医学界新聞

 

循環器学の社会への貢献をテーマに

第68回日本循環器学会開催


 第68回日本循環器学会が,さる3月27-29日の3日間,上松瀬勝男会長(日大教授)のもと,東京国際フォーラムにて開催された。本学会では,「循環器学の社会への貢献-基礎・臨床・予防」をテーマに,会長講演,Spencer B. KingⅢ氏(前エモリー大)による美甘レクチャー,廣川信隆氏による真下記念講演の他,海外の著名な研究者による5題の招待講演,9題のプレナリーセッション,8題のシンポジウム,海外の学会との合同による4題のジョイント・シンポジウム,2題のラウンドテーブルディスカッションなど充実した演題が企画された。また,心肺蘇生法普及委員会や健保対策委員会など,日本循環器学会の各委員会もさまざまセッションを企画し話題を集めた。なお,参加者数は,昨年度を10%上回り1万1000名を超えた。


 日本循環器学会会長講演では,上松瀬会長が「急性心筋梗塞治療の進歩」をテーマに講演。師にあたるPeter Ganz氏(ブリガム&ウィメンズ病院)の「血栓を溶かそう」という言葉に触発を受けたエピソードを紹介しつつ,「いかに早く開通させるかが重要」との考えから,1980年代から現在に至る,血栓溶解療法を中心とする急性心筋梗塞治療の変遷を述べた。

薬物治療,PCI,外科治療における長期予後

 一方,シンポジウム「日本人における冠動脈疾患の長期予後-薬物治療,PCI,外科治療」(座長=岐阜大 藤原久義氏,東女医大 遠藤真弘氏)では,長期予後の観点からみた冠動脈疾患の治療選択が議論され,多くの聴衆を集めた。
 同シンポジウムでは,まず,富沢康子氏(東女医大)が「DM患者における冠動脈再灌流(内胸動脈を用いたバイパス術)」について述べ,「透析,緊急,再手術を除外した,待期的,初回,単独,内胸動脈を用いた多枝冠動脈バイパス手術症例ではnon-DM症例の全死亡回避率はDM症例に比べて良好である」,「DM患者でEF(左室駆出率)40%以上では多枝冠動脈バイパス術を施行する時,skeletonized BIMAの使用は全死亡回避率を改善し,また,全死亡,再手術,梗塞回避率を改善するから有用である」と報告した。
 西山信一郎氏(虎の門病院)は「日本人冠動脈疾患の長期予後(保存的治療,PCI,CABGの比較)」について口演。さまざまな調査研究を援用しつつ,「わが国における虚血性心疾患の内科的治療による長期予後は良好である」と述べた。西山氏は「インターベンション治療は虚血を改善することはできるが虚血性心疾患の本態である動脈硬化を治療するものではない」と指摘し,「動脈硬化の進展を阻止する生活習慣の改善を含めた内科治療が虚血性心疾患の予後改善には必須である」とした。
 西垣和彦氏(岐阜大)は「Low-risk安定狭心症の治療(保存的,PCIの比較)」について述べ,「日本における狭心症では,ローリスクは薬物治療によってコントローラブルである」と指摘,さらに薬物治療のほうがPCIよりも低コストであるとの結論を示した。
 宮崎俊一氏(国立循環器病センター)は「ステント時代における耐糖能障害患者に対するPCIの長期予後」について口演。「PTCA施行例の中で糖尿病の長期予後は正常者と比較して不良である。また,耐糖能異常症例の長期予後も同様に不良である」と報告し,「その原因として対象冠動脈径が小であることよりも,耐糖能異常そのものが主たる要因と思われる」と指摘した。ただし,「ステント時代には糖尿病,耐糖能異常例であっても長期予後不良とはならない」との見解を示した。
 石原正治氏(広島市民病院)は「急性心筋梗塞に対する最近の治療の傾向」について発言。「ステントが用いられることにより,急性心筋梗塞でもTIMI3が得られるようになった」と述べた。
 延吉正清氏(小倉記念病院)は「10年以上におよぶPTCAの長期予後」について検討。「Balloon Angioplastyの初期の成功率はステント時代に比べるとよくはないが,長期の臨床的で,アンギオグラフィクなアウトカムは良好だ」と述べた。
 また,水野裕八氏(阪大)は「MIの2次予防としてのスタチンの意義」について口演。CRPが高値の患者に対する退院前のスタチン投与の意義などについて述べた。
 最後に登壇した由井芳樹氏(京大)は日本人を対象にした大規模多施設共同臨床研究である「JMIC-Bよりみた,高血圧患者における冠動脈疾患の長期予後」について述べた。氏は,その結果から,「日本人の冠動脈疾患合併高血圧において,冠動脈病変の進展抑制効果,新規病変の抑制効果を加味すると,長時間作用型CCBはACE阻害薬より有用である可能性が示唆された」とした。
 その後行なわれた,シンポジストらによる討論では,「イニシャルの治療は薬物治療かPCIか?」などの話題が取り上げられた。薬物療法,PCI双方の治療は大きく進歩しているが,わが国にはどちらが優れているのかを測ることができるデータがほとんどないのが現状だ。司会の藤原氏は「ぜひ,PCIと薬物治療の比較をプロスペクティブ・スタディでやってほしい」と訴えると同時に,学会として真剣に検討すべきテーマであることを強調した。

薬剤溶出性ステントが話題に

 ところで,わが国では,PCIが虚血性心疾患のスタンダードな治療として確立しており,欧米に比べ積極的に行なわれていることが知られている。しかし,PCI治療においてもステント後の再狭窄は依然として大きな課題となっている。
 そこで,再狭窄を防ぐ新しいデバイスとして本学会で大きな話題を集めていたのが,「Drug-Eluting Stent(薬剤溶出性ステント,以下DES)」である。DESには,再狭窄を防ぐ薬剤が塗ってあり,それが血管壁に1-2か月かけてゆっくり放出される。特に,免疫抑制剤のSirolimus溶出性ステントによる再狭窄率の減少は「革命的」といわれており,2002年には欧州,03年には米国で発売されるなど,既に世界約60か国で発売され,「バイパス手術が不要になるのではないか」との見方すら出るようになっていた〔DESについては,山口徹,他編『Drug-Eluting Stent』(医学書院)に詳しい〕。
 DESはわが国でも承認が間近と言われ,本学会では,「冠インターベンション後再狭窄2003-再狭窄の克服に向けて」と題するプレナリーセッション(司会=Ganz氏,日大 斎藤穎氏)やトピック「肝動脈のNew Device」(座長=湘南鎌倉総合病院齋藤滋氏)をはじめ,さまざまなセッションで話題となっていた。今後,虚血性心疾患治療が,DESによってどう変わっていくのか,注目される。

■会場でACLSコースを開催

 第68回日本循環器学会では,同学会の各委員会による企画も多数行なわれた。中でも,心肺蘇生法普及委員会が行なった「日本循環器学会AHA ACLSプロバイダーコース」はAHA(米国心臓学会)の正規認定コースということもあり,20人の定員に160人もの応募者を集めた。
 ディレクターを務めた野々木宏氏(国立循環器病センター)は,「各地域で標準化された心肺蘇生法の普及の核になるような人という観点から,参加者の方を選考した。この試みが普及のための一歩となってほしい」と話していた。