医学界新聞

 

第5回日本言語聴覚学会開催


 第5回日本言語聴覚士協会総会・日本言語聴覚学会が,小林範子会長(北里大)のもと,6月12-13日の両日,神奈川県立県民ホールにて開催された。

 これまでの理事会主催の学術集会から「日本言語聴覚学会」として協会内に組織された記念の今学会では,松沢哲郎氏(京大霊長類研究所)による特別講演「チンパンジーのコミュニケーションとその発達」,シンポジウムは「嚥下チームの立ち上げとSTの役割」「吃音の科学と臨床」の2題が企画された。また,新たに「生涯学習プログラム講座」が開始され,自己研鑽の機会を得ようと,多くの受講者が会場に詰めかけた。

 総会では,倫理綱領の草案が示されたほか,学会誌『言語聴覚研究』の創刊が報告され,「念願が叶った。充実を図っていきたい」と藤田郁代協会長が研究の進展にかける意気込みを語った。


嚥下チーム立ち上げの壁

 近年,摂食嚥下障害に対する関心が高まる中,STを雇用する病院・施設が増加している。しかし,ひとり職場で若手のSTがいきなり嚥下障害の担当を任され,チームアプローチを試みても周囲の協力を得られず,悩む場合も多い。シンポジウム「嚥下チームの立ち上げと言語聴覚士の役割」では,冒頭で司会の堀口利之氏(北里大)がこうした現状を指摘。「チーム立ち上げの前段階に壁がある。嚥下の技術論ではなく,チーム立ち上げのノウハウについて議論したい」と,本企画の意図を語った。

 岡部早苗氏(北里大病院)は,「嚥下機能の評価・訓練という本来の役割に加え,嚥下障害に関する啓蒙や他職種間の調整など,コーディネーターの役割が重要」と強調。そのためには,周囲に理解してもらうと同時に,周囲を理解することが大切だとして,診療録や看護記録のチェック,回診への同行など,自ら動き,連絡を密に行うよう心がけていると語った。

 矢守麻奈氏(都立駒込病院)は,嚥下チームの立ち上げにおいては,「一斉スタート型」(強いリーダーシップのもとで施設内の各職種が一丸となって嚥下リハを開始)と,「ゲリラ型」(最初はSTだけで取り組み,必要に応じて他職種に協力を求める中で次第に嚥下リハに巻き込んでく)の2つの型があると分析。氏自身は後者の方法を採るとして,日々の業務の中で有用な情報交換を行う「プロフェッショナルな井戸端会議」こそ,チームアプローチのカギであると語った。

 藤島一郎氏(聖隷三方原病院)は,リハ医の立場から嚥下チームにおけるSTの役割を考察。「嚥下障害を扱うと法律で規定されている職種はSTのみである」と自覚を促したうえで,「少しでも口から食べることの意義を医師に伝える」「最初は難しいケースに手を出さず,実績を積み上げることが大切」など,医師や看護師に協力を得るための具体的なポイントを助言した。

 ディスカッションでは,会場からの質問が医師との連携に関する事柄に集中。改めて,嚥下チーム立ち上げの難しさを感じさせた。最後に堀口氏は,チーム立ち上げの際に,「目標を共有できる人が,お互いを必要として集まることが大切だ」として,今後のSTの奮起に期待の言葉を述べて,シンポジウムを閉じた。