医学界新聞

 

外科の「これから」が議論の焦点に

第104回日本外科学会開催


 さる4月7-9日,第104回日本外科学会学術集会が,松田暉学会長(阪大教授・臓器制御学)のもと,大阪国際会議場・リーガロイヤルホテル(大阪府大阪市)において行なわれた。「外科学への新たなる挑戦-適塾に学び未来へ羽ばたく」をメインテーマにした今回の学術集会では,外科医師育成や医学倫理,医療保険制度と外科,などさまざまな特別企画が行なわれた。中でもCGを駆使した特別企画「Cybersurgery-先端技術が創り出す外科の新世代」は,力の入った演出もなされ,多くの聴衆の関心を集めていた。


■外科医育成の課題

「適塾」に学び外科を支える

 会長講演「わが国の外科医育成における課題と今後の展望――外科医を取り巻く環境改善から」では,松田暉学会長が,自らの外科医としての歩みを振り返ったうえで,外科領域の現状と,その中で外科学会が果たしていくべき役割について述べた。

 大学卒業後,心臓血管外科で経験を積んだ松田氏は,先天性心疾患分野からはじまり,昨今の人工臓器・臓器移植に至るまで,外科分野における最先端で活躍を続けてきた。ことに阪大では全国に先駆けて臓器移植,人工臓器等の最先端外科手術の臨床にかかわり続けてきた松田氏は,それらの経験を振り返りつつ,外科医ならびに外科学会が「挑戦」を続けていくことの重要性を強調した。

 外科医育成については,まず外科医を希望する人が減っている現状について,日米の例を紹介。診療科を選ぶ際にもっとも優先されるファクターが「ライフスタイル」であるという最近米国で行なわれた医師の意識調査を紹介し,若い世代の「外科離れ」が日本固有の事情ではないことを説明した。こうした中,大切なのは「外科医のやることは少なくなった」「将来性がないのではないか」といった「誤解」を解いていくことであり,外科学会はそうした役割を担っていく必要があると述べた。

 また,外科専門医制度の医療保険上の位置づけの問題と合わせて,外科医の専門性が適切に評価されるべく,社会的評価を高めていく必要性を強調し,欧米に比べて圧倒的に少ない病院あたりの医師,看護師の配置の現状と合わせて,改善に向けて学会をあげて努力していきたいとした。

 最後に松田氏は学術集会のテーマのサブタイトルを「適塾に学び未来へ羽ばたく」としたことについて,「困難な時代において緒方洪庵の思想に医療者が学ぶことは多い」と述べ,「其術を行ふに当ては病者を以て正鵠とすべし。決して弓矢となすことなかれ」という洪庵の言葉を常に頭に入れて,外科を取り巻く諸課題に取り組んでいきたいとした。

■外科を取り巻く「現在」と「未来」

医療制度改革と外科

 比企能樹(北里大名誉教授),安井久喬(浜の町病院院長)両氏の座長のもと行なわれた特別企画「医療制度改革の動向と外科医療――現状と問題点」では,薬価の切り下げ,DPC包括払いの導入,患者の3割自己負担などの医療保険制度の変化を背景に,外科医療の今後の課題が話し合われた。

 まず出月康夫氏(東大名誉教授)は,昨今の「医療改革」について,医療に関する国民の自己負担を増加させ,中小病院,特に急性期医療を扱う病院を存続の危機に追い込むものだと述べ,これは早晩,外科医療,ひいては外科教育や研究にも悪い影響を及ぼすものだと指摘した。

 続いて原崎弘章氏(福岡和白病院院長)は日米の医療ならびに外科医にかかわる経済的問題に触れた。原崎氏は米国の外科医に比して,日本の外科医の収入が格段に少ないことに触れ,技量による収入格差が大きい米国の事情を差し引いても,日本の外科医は十分な収入を得ているとはいえないと述べた。

 黒澤博身氏(女子医大・心臓血管外科)は,心臓血管外科にかかわる医療経済問題について概説。心臓血管外科の手術料は現在,施設基準を満たしていないと減算される制度となっているが,現状ではそれによって多くの手術が減算対象となっている。黒澤氏は症例数が少ないからといって必ずしも成績が悪いわけではないうえ,現在の施設基準ではそれを満たす施設が存在しない二次医療圏が76%もある現状を指摘。こうした施設への診療報酬抑制は地域医療崩壊を招きかねないとし,施設基準に関する何らかの緩和策が必要ではないかと述べた。

 山口俊晴氏(癌研究会附属病院・消化器外科)は,外科にDPC包括払い制度を適用する際の問題点を指摘した。山口氏らによる調査では,包括払いにおける胆石症手術と胃癌手術の医療費について,合併症がある場合には医療費が著明に増加することや,医療費の抑制に伴う医療の質の低下の可能性が明らかとなったという。山口氏は特に胃癌などの悪性腫瘍の場合,包括化することによって多様な選択肢が制限され,そのことが医療の質低下につながるとして,導入には慎重になるべきであるとした。

 最後に山崎晋一郎氏(厚労省保険局)は,平成16年度の診療報酬改定について概説した。山崎氏は中央社会保険医療協議会(中医協)での議論の経緯を紹介しつつ,診療報酬体系の抜本的見直しの第一歩として今回の改定の要点を説明した。特にDPCについては次回の診療報酬改定時での適用拡大を念頭におきつつ,大学病院・特定機能病院での試験運用を行なっていきたいと述べた。

 ディスカッションでは,外科の将来を開く社会制度の構築を主な焦点に,会場を巻き込んだ議論が行なわれた。ディスカッションの最後に,司会の比企氏は,医療保険制度全体の改革を含めた,これからの外科のあり方について,今後もオープンな議論を重ねていく必要があると述べ,セッションをまとめた。

先端技術はどこまできたか

 特別企画「Cybersurgery-先端技術が創り出す外科の新世代」では,大橋秀一(阪大),橋爪誠(九大)両氏の座長のもと,コンピュータグラフィックスを用いた斬新な趣向で,すでに実用化されている最先端医療から,近い将来に実現するであろう外科医療の「未来予想図」が紹介された。

 HONDA技研の二足歩行ロボット「ASIMO」を進行役に登場させるなど,凝った趣向のなか,大陸を挟んでの遠隔手術,いわゆる「リンドバーグ手術」を成功させたJacques Marescaux氏(IRCAD-European Institute of Telesurgery, France)や橋爪氏による,手術支援ロボット「ダビンチ」「ゼウス」などを用いた遠隔操作による手術の成功例の紹介や,NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトによる新しいロボット鉗子の開発の状況,医用VR(Virtual Reality)による手術シミュレーションの様子などが次々と紹介された。また,堀田隆久氏(東淀川医誠会病院・ロボット手術センター)による手術支援ロボット「ゼウス」の実演では,手術の縫合や結紮の様子がスクリーンに映し出され,その操作の正確さ・融通性・安全性などが確認された。

 最後に大橋氏は「すでに実用化されているものはもちろん,紹介された新技術はいずれも外科の新時代到来を予感させるものだ」と述べ,セッションをまとめた。