医学界新聞

 

座談会

これからの病棟薬剤師を語る

<司会>関口久紀氏(日本病院薬剤師会専務理事)
奥村勝彦氏(日本病院薬剤師会副会長/神戸大学医学部附属病院教授・
薬剤部長)
伊藤澄信氏(順天堂大学教授・臨床薬理学/順天堂医院薬剤部長)
来栖努氏(国立病院機構 東京医療センター薬剤部主任)
安達富美子氏(東京歯科大学市川総合病院看護部長)


 現在,院外処方せんの普及や医療過誤防止対策の強化などにより,病棟薬剤師を取り巻く環境は大きく変化してきている。また,臨床現場のニーズに対応すべく薬剤師教育の6年制化や専門薬剤師など,制度の面からも大きな変革が起こり,今後の病棟薬剤師のあり方に大きな影響が出ることは間違いない。

 本号では薬剤師,医師,看護師それぞれの立場から,チーム医療において病棟薬剤師が果たすべき役割とは何なのかを語ってもらった。


院外処方せんの普及で薬剤師業務はどう変わったか

関口 現在,院外処方せんが全国平均で60%を超えるという時代になり,病棟薬剤師を取り巻く環境がかなり大きく変わってきています。これまでは外来患者さんの調剤にかかりっきりの状態でしたが,院外処方せんの発行が進むにつれ,薬剤師の業務は入院患者さんのほうへシフトしてきているわけです。具体的には,病棟での服薬指導や治験薬の管理,さらに感染コントロールや栄養サポートチーム,あるいは褥瘡チームの一員として,薬剤師が参加するようになってきました。

 一般に,薬剤師の病棟業務というと患者さんのそばへ行って服薬指導をするのが主というイメージがありますが,必ずしも病棟業務イコール服薬指導というわけではありません。例えば薬剤管理指導業務というものがありますが,これは薬剤管理指導料という診療報酬の点数がついており,医師の同意のもとに患者さんに対して薬の飲み方,効能,副作用を説明すると同時に,その記録をきちんと取って管理するという業務です。さらに,この業務を行うにあたっては,常勤の薬剤師が2人以上,情報管理室があり,注射薬を処方せんで患者さんごとに渡すこと,というような施設基準もついています。

 この薬剤管理指導業務をすることによって,診療報酬で1回につき350点,月4回までという算定ができるようになっています。現在全国の病院の7割近くが施設基準の届け出を行い,薬剤管理指導業務を実施しています。

 しかし,薬剤師の病棟業務についてはその詳細内容が明確に規定されてはいないため,施設によって多少考え方や実施状況が異なる場合があるだろうと思います。実際に病棟業務を担当している薬剤師として,来栖先生,いかがですか?

来栖 この10年で,病棟業務はかなり変わってきています。まず,私はあまり好きな言葉ではないのですが「服薬指導」ですね。例えば患者さんが処方せん通りに薬を飲まなかった,あるいは飲めなかった場合,どうしたら飲めるのかを患者さんと相談して,必要であれば服用方法をコーディネートしていく立場が求められています。薬には朝・昼・夕食後といった服用方法がありますが,実際に食後に飲まなければいけない薬というのは,それほど多くはないんです。

 ですから,医療側の“高い目”から見て「この人は飲んでないからコンプライアンスが悪い」,「この人はよい」というのではなく,どうしたら患者さんに飲んでもらえるかということをいっしょに考える。そういったアドヒアランスを心がけるようにしています。

 また,抗がん剤による化学療法や特殊な薬を使う際のインフォームド・コンセントやムンテラの中で,薬に関しては薬剤師が効能・副作用についてわかりやすく説明するということも行っています。治験に際しても,患者さんに対して事前に薬剤師が「こういう薬が,このように使われます」というプレ・インフォームド・コンセントをしておくと,その後の医師の説明やCRC(治験コーディネーター)の導入が非常にスムーズに行えるということがあります。

薬剤管理の経済的メリット

関口 奥村先生のところでは病棟で使われている医薬品,特にICUやオペ室で緊急に使われる注射薬などの管理にも,薬剤師がかかわっているそうですね。

奥村 病棟業務というと,たしかに服薬指導のほうに目がいきやすいのですが,リスクマネジメントの必要性,あるいは経済性ということを考えると,薬剤管理もかなり重要で,病院にとってもプラスになる面があります。

