医学界新聞

 

投稿

入院患児の兄弟から教わったこと

-学生ボランティア「Night Friend」の試み

三ツ堀祥子(聖路加看護大学4年生)


患児の兄弟が抱えるストレス

 大学2年生の時,私は小児看護学の授業で入院患児の兄弟の心理について学びました。家族が入院患児にかかりっきりなってしまうため,彼らは親を独占したくてもできず,さまざまな欲求を我慢しなければならない,ストレスフルな状態に置かれています。また,こうした児童はPTSDを抱えたり,入院している患児以上にストレス症状が出たりすることもあるそうです。

 私はつらい環境におかれている彼らに「ちゃんと見ている人がいるよ」というメッセージを送りたいと思い,何かできることはないかと考えていました。

 ちょうどその頃,私は他大学看護学部の学園祭に行き,入院患者にクリスマスカードを送る「サンタ企画」というものを知りました。そこで,患児の兄弟たちにクリスマスカードを渡す企画を考えて病棟に相談に行ったところ,ナースマネージャーと病棟保育士の方から,病棟の抱える問題を聞かされたのです。

病棟のニーズ

 小児病棟の多くは,面会に年齢制限を設けています。そのため,患児の兄弟が保護者に連れられて面会に来たとしても,12歳以下の場合は小児病棟の外のロビーで待つことになります。病棟では,こうした子どもたちがロビーで放置状態になってしまうことに対し,対処法を考えていました。

 また,一方で保護者が面会に来ていない時間,入院患児が1人さびしく過ごしている,という問題もありました。1人で痛みに向き合う,つらい時間になってしまうのを少しでも和らげることができないだろうか。私はこの問題に取り組もうと思いました。

対等な友だち“Night Friend”

 私は当初,月に数回紙芝居・劇などのイベントを夜の時間帯に病棟で行うことなどを考えていたのですが,病棟側から「できれば毎日来てほしい」という要望が出され,話し合いの結果,保護者の面会終了まで兄弟たちと過ごす,あるいは面会者不在の患児といっしょに過ごす学生ボランティアを派遣することにしました。

 これが,Night Friend(以下NF)のはじまりです。NFという名前は「お世話に来てくれる人」ではなく,あくまで対等な立場の「友だち」でありたい,と願いを込めてつけました。

 「兄弟や患児のがんばりを認め,孤独の軽減とストレス緩和を図る」,「保護者面会中の兄弟の安全と保護者の安心を確保し,良質な面会時間を提供する」という目的のもとにはじまったこの活動は,現在聖路加看護大学の学生約100名(4月現在のメーリングリスト登録者数)で運営されており,平日18:30-21:30の間,病棟ロビーや病棟内で,兄弟や保護者不在の患児といっしょに遊んでいます。

 また,他看護大学の学生にも見学してもらい,NFの全国普及にも努めています。連絡は登録者専用のメーリングリストを使い,シフト登録や活動日に気づいたこと,引継連絡などの記録はインターネット上で行っています。また,ホームページでは活動概要の経過報告もしています。

(ホームページアドレス http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Kikyo/2939

子どもの気持ちを受け止める

 ある患児の妹,Mちゃん(3歳)は,保育園からの帰宅後,母親に連れられて病院に来ていましたが,これまでは面会終了までロビーに1人で待っていました。

 彼女には気持ちの変化が激しいこと,患児の入院前にはなかった下痢や頻尿が見られるなど,環境の変化によるストレスの影響がうかがえました。そこで担当のNFは,できるだけストレス発散ができるように,彼女の好きな遊びをしたり,絵本を読んだり,また,自分を責めるような行動がある時も,気持ちを受け止める姿勢でかかわりました。

 ある日,彼女は小さないたずらをしました。NFは「だめだよMちゃん」と怒らず普通に話しかけたのですが,彼女は「いいの! Mちゃんは悪い子なの! Mちゃん自分のこと大嫌いっ!」と言って自分の顔を叩きはじめました。

 NFはすぐに「そんなことしちゃやだよ。私はMちゃんのこと大好きだもん・」と言って,Mちゃんの手首をつかんで止め,両腕でぎゅっと抱きしめました。しばらくそうしていると,やがてMちゃんは叩くのをやめ,落ち着きました。

 患児の退院後,Mちゃんの保護者から「兄弟がいる子どもが入院した場合,残りの子どもの面倒をどうするかは深刻な問題で,核家族化が進む中でこのような活動の需要はますます大きくなると思います。NFがいなかったら,不安の多い入院生活を乗り越えられませんでした」というお手紙をいただきました。また,看護師の方からも「子どもが楽しそう」「手助けになる」などの評価をいただきました。

今後の課題

 現在,NFの派遣を管理している企画部は1-4年生のうち各1名ずつの4人で動いています。運営にあたっての課題は,NFのシフト管理や,記録の徹底です。特に,構成員が同じ看護大学の学生なので試験期間や学期の前後はどうしても人数が確保できず手薄になってしまうという問題があります。

 また,初めてNFに参加する学生は,子どもたちへの接し方にとまどったり,ご機嫌斜めな子どもからの言葉に落ち込んだりしていました。

 企画部ではこれらの課題に対して,入りやすいシフト編成や病棟との連携,勉強会や定期的なミーティングによって解決できるよう努め,今後も活動を続けていきたいと思っています。

NFを通して気づいたこと

 NFの活動を通して,患児の兄弟たちの家族を思う優しさや,甘えたいのを必死に我慢しながら,いっしょに患児の病気と闘っている姿を目の当たりにしました。私たちNFは家族の代わりにはなれませんが,それでも子どもたちは私たちを見つけると駆け寄って飛びついてきて,笑顔になってくれます。NFを楽しみにしてくれている,それだけは自信を持って言えます。

 病気によって失うものもありますが,家族いっしょに病気と闘う絆やパワーなど,得られるものもあるはずです。隣人とのつながりが希薄になりがちな現代において,患児が入院した時,残された家族を支える役割は,看護の大切な一面であると思います。しかし,直接的な業務で忙しい看護師の方々には正直難しいことかもしれません。

 私たちは学生であり,時間にも余裕があります。だからこそできるNFとして,家族のパワーを支える活動をしていきたいと思います。

 このような,患児の兄弟も視野に入れた活動をしている看護学生の団体は,日本ではまだ他に例がないそうです。NFの活動は,難しいものではありません。看護学生の誰かが,少しの関心を持って動き出せば,はじめることができます。入院生活が家族にとってマイナスではなく,プラスの経験になるよう,ぜひ動き出してくれればうれしいです。このような活動がもっと広まり,家族が「何かを得られた入院生活だった」と思ってくれることを願っています。

 最後に,NFの活動は病棟スタッフと,のべ224人のNF協力者に支えられて今日まできました。この場を借りて深く感謝申し上げます。