医学界新聞

 

QOLの向上と予後の改善が焦点に

第52回日本心臓病学会開催


 さる9月13-15日,京都市左京区の国立京都国際会館において,中野赳会長(三重大)のもと,第52回日本心臓病学会が開催された。第21回日本心電学会との合同シンポジウム「不整脈治療とその効果――QOLと予後の改善をめざして」などの臨床的なプログラムや,各領域で注目を集めるメタボリックシンドロームと心血管病に関するセッションに注目が集まった。また今回は看護領域を中心としたコメディカルセッションにも力点が置かれ,循環器専門看護師の必要性と課題が話題となった。


■QOL向上をめざした不整脈治療が模索される

 不整脈の治療は近年,不整脈そのものを消し去ることをめざすのではなく,QOL・予後の改善をめざす方向性が模索されつつある。日本心臓病学会と日本心電学会の合同シンポジウム「不整脈治療とその効果-QOLと予後の改善をめざして」では,そうした不整脈治療の現況を踏まえた議論が交わされた。

 はじめに小松隆氏(岩手県立磐井病院)が,発作性心房細動への抗不整脈薬治療について,QOLと予後に焦点を絞った追跡調査を報告。抗不整脈薬治療が奏効し,再発が予防された群では,再発・慢性化群に比べて,血栓塞栓症や心不全の発症率が有意に低下したことを述べた。

 続いて,内藤滋人氏(群馬県立心臓血管センター)が,頻脈性不整脈に対するカテーテルアブレーション治療(以下,RFCA)の患者QOLに与える効果について検討。RFCAは,不整脈の原因となる心筋の部位を高周波により加熱し,凝固壊死させる治療法で,近年,頻脈性不整脈に対する非薬物的根治療法として注目を集めているが,発表では,薬物抵抗性の頻脈性不整脈30症例で,RFCAが患者のQOLを有意に改善することが示された。

 栗田隆志氏(国立循環器病センター)は,植え込み型除細動器(以下,ICD)の1次予防効果について報告。2004年,ICD使用に関する大規模臨床試験の結果が複数発表されたが,栗田氏はその内のMADIT-IとMADIT-IIについて検討。これらの結果を国内でそのまま適用できるかは不明としながらも,拡張型心筋症に伴う非持続性心室頻拍(NSVT)へのICD使用群の死亡率が,対照群に比して低かったという結果は,本邦においてもインパクトの大きなものであるとした。

道路交通法改正により医師の責任が重大に

 渡辺重行氏(筑波大)は,不整脈治療と車の運転について発表。2001年の道路交通法改正により,従来免許取得に制限のなかった不整脈による失神の既往例やICD植え込み例の運転免許取得が原則禁止となり,「運転に支障をきたす恐れがない場合のみ免許を与える」かたちとなった。

 渡辺氏は,この法改正によって,不整脈既往患者の免許交付の可否判定に主治医の診断書が大きな役割を果たすようになったことを指摘。日本心臓ペーシング・電気生理学会を中心とする「不整脈に起因する失神例の運転免許取得に関する診断書作成及び適性検査施行の合同検討委員会」が2004年に公表した診断書作成のためのステートメントの内容に触れながら,患者のQOLと,患者および市民の生命の安全を両立させる判断が医師に求められることの社会的責任の重大さを強調した。

生理的ペーシングのメリット・デメリット

 最後に,松田直樹氏(東女医大)がペースメーカーの生理的ペーシングについて発表。近年,二腔ペーシングによる房室同期や,レートレスポンス機能による心拍数変動への対応などによって,生理的ペーシングに向けた技術革新が進んでいる。しかし松田氏は,自院でのアンケート調査や,Canadian Trial of Physiological Pacing(CTOPP)の調査から,今のところ生理的ペーシングの優位性は証明されていないことを述べ,それぞれのペーシング方法のメリット・デメリットを検証したうえで,単に生理的ペーシングを推奨するのではなく,個々の症例に合わせたペーシングの工夫が,患者のQOLを向上させることを強調した。

■メタボリックシンドロームと心血管病の研究動向

 肥満・糖尿病・高血圧・高脂血症などの疾患は,重複すると心筋梗塞・脳血管障害などの動脈硬化を基盤とした疾患に罹患する確率が高いといわれている。近年,これらの疾患が一個人で重複するための共通の基盤として,内臓脂肪の過剰蓄積が指摘されるようになり,こうした一連の症候群をメタボリックシンドロームと捉えて検討する機運が各領域で高まっている。

 シンポジウム「Metabolic Syndromeに合併した心血管病の臨床」では,メタボリックシンドロームの分子病態や,そこから引き起こされる動脈硬化病変の臨床像などについて議論が交わされた。

 肥満と高血圧の関係や,内臓脂肪の蓄積から動脈硬化にいたる機序など,メタボリックシンドロームのメカニズムは,いまだ解明にいたっていない。シンポジウムでは分子レベルでの研究から,そのメカニズムについて最新の知見が発表された。

 木原進士氏(阪大)は,最近注目を集めるアディポネクチンの働きについて解説。アディポネクチンは脂肪細胞で特異的に分泌される蛋白であり,障害血管に集積し,血管内の炎症反応と拮抗する性質が確認されている。また,内臓脂肪が過剰に蓄積されるとその血中濃度が低下することも知られており,木原氏は,アディポネクチンが肥満症と心血管病をリンクする重要な因子であることを指摘。その血中濃度が動脈硬化のリスクを評価するよい指標となると同時に,その制御が心血管病予防・治療の鍵となるのではないかと解説した。

細胞膜流動性とメタボリックシンドローム

 津田和志氏(和歌山県立医大)は,細胞膜流動性に注目。津田氏の研究グループは,高血圧患者の細胞膜流動性を,電子スピン共鳴法と呼ばれる方法で測定。インスリンやレプチンが膜機能におよぼす影響を検討した。その結果,血中インスリン濃度が上昇すると細胞膜流動性が低下すること,逆にレプチン濃度が上昇すると細胞膜流動性が上昇することが確認されたほか,これらの内分泌因子の作用は,さらに血中のCa濃度や血漿NO代謝産物含量の影響を受けることがわかったという。

 これらの結果から,肥満に関連した種々の内分泌因子が細胞膜機能調節に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。

■循環器看護の専門性の確立が議論される

 今回の心臓病学会では3つのコメディカルセッションが催されたが,特に循環器領域の専門看護師の必要性については,パネルディスカッション「日本における循環器看護の専門性を確立するための課題」で議論されたほか,招請講演として,米国で循環器専門看護師として活躍するErika S.Froelicher氏(University of California San Francisco)を招くなど,大きく取り上げられた。

 パネルディスカッションに出席した岡田彩子氏(国立看護大学校)は,米国において循環器専門看護師の教育を受けた経験を報告しつつ,日本における循環器看護の専門性確立の必要性を訴えた。

 現在のところ,日本看護協会が認定する専門看護師制度には循環器領域は含まれていない。しかし岡田氏は,循環器疾患患者の入院から退院後まで長期間に渡ってフォローアップする心臓リハビリテーションプログラムの作成・実践はもちろん,循環器疾患全般への援助者として,またチーム医療での調整役,教育係として,循環器専門看護師の担える役割は大きいと考えていると述べた。

 なお,循環器領域の看護については,きたる11月20日,東京都の聖路加看護大学において開催される第1回日本循環器看護学会において,さらに踏み込んだ議論が交わされるもよう。学会事務局は下記のとおり。

第1回日本循環器看護学会事務局
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