 例えば内服薬の管理。だいたい病室というのは日当たりがいいものですから,紫外線がよくあたるところに薬を置いておくと変質しやすいんですね。したがって,患者さん個々の薬の管理状態について確認するように言っております。これは同時に患者さんの服薬の管理もできるということになります。

 注射薬の管理はさらに病院にとってプラスになると思います。私たちのところでは,1日ごとの個別搬送にしておりますので,不良在庫のような薬剤が病棟に溜まってしまうということがありません。かつては半年に一度の大掃除をすると山のように期限切れの薬剤が出てきましたが,今では管理が徹底され,非常によくなりました。これは経済的に大きなメリットだと思います。

 それから薬の定数配置ですね。緊急性の高い部署では徹底されにくいのですが,こういうものこそ管理をきっちりやる必要があります。最近では,誰が何をどれくらい使ったかが自動的に記録できるようなカートを開発しまして,以前よりもグレードアップしたシステムを運営しています。

 また,ICUやHCUは非常に緊急性が高いことから,リスクを回避しようという意識が高い。病棟が改修になった時にICUおよびHCUのフロアが大きくなり,そこに薬剤師が1人常駐して対応するようになっています。ただ,24時間対応はしていないので時間外は駄目なのですが,昼の時間帯はすべてそこで対応しています。

■医師・看護師が期待すること

関口 医師でもあり,薬剤部長として薬剤師を指導する立場でもある伊藤先生は,薬剤師の病棟業務についてどうお考えですか?

伊藤 病院の医師や経営サイドから薬剤師に期待する最大の役割は,処方ミスの発見だと思います。薬剤師が非常にいいシステムだと思うのは,調剤や取り揃えをした時に,必ず監査をする機能がある点です。

 通常,医師の処方は誰にもチェックされませんから,もし誤った処方をしてしまうと,そのまま患者さんのもとへいってしまう危険性があります。それをきちんとチェックしていただけるというのは大変ありがたいことで,昨今問題になっている医療事故を未然に防ぐ点で,とても重要ではないかと思います。

 それから,先ほど奥村先生から薬の変質についてお話がありましたが,一般に医師は注射薬の配合変化,特に抗がん剤などの光による変化,経時的な変化など,医薬品の物性について教育を受けていません。ですから,危ない医薬品や,変化しやすい医薬品についての情報提供は,薬剤師の方々に頼らざるを得ないのが現状だと思います。

 また,もっと簡単な医薬品情報,例えば錠剤の識別,至適投与量などの情報を研修医が得るには,薬剤師がいちばん身近であり,信頼できる情報をくれる,いい兄貴分のような存在になっているかと思います。あるいは,外科系の医師は内科医ほど普段薬を使いませんから,薬について情報を得る必要がある際に,薬剤師を非常に重宝しているようです。

抗がん剤と薬剤師

関口 抗がん剤の変質がお話に出てきましたが,調製についてはいかがでしょうか?

伊藤 抗がん剤は,その投与量のチェックも含め,非常に危険性を伴いますので,私たちの施設では研修医を除く医師でなければ調製をしてはいけないということになっています。しかし診療科によっては,それを守るのが厳しいという状況もありますので,やはり専門家である薬剤師が担っていくべきものだと考えています。これは病院全体として薬剤師に希望していることで,実現するのは非常に大変なのですが,現在それに向けての人的配置を考えています。

安達 私は抗がん剤の調製は,本来ならば医師が行った方がよいと思いますが,今の私の病院では看護師が主にやっています。本年度から薬剤師さんに抗がん剤の一部を依頼するようになりました。抗がん剤に限らず,調製を専門的な目でチェックしながら行ってもらう,あるいはいっしょに行う,などのほうがよいと思います。

来栖 外来通院治療センターで行っているがん化学療法の調製については支持療法を含めて薬剤師が調製しておりますが,当院の薬剤師の人数からして,入院患者を含めたすべての抗がん剤の調製を薬剤科で一括して行うというのは現状では難しい問題です。しかしながら,取り組んでいくべき問題ですので,医師や看護師の方たちとシステムを含め検討しながら実現に向けて前向きに検討に入っているところではあります。

関口 かつては薬剤師が病棟へ行くと「何をしに来たんだろう?」という顔をされた時代もありました(笑)。その頃に比べると,ずいぶん時代も変わってきたなと思います。

 看護師として,安達先生が薬剤師に期待する役割はどういったものでしょうか?

