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研修医が育つ環境を整えよう自治医科大学附属病院臨床研修指導医講習会報告
早瀬行治
(自治医大附属病院卒後臨床研修センター副センター長・助教授)
研修医が研修に専念できるために
自治医大附属病院にはマッチングで全国から研修医が集まります。(僻地勤務の義務はまったくありません。)さる7月22日-23日の両日,当院では2004年度臨床研修指導医講習会を1日半にわたって行いました。斬新なワークショップを企画するために,畑尾正彦日本赤十字武蔵野短大教授,アラン・レフォーUCLA教授,齋藤中哉ハワイ大学医学教育特別顧問らをお招きしました。本講習会の主題は「研修医が育つ環境を整えよう」。一般目標は,「臨床研修指導医は研修医が安心して研修に専念できる(研修医が育つ)ことを支援するために,研修医が育つ望ましい環境について理解し,実際に整備する能力を身につける」と設定しました。行動目標は下記の11点をあげました。
1)2004度からの新研修制度について説明する
2)EPOCによる評価法について説明する
3)具体的な研修医の指導法について述べる(内科,外科,救急を例に)
4)医療チームの中の研修医の役割を説明する
5)研修医が医療チームで役割を果たすための方策について述べる
6)労働環境,労働時間,職場の雰囲気のあり方について述べる
7)問題があるとされる研修医への対応について述べる
8)医療事故が起こりやすい条件を指摘し,防止策を述べる
9)臨床研修に伴う感染防御について述べる
10)EBMに基づいた臨床判断について述べる
11)研修指導医間の交流を図り,協力体制を強化する
行動目標11の「研修指導医間の交流を図り,協力体制を強化する」は非常に重要です。今回の講習会を契機に,各診療科の垣根を越えて研修医の成長をサポートする人脈が形成されつつあります。
ワークショップ形式で行動計画案を練る

1)新臨床研修制度の説明
2)評価システム(EPOC)の説明
3)メンターとしての指導医(研修医の心の師匠となるために)
4)労働時間・環境・事故防止(研修医を雑用から開放し教育効果をあげる方法)
5)指導実演(外傷後高K血症を呈している模擬患者の管理を学生,研修医と討論)
6)問題をかかえた研修医の対処法(どんなパターンがあるか実例集をつくる)
7)感染制御(3つの感染事故のシナリオを使用し討論)
8)講義の工夫(準備の仕方,話し方)
9)チームの一員としての研修医(その能力を最大限に生かす方法)
10)症例提示法の指導
11)診察指導(トリプル・ジャンプ)
12)指導実演(EBM・臨床判断)
13)指導実演(印象に残るACLS指導法)
最後の全体発表では,参加者全員が自分の所属している診療科における研修医が育つ環境を整えるための行動計画案を披露しました。参加者の声の一部を紹介します。
内分泌・代謝科 N指導医:
「新制度の研修医はローテート期間が短いが,より心理的な側面に配慮した指導を行いたい。(今まであまりほめていなかったかも)診断・治療に至る思考過程を重視した指導を行いたい。病院は治療法,技術についての情報を整理統合して,研修医が混乱しないように配慮すべき。当院における内科一般の研修到達目標を明示すべきである」
泌尿器科Y指導医:
「研修における技能・知識の到達目標を明確にする。その到達度に応じた正確な評価をする。研修医,学生のOral Presentation Skillの上達に努める。臨床・研究の忙しさを口実とせず,魅力のある教育システムの構築を考える」
呼吸器内科O指導医:
「従来の指導体制を維持しつつ,指導医の意識改革を行うことが重要。メンタリングやトリプル・ジャンプは従来の指導においても,知らず知らずのうちに行われていた。臨床研修必修化に伴い,学生指導がおろそかになりつつある。指導医の確保が困難な状況で,いかに効率よく行うかが課題」
循環器内科O指導医:
「研修医は従来の制度では“でっち”,新制度では“学生”扱いと批判する人もいる。時代に即した,研修の二ーズに即した指導医側の意識改革が必要。マニュアルを統一化し,レクチャー,講習会は効率よく実施」
脳神経外科T指導医:
「研修の到達目標(技術・知識)を具体的に設定。プレゼンテーション能力の向上を図る。向上心を持ち自主的に学習する姿勢を重視する」
病理K指導医:
「全剖検例でCPCを行う。学生向けCPCに加え研修医向けCPCを開始(隔週水曜日)。学内LANで周知を図り多くの症例を経験できるようにサポートする。病理医のサマリーを参考にCPCレポートを作成できるようにする」
産婦人科O指導医:
「指導医-オーベン-研修医-学生のチームで診療が行える体制へ移行。行動目標の設定とその評価を行う。プレゼンテーションの機会を増やす。手技を指導するための環境を整備し,実技指導を充実させる。クルズスにPBLを取り入れる」
小児科K指導医:
「楽しいプログラムにしたい。ひとり立ちできる,より良い人間関係が構築できる,EBMの正しい理解ができる,メンタリングを意識したプログラムにしたい」
心臓血管外科S指導医:
「労働だけでなく,少ない時間でもこの2日間の講習で受けたような方法で教育を行う機会をつくる」
放射線科S指導医:
「当科では従来から研修医を大事にし,単なる労働力として扱うようなやり方はしていない。画像診断・放射線治療は不可欠であり,より積極的に臨床研修,学生教育に関与したい。当科ローテーションでは読影のみでなく,検査の適応,省略可能な検査,医療被曝の概念などを教えたい。指導スタッフを増員したい」
救急部K指導医:
「基本的救急手技の習得のためシミュレーションを活用。救急外来担当と救急病棟担当に分け,週40時間勤務体制の確立をめざす。クルズスを充実させ知識・技能の習得レベルを確保。将来困ったときに気軽に相談できるメンターとなれるように指導医の資質向上への努力」
救急部M指導医:
「カンファレンス,クルズスを見直す。主義中心から知識・考察を含めた指導へ。ONとOFFのはっきりした勤務・研修体制の確立を目指す」
アレルギー・リウマチ科O指導医:
「日本内科学会認定内科専門医会の研修コア・カリキュラム委員として,カリキュラム改訂作業等行ってゆく」
総合診療部M指導医:
「全指導医・研修医向けEBMカンファレンスを開始。患者の問題の同定,情報検索,吟味,患者への適用の各ステップを訓練。研修医が学生教育(態度,技能)を行えるように援助。研修医の外来診療教育を体系化。(双方向性,学習を促進する質問法,叱らない,プリセプターシップ,5microskillsなど)」
消化器内科T指導医:
「メンタリングの充実を最優先に考え,心理的ケアを十分行いたい。一方的な講義ではなく,双方向の議論ができる研修医を育てたい。研修の結果,消化器内科の楽しさを理解してもらいたい。他科希望のローテーターも当科ではやさしく親切に指導」
腎臓内科M指導医:
「双方向性,具体的,実践的な教育とコミュニケーションの充実を図る。回診の充実(時間・内容)と研修医の診断・治療方針に対する討論への参加を通して腎臓病学の楽しさを味わってもらいたい。叱責よりほめる」
消化器・一般外科C指導医:
「研修医ノートをチェックし未経験の事項に関しては,外来医長,受け持ち医に依頼し経験できるようにする。現在のイブニング・レクチャーを継続する。カンファレンスの討論の充実」
耳鼻科T指導医:
「よき指導医への努力を怠らない。研修医に対し1対1で基本的診療技術を指導できる機会を増やす」
整形外科A指導医:
「当科は従来より研修医をとても大事にしている。研修医のやる気を伸ばし濃厚な指導を行っている。医局全体として,魅力的な研修になるよう努力している。(若手勉強会,ケース・カンファレンス,指導医の枠を超えたバックアップ体制など)」
また,2日目の昼にはタスク・フォースを中心に座談会「研修医が育つ環境を整える」を行い,これからの研修を考えていくうえで重要な意見が多く出されました。次ページでその模様を報告します。
〔次ページ〕時代のニーズに応える研修のために――座談会「研修医が育つ環境を整えよう」での議論 |