医学界新聞

 

呼吸管理領域での医療安全が議論に

第14回日本呼吸管理学会開催


 さる8月6-7日,第14回日本呼吸管理学会が,長尾光修会長(獨協医大越谷病院)のもと,大宮ソニックシティ(埼玉県)において開催された。人工呼吸器をはじめ,呼吸管理領域では医療ミスが重篤な結果をもたらしかねない。今学会でもワークショップ,教育講演で医療安全がテーマとなった。


呼吸管理の安全を守るのは誰か

 ワークショップ「日米の呼吸療法士からみた医療の安全」では呼吸療法士制度の日米の相違を踏まえたうえで,リスクを伴う呼吸管理について,安全を守る方策とその担い手の問題が話し合われた。

 はじめに鵜澤吉宏氏(亀田総合病院)が,呼吸療法士制度における日米の相違を簡潔に紹介。日本では国家資格としての呼吸療法士資格はなく,「呼吸療法士」は,学会が認定する「3学会合同呼吸療法認定士」しか存在しない。

 一方,米国の呼吸療法士は国家資格であり,専門学校・大学の呼吸療法学科の規定のプログラムを終えた後に,国家試験の受験が必要となる。また,それらのプログラムには臨地実習が必ず含まれており,実践的な教育が行われている。

 こうした認定制度・教育の差異は,当然のことながら日米における呼吸療法士の位置づけに違いをもたらしている。米国で呼吸療法士として活躍するワード弥生氏(Caritas Norwood Hospital)は,「日本で生じている呼吸管理に関する事故は,私の勤務する病院では起こりにくいものに思える」とし,その要因の1つとして,チーム医療の中で呼吸療法士がリーダーシップをとって,責任をもって包括的な呼吸管理を行っていることをあげた。

 また,MEの立場から発表した野口裕幸氏(日医大病院)は,他の多くの生命維持装置が,ICUなど限定された場所で用いられているのに対して,人工呼吸器は一般病棟はもちろん,在宅でも使用されていることを指摘。日常点検・メンテナンスのほか,他職種への教育・啓発活動もMEの重要な仕事であると述べた。

 この点については,最後に発言した田中一正氏(昭和大豊洲病院)も,「技術の進歩に人がついていっていない」と,一般の医療職が人工呼吸器の扱いに習熟しないまま使用している現状を指摘。呼吸管理全般を指揮できる職種の必要性と,呼吸療法士への期待を述べた。

医療界の特殊性を指摘

 教育講演「ヒヤリ・ハット1万事例の分析からみた医療事故の発生要因と対策」では,『ヒヤリ・ハット11,000事例によるエラーマップ完全本』(医学書院)などの著作で,「ヒヤリ・ハット報告」を事故防止につなげる視点を紹介した,川村治子氏(杏林大)が講演。ヒヤリ・ハット報告から抽出された「エラー発生を助長する要因」を解説するとともに,近年,主流になりつつある産業界におけるリスクマネジメントの考え方を医療にそのまま適用することの問題点を指摘した。

 川村氏はまず,重大事故のほとんどすべてにヒヤリ・ハット事例が存在し,またその要因は病院を超えて共通していることを指摘。さらに,それらの背景には,診療科や業務領域を超えて共通するシステム上の大要因が存在しており,個々の具体的なエラーにとらわれすぎず,そうした普遍的な要因に着目することの重要性を強調した。

 中でも川村氏は,医療現場特有の宿命的危険要因として,「急変・緊急時などの緊張」「タイムプレッシャー」「予定外の出来事の発生」「業務中断」「業務の同時発生・進行」「複数の似た“モノ”が同時・同箇所に存在」などを指摘。これらは病院という場所の特殊性によるものであり,完全に取り去ることは難しい要因である。

 こうした視点から,川村氏は,産業界のリスクマネジメントは,基本的に「人と機械の間」に着目する「マン・マシンシステム」のリスクマネジメントであり,「人と人との間」の比重が大きい医療界にそのまま適用することが難しいということ,さらには,手術・投薬をはじめ,そもそもサービスの提供手段そのものが,産業界に比して圧倒的にリスキーなものである以上,エラーの結果が重大なものとなりやすいことを指摘。単純に産業界におけるリスクマネジメントの「常識」を医療に持ち込むことの危険性を説いた。


※3学会(日本胸部外科学会,日本呼吸器学会,日本麻酔科学会)によって認定される,日本における呼吸療法士制度。問い合わせは下記まで。
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