安達 私は国立がんセンター東病院の化学療法病棟で,薬剤師さんが患者さんと直接応対をしている様子を見てきました。特に抗がん剤治療の事前説明など,とてもきちんとした指導をしてくれますので,患者さんは感激していましたね。「こんなにていねいに説明してもらって,ほんとうによくわかった。がんと闘う勇気が湧いてきました」とおっしゃる方が,たくさんいらっしゃいました。

 そういう患者さんの言葉を聞きますと,さすが薬の専門家だと思います。もっと多くの薬剤師の方に患者さんと直接かかわって専門性を発揮してほしいですね。

 がんセンターでは,薬剤師さんは夜遅くまでデータを見たり,回診にも積極的に参加していましたので,先ほど関口先生のおっしゃった「何をしに来たんだろう?」どころではなく,私たちにとって,たいへん心強い存在でした。薬の配合についての問題や,投与の時間がずれたけれども大丈夫かなど,そういった薬に関しての細かいこと,不安なことについても,すぐにアドバイスがもらえますから。

 それから,リスクマネジメントの点でも,専門家がいてお互いにチェックをし合えるというのは,とてもありがたいです。本来なら2アンプルも入れるはずのない薬を,書かれた字が読みにくいせいで入れてしまった,ということが起こるんですね。そういう時に,薬剤師さんがいっしょにやっていればチェックしてもらえますので,事故防止についても大きな働きを期待したいと思っています。

関口 伊藤先生,安達先生のお話をうかがって,やはりいちばん求められているのは,処方ミスの発見など医療事故防止につながるチェック,薬に関する情報提供ということですが,来栖先生,いかがですか。

来栖 そうですね。処方のチェックの場合,私たち薬剤師の側も業務の最中につい集中が途切れてしまい,ミスをしてしまうことがあります。それを看護師さんに見つけていただくようなケースも少なくありません。ですから,病棟に上がった段階で再度チェックするようにしていけば,よりミスを防止することができると思います。

 それから,医薬品に関する情報提供については,メーカーの情報をそのまま医師や看護師に伝えるのではなく,収集した情報を評価,加工し,一目でわかるような形で発信できるシステムを構築していかなければいけないと思っています。

関口 病院の中でもっと薬剤師が活躍しやすいような環境を作ることも大事だと思うのですが,それについてはいかがでしょうか。

来栖 薬剤師が病棟に出て業務をする際には医師・看護師との役割分担をしなければいけないと思うのですが,逆に役割分担を明確にしすぎてしまうと,「ここは薬剤師さんでしょう?」となってしまいます。私は,チーム医療というのはある程度業務がクロスしていいと思っているんです。厳密に決めてしまうと「なぜ私がこんなことをしなきゃいけないの?」「なんで俺がやらなきゃいけないんだ?」となってしまって,お互いに協力し合うような関係ができにくくなってしまうのではないでしょうか。

■動きはじめた専門薬剤師

関口 抗がん剤と関連してですが,日本病院薬剤師会では2005年度からがん専門薬剤師の認定制度をスタートさせることになりました。こうしたジェネラル・ファーマシストではない,専門性の高い薬剤師をつくっていこうという動きについて,奥村先生いかがでしょうか。

奥村 薬剤師がかなり病棟に出ていくようになって,伊藤先生が言われたように,むしろ普段あまり薬を使わない外科系の医師のほうがニーズが高いということもわかってきました。

 私たち薬剤師の側も,薬物療法は内科系ととらえて,内科での業務をメインに考えてきたんですね。しかし実際には,外科系にも薬剤師のニーズはある。つまり,それぞれの病棟の特徴,ニーズによって,薬剤師もだんだんそれに特化していかざるを得ない。その過程で,専門知識が必要になったり,さらには医療の高度化に対応していかなければならないという問題もでてきます。将来,どこの診療科でも遺伝子治療にトライするような時代になってくれば,病態ごとの製剤,これは研究に近いことですが,そういったこともやらなければいけない可能性があるわけです。

 それともう1つは,チーム医療ですね。いろいろなかたちでチーム医療が進められてくると,がんの化学療法,インフェクションコントロール,栄養管理,それぞれにエキスパートが要求されることになります。医師は,認定医・専門医というかたちが昔からできあがっていますし,看護師さんも,認定・専門看護師がそれぞれあります。そうなると,チーム医療の中で薬剤師だけが専門性を持っていないというわけにはいきません。ここ4-5年で,そのニーズが非常に強く出てきました。

安達 具体的にはどういった取り組みがされているのですか?

