どもと家族への支援」では,中村慶子氏が,今年で25回目を数える,愛媛県での糖尿病サマーキャンプへのかかわりを中心に,糖尿病患者への療養援助と,家族に対する姿勢について,自説を述べた。

 中村氏は最初に,1型糖尿病患者は,全糖尿病患者の中に占める割合としては少ない数であるものの,自分たち専門家の援助を強く必要としているという意味では,重要視すべき存在であると述べたうえで,若年で発症することの多い1型糖尿病患者の支援では,子どもの成長に伴った支援と家族,特に両親とのかかわりが重要となることを解説した。

 また,サマーキャンプのほかに,テレビ電話や携帯電話などを通じた,遠距離での継続的なサポートの実践を紹介。四国各県の,交通の便の悪い地域に住む患者への,遠隔支援の重要性と,その具体的手法を解説した。

 講演の中で中村氏が述べた,「必要な時に,必要なだけの,ほどよい支援を提供すること。漠然としているが,これが私たち療養指導の専門家がなすべきことではないか」と述べた時,ホールに集った参加者の大きくうなずく姿が見られた。

■知識と技術,そして理解ある態度が必要

第9回日本糖尿病教育看護学会の話題から

 第9回日本糖尿病教育看護学会の話題から,特に注目を集めた特別講演,ランチョンセミナー,交流集会のもようを伝える。

糖尿病療養指導士の役割を問う

 特別講演「Diabetes Education...What is REALLY all about?」では,1型糖尿病患者であり,糖尿病療養指導士としてハワイ大看護学部で教鞭をとるJane Kadohiro氏が,この50年間の糖尿病自己管理と援助方法の変遷を述べ,真に求められる糖尿病療養援助とは何かを問いかけた。

 Jane氏は最初に糖尿病自己管理をめぐる技術や考え方が50年間でいかに変わったかを概説。経口薬やインスリンが,その薬剤・剤型ともに大きく進歩・多様化する一方で,「糖尿病患者」から「糖尿病を持つ人」への変化など,疾患に対する医療者の捉え方も大きく変化してきたと述べた。

 また,治療の受け入れについての概念として,「コンプライアンス」から「アドヒアランス」という言葉への変遷があったが,Jane氏は,「アドヒアランスにも患者の主体性を認めず,『できない患者』を責めるニュアンスがある」と指摘。さらに違った枠組みで,治療をうまく行えない患者にかかわってほしいと述べた。

 Jane氏はその後,米国での糖尿病療養指導士制度を概観。今や1万4000人にものぼる米国における糖尿病療養指導士の果たしうる役割は大きいとしたうえで,「しかしながら,最終的な治療の責任をとるのは,糖尿病を持つ人,当事者である」と述べ,糖尿病療養指導士が果たすべき役割を次のようにまとめ,講演を終えた。

 「私以外の誰も,私の糖尿病自己管理を行えない。けれど,知識と技術,そして理解のある態度を私は必要としている」

「笑い」が血糖値を下げる?

 近年,笑うことによる免疫力増強など,「笑い」の臨床的効用について注目が集まっている。交流集会「笑いと糖尿病」では,笑いがもたらす糖尿病への治療効果について意見交換の場がもたれた。

 まずはじめに林啓子氏(筑波大)が笑いの生理学的効果について概説。1976年にノーマン・カズンズ氏が発表した,自身の膠原病治療に笑いがもたらした効果についての論文以降,その検証が世界中で続けられている。林氏は,現時点で明らかになっている「笑い」の生理学的メカニズムを簡単に解説したうえで,近年注目されている笑いと免疫系の関係について解説した。

 林氏によれば,笑いの臨床的効果には大きく分けて生理的効果と心理的効果があるという。さらに,生理的効果には,自律神経系の調整が行われ免疫系に働くものと,内分泌系の恒常性維持をもたらすものがあり,また心理的効果としては,笑いによってネガティブな感情がリセットされ,前向きな姿勢が生じ,結果的にQOLが向上するといった効果が考えられると述べた。

 続いて,岩永志律子氏(つくば糖尿病センター川井クリニック),さらには石井均氏(天理よろづ相談所病院)が相次いで,笑いと血糖値の相関関係を調べた研究結果を発表。いずれの研究でも,漫才・落語などを鑑賞した後の被験者では有意に血糖値が低下する傾向が見られた。また,注目されたのは,血糖値が高値であった被験者では血糖値が低下した一方で,血糖値がもともと低かった被験者では血糖値が上昇したこと。石井氏は「症例数も少なく,はっきりしたことは言えないが,仮説としては,笑いが身体に恒常性(ホメオスタシス)をもたらすという説明が成り立つかもしれない」と述べた。

 交流集会ではこの後,山内惠子氏(名古屋学芸大学)のパフォーマンスのもと,「笑いの実践」が行われた。これは参加者が互いに,大きな声で笑い合うというもの。終了後も参加者の表情には笑みが残った。

「挫折と疑問」を足がかりに!

 ランチョンセミナー「糖尿病ケアの知恵袋を作ろう-ITとインタビュー技術の融合」には,1000人近くの聴衆が集まった。講師の石井均氏は,糖尿病患者とのかかわりにおける心理的アプローチの重要性と,それを用いる医療者に求められる心がまえを語った。

 石井氏ははじめに,今年5月に行われた糖尿病学会に心理のセッションが入ったことや,学会が作る糖尿病治療ガイドに心理的支援の項目が加えられたことに触れ,糖尿病ケアにおいて,心理的アプローチの重要性がようやく認められてきたことへの喜びを述べた。

 1時間の講演の中で,石井氏はアキュチェックインタビューや動機付け面接法など,各種の心理的アプローチの方法を具体的に解説。その一方で,これらを単に道具として使用しても意味がないということを強調した。

 石井氏は,数年前に講演会で知り合った八戸市民病院看護師・川野恵智子氏の「どうして,セルフケアができないのだろう?そこにはどんな原因があるんだろう?」「そういう患者さんがどういう思い,感情状態を持つのか知りたい」「患者さんの思いに対して,私たち看護師に何ができるのだろう?」(『糖尿病ケアの知恵袋』医学書院より)といった,患者さんを前にした時の戸惑い・疑問のこもった言葉を紹介。

 「現在は心理アプローチに関する情報がたくさんあります。しかし,もし,皆さんが患者さんの声から直接疑問を抱くことなく,ただそれらの情報を道具として用いるなら,それらはまったく役に立たないかもしれません」と述べ,臨床の中で抱く疑問や挫折を足がかりに,心理的アプローチを考えていくことの重要性を述べた。

 また石井氏は,そうした臨床的な疑問から出発した医療者が,それぞれ手にした知恵を持ち寄ればさらに強い力になりうると述べ,「皆さんと一緒に,糖尿病ケアの知恵袋をつくっていきましょう」と講演をまとめた。