医学界新聞

 

DPCや医療安全が話題に

第6回医療マネジメント学会開催


 第6回医療マネジメント学会が6月18-19日の2日間,原田英雄会長(香川労災病院院長)のもと,高松市・サンポートホール高松,他にて開催された。クリティカルパス研究会を前身とする同学会は,リスクマネジメントやIT化,医療連携など活動の幅を広げながら会員数を年々増やし,今学術総会では約3000人の参加者を集めるに至った。

 「患者中心の医療を考える」がメインテーマの今回は,クリティカルパスの活用法のほか,医療提供体制,市民が求める病院・医療情報など,話題性の高いテーマでプログラムが企画された。本紙では,特別講演「DPC導入の評価と今後の課題」,シンポジウム「医療の安全と質の管理」の模様を紹介する。


DPC導入の評価と医療の変容

 日本独自の診断群分類であるDPC(Diagnosis Procedure Combination)を用いた包括支払い制度は2003年4月から全国の特定機能病院82施設に導入され,2004年7月までに民間病院を含めた62病院が試行適用に参加している。今後中医協の場でDPCの適用拡大が議論されるのは必至の情勢で,関係者の関心も高まっている。

 特別講演「DPC導入の評価と今後の課題」では,DPC開発に携わった松田晋哉氏(産業医大)が登壇し,DPCの概要やマネジメント手法について解説した。

 氏は日米の診断群分類の基本構造を比較し,「日本のDPCは,まず傷病によって分類するのが特徴で,これは処置の分類ではじまるアメリカのDRGとまったく異なる」と指摘。その背景の1つとして,日本の場合,(特にフルオーダリングシステムの)電子カルテを意識し,医師の日常診療活動がそのままコーディングにつながるように開発したことを明らかにした。

 また,2004年度からの診断群分類の見直しとして,DPC対象数を1860から1727分類に減らしたほか,高額な薬剤・医療材料への対応を大幅に見直したこと,合併症による分類の精緻化などをあげた。「包括支払い制度のもとでは赤字になる」と医療現場から批判のあった悪性腫瘍の化学療法についても,初期の加算を手厚くしたことを報告した。

 医療機関別係数(機能評価係数+調整係数)のあり方についても言及。機能評価係数については「多くの人が納得できるような指標がない中でできた係数」,調整係数は「制度変革の中で医療機関の前年度実績を保証するための移行措置」として,将来的に改善の余地があることを示唆した。

 それでは,DPCによって医療の質はどのように変化するのだろうか。包括支払いで医療機関のコスト意識が高まるため過少診療の恐れも指摘されているが,氏は「アメリカではDRGによる質の低下の例は報告されていない。わが国でも今のところ負の効果は観察されていない」とした。その一方で,過少診療が起こる可能性は否定しきれないため,臨床指標の開発や第三者評価制度の導入などの仕組みを別途準備する必要があるとした。

 また,DPCの本来の目的は医療情報の標準化と透明化であることを強調。例として,DPCを単位としたベンチマーキングで施設間の比較が容易になり,各施設の自主的な取り組みにより診療の標準化が進むことをあげた。特に,抗がん剤の組み合わせは大学病院間でもバラツキが多いことを報告し,「がん化学療法に関しては標準化が非常に遅れていることがわかった」と指摘した。

DPCを用いた病院マネジメント

 後半では,DPCを用いたマネジメント手法によって,患者のフロー,地域ニーズの変化や経営上の問題点などが明確になることを紹介。「今後はDPC関連の情報を収集・分析する人材の育成が病院の課題となる」とした。また,特定機能病院および調査参加病院以外への拡大は中医協の専決事項であると断ったうえで,支払い方式というよりマネジメントのツールとしてのDPCの重要性を強調。DPCのもたらす最も重要な影響としては,「病院のマネジメント技術の集積と向上である」として,医療機関のマネジメントに関する研究の推進に期待を込め,講演を閉じた。

■安全な医療の提供に向けて

 シンポジウム「医療の安全と質の管理」(座長=武蔵野赤十字病院 三宅祥三氏,NTT東日本関東病院 坂本すが氏)では,安全な医療の提供に向けての取り組みを,4名の演者が述べた。

 中島和江氏(阪大病院)は,ITを用いた医療の質評価について報告した。また,「リスクマネジメント委員会を立ち上げる際は,委員の適切な人選が重要なポイントである」として,運営企画会議や病院運営委員会で発言できる立場の診療課長を委員長にするなど,意思決定のできる人を参画させる必要があることを語った。

 看護の立場からは嶋森好子氏(京大病院)が,自身がかかわる厚労省のヒヤリハット記述式事例の分析事業から考察。ヒヤリハット経験者は1年目の看護師(異動後1年目も含む)が多いことを指摘し,「ヒヤリハットは,どこでどういうふうに起こっているのかを管理しないと医療事故は防げない」と語った。そして,「看護における安全管理は質の管理」という視点を重視し,業務プロセスの明確化や(記憶に頼らず)基準書を確認しながら看護を行う姿勢の育成が必要であると強調した。

無責任体制からの脱却に病院組織のマネジメントを

 矢野真氏(武蔵野赤十字病院)は,自院での取り組みのほかに,日本医療機能評価機構における認定病院患者安全推進協議会での活動も紹介。10%リドカイン製剤に関する情報提供の経緯などに触れ,病院の個別対応だけでなく,事故事例や対策の共有も必要だと訴えた。

 最後に,医療安全推進室の立場から岩崎康孝氏(厚労省)が登壇。国立病院のデータを集計した結果,医療事故の約4割を手術が占めることを報告し,ヒヤリハット報告の3割を占める投薬とともに,重視すべき分野であるとした。さらに,診療科別では産婦人科で最も医療訴訟の率(訴訟件数比/診療科別医師数比)が高いとして,アメリカも同様であることを補足した。また,これからは一般的事故対策と領域特異性事故対策を分類した上で医療事故対策を推進していくことが重要との考えを示した。

 その後のディスカッションでは,フロアから苦情対応の方法についても質問が飛び出し,岩崎氏は「リスクマネジメントを担当する人が苦情対応までやっている病院は望ましくない」と改善を求めた。最後に座長の三宅氏は,無責任体制から脱却するために,組織マネジメントの重要性を強調。責任と権限が明確化された組織となるために,質を管理する人材や部署の設置,適性のあるリスクマネジャーの発掘や専任化などのポイントを各演者が示し,シンポジウムを終えた。