奥村 各地方の病院薬剤師会で,それぞれの病院の薬剤師がまとまって講習会などをスタートさせまして,例えば兵庫県では2-3年前からインターネットで育成プログラムの配信をしています。

 つまり自発的,自然発生的に,全国の薬剤師が専門知識を求める方向に動いてきていまして,むしろそれが日本病院薬剤師会を突き上げるというようなかたちになり,私たち幹部,執行部は「しっかりやらんかい!」といわれているような感じがしています(笑)。

 しかし,日本病院薬剤師会のような職能団体だけでそれを認定するというのでは,誰も認めてくれません。そこでその対応策として日本薬学会,日本薬剤師会,日本病院薬剤師会など薬学関連の学会団体も参画して,「薬剤師認定制度認証機構」を立ち上げました。ここで各種認定制度の適切な評価,支援を行い,社会の信頼性を高めていきたいと思います。

 しかし,それができたからどうこうということではなくて,やはり,全国的に薬剤師がそういう専門性を必要としているということのほうが大事だと思いますし,それを伸ばすことが社会のニーズであると思っています。もちろん,病棟の中でジェネラリストであることも必要ですけれども,自分のかかわっている病棟の知識については,深い専門性をもつことが必要ではないかということです。

安達 いま考えていらっしゃる専門薬剤師には,どのような種類があるんですか。

奥村 インフェクションコントロール,それから栄養管理のNST(Nutrition Support Team)ですね。あとは,高齢者について何かできないか模索していますし,精神病に用いる薬の開発がかなり進んできましたので,精神科専門薬剤師というのも考えています。

■チーム医療に求められる薬剤師へ

関口 伊藤先生にお伺いしたいのですが,チーム医療の一員として,例えば先ほどの専門薬剤師のような高いスキルが病棟薬剤師に求められていくことになると思いますが,これからの病棟薬剤師に必要なこととはなんでしょうか。

伊藤 医師は患者さん1人ひとりの病態に応じて薬の種類や量を変えるのですが,そういった「病態に応じた処方」についても,今後の薬学・臨床薬学教育の中で教えていかないと,医師,特に内科医の処方をチェックするのは難しいのではないかと思います。内科医にとって薬は外科医のメスと同様ですから,自分は薬剤師よりも薬についてはよく知っているという自負があります。これは内科系に薬剤師が入りにくい理由の1つだと思います。これからは薬剤師がレベルアップして,患者さんの病態に合わせて説明やアドバイスができるようになる必要がありますね。

奥村 「患者さんの病態に応じた処方」というのは非常に大事なことだと思います。私は昔から授業でTDM(Therapeutic Drug Monitoring:薬物血中濃度モニタリング)を教え,業務でもTDMに力を注いできました。個人差がいかに大きいかということを教えてきましたが,これからはより力を入れて勉強してもらわなければいけないだろうと思います。

伊藤 私は2002年に順大へ赴任してきた時に,薬剤師の目標として,知識・技術で「医師と闘える薬剤師」になってほしいと言いました。それから,去年は患者さんの前に出ていって,「私は薬剤師の○○です」と言うように指導しました。つまり,薬剤部の中から外へ出ていけということです。

 今年は,患者さん,医師,看護師に自分たちが行っている業務に満足していただき,かつ自分がいなければ困ると言われるような責任の取れる薬剤師になってほしいということをスローガンに掲げています。「薬剤師がいなければチームが動かない」というところまで早くなってほしいですね。

 薬剤部の中にいる薬剤師ということではなくて,個人として「私のやっている業務はこれです」ということを言えるようになってはじめて,薬剤師自身,自分の業務に満足できるし,他の人にも満足してもらえるのではないかと思っています。

関口 日本病院薬剤師会の全田浩会長が常に言っているのは,「顔の見える薬剤師」と「薬あるところに薬剤師あり」ということです。「顔の見える薬剤師」というのは,いままで病院の薬局にこもっていて何をやっているかわからなかったという状況を変えましょうということで,どんどん積極的に臨床の場に出なさいということですね。

 それから,「薬あるところに薬剤師あり」は,病院内の薬のある部分についてはすべて,薬剤師が管理しましょうということです。つまり日本病院薬剤師会のスタンスとして,より臨床現場に出ましょう,リスクマネジメントをきちんとやりましょう,ということです。

奥村 薬剤師がすべての病棟にいれば,ICUやHCUの例のように,リスクマネジメントの面から見て大いにメリットがあります。麻薬などの特殊なものの管理もスムーズにできるでしょうから,病棟での薬の管理はかなり改善されると思います。

安達 薬剤師さんが病棟で実際に患者さんと接する機会が多くなれば,今まで見えていなかったものが見えてくるようになると思います。いろいろ努力しても逆の結果になって,報いられないこともありますが,そういうことも含めて,本当の臨床のおもしろさを感じることができるようになってくれば,それが薬剤師さんを動かすエネルギーになるだろうと思います。

 臨床薬剤師としては患者さんと対応するためのコミュニケーションスキルのトレーニングなども必要になってくるでしょう。

薬剤師教育6年制化への課題

来栖 私は薬剤師に「味を覚えなさい」と常々言っています。どういうことかというと,「この薬はいつから効いてきますよ」ということです。効果がすぐにわかる薬もあれば,そうでないものもある。それを覚えなさいということです。当然副作用はいつ出やすいのかについても,患者さんにきちんと説明することができる薬剤師を養成していく必要があると考えています。

 医師の処方意図が汲めなくては,患者さんにわかりやすい説明は当然できません。これからは,そうした教育にも力を入れていかなければいけないのかなと思います。

 それから,先ほど安達先生からコミュニケーションスキルの問題が出ましたが,私はよく,患者さんの横にべたっと座ってしまうんです。「患者さんと目の高さをいっしょにすること」,これを口で言うだけでなく,態度で示すことも大事です。

 非常に疑問に感じるのは,薬剤師の教育が6年制になるのであれば,なぜ薬剤師の臨床業務をもう少し変えようという議論が出てこないのか,ということです。「輸液を作って,どうしてラインを巻いていかないのか? せっかく注射薬の無菌調製をするのなら,ラインこそきれいにするべき」など言いたいことは多いですね。もっと薬剤師の業務について,検討がなされるべきです。

 いまの薬剤師の業務は非常に旧態依然としたものがまだまだ多い。それを引きずっているから,なかなか臨床現場に対応できないわけです。そういった面で考えると,今,独立行政法人になったことはチャンスかもしれません。「稼ぐ」というのが大きなテーマになっているわけですから,インフェクションコントロールの観点からも,注射薬については極力クローズド・システムにしていくことで,院内感染を予防し,入院期間の短縮につながります。

関口 いろいろなご意見が出ましたが,私がいちばん印象に残るのは,伊藤先生の言われた「薬剤師がいなければチームが動かない」という言葉です。そこまで薬剤師が成長しなければ,本当の意味でのチーム医療への参画はできないだろうと思いました。

 2006年から6年制の新たな薬剤師教育がスタートします。そしてその6年後には,新しい教育を受けた薬剤師が社会に出てくるわけです。その時に,病棟薬剤師の業務はどのようなものになっているのか。また,彼らが入っていく病院の薬剤部は,どのように変わっていなければならないのか。これは非常に大きな命題です。

 6年間の教育を受けて出てきた薬剤師が十分に活躍できる環境を,いまのうちから構築しておかなければいけません。日本病院薬剤師会としても,そこを目標にがんばっていこうと思います。

 本日は,お忙しいところをお集まりいただき,ありがとうございました。


関口久紀氏
1960年東京薬科大を卒業後,国立東京第一病院に勤務。以後9か所の国立病院と厚生省の行政官を経て2003年4月から現職。「30年にわたる医療の現場での経験を生かし,病院薬剤師の明るい将来のため汗を流したい」
奥村勝彦氏
1965年京大薬学部卒。同大薬学部助手を経て,米国NIHに留学,薬学博士号取得。帰国後は広島大医学部助教授,京大病院助教授・副薬剤部長を務め,1988年より現職。専門は医療薬学で,遺伝子解析による薬物投与の最適化を研究。
伊藤澄信氏
1986年信州大大学院卒業後,ニューヨーク州立大Family practiceレジデント修了。国立東京第二病院総合診療科,医薬品医療機器審査センター主任審査官,国立病院東京医療センター内科医長を経て2002年より現職。医薬品開発を専門とするジェネラリスト。
来栖努氏
1980年東邦大薬学部卒。国際医療センター,横浜医療センター等4病院を経験し,現在,国立病院機構東京医療センター薬剤科勤務。薬学生に対する病院実習のあり方,がん患者に対する化学療法や疼痛コントロールに興味を持っている。
安達富美子氏
国立東静病院附属看護学校卒業,国立がんセンターで勤務後,国立病院8施設で看護教育,看護管理を経験。2004年4月から現職。東洋英和女学院大学院人間科学部死生学専攻。ターミナルケア,スピリチュアルケア,死生学教育に関心を持っている。