医学界新聞

 

〔寄稿〕

プリセプターを迎える看護管理者の皆さんへ

陣田泰子(聖マリアンナ医科大学附属病院看護部長)


 桜の花の咲く頃,ちまたでは春に浮れて気持ちよくなる頃です。でも大学病院では「あ,新人さんがやってくる」「また医師も変わる!」と,もう反射的に考えてしまうほどの重要な季節なのです。
 以下は,1年の最大イベントとも言うべき「新人ナースの受け入れ」,その準備にあたる管理者の方々への私からのメッセージです。

病院と自部署の状況把握

 プリセプターのことについてお話しする前に,4月の病院の状況は地域や病院によってかなり異なる,ということは押さえておく必要があるでしょう。ちなみに私の所属する大学病院では,師長たちにとって少々頭の痛い季節です。
 同じ大学病院でも,退職率が一桁の病院から,当院のように13-16%を行ったり来たりしているところまで,新人ナースが配属される人数はかなりの違いがあります。まずは地域性,そして病院の違いによって状況が異なることを認識し,そのうえで自分の所属する部署の特徴をしっかり把握しておきましょう。今年の退職者は,例年どおりの傾向か,それともいつになく多いのか,事前の状況把握が重要です。これらの情報はOJTに大きく影響することになります。

限界を超えない!

 1年前の12月頃だったでしょうか。あるナースと面接していました。「4月になったら…」といったとたん,涙をポロポロ流しました。驚いて尋ねると「すみません。去年の4月を思い出してしまいました」と話しはじめました。
 去年の4月頃,彼女は「新人ナースの指導で,いつも10時過ぎ,時には12時を超えてしまうこともあった」というのです。「また,あの日々がくると思うと今からつらくてたまらない」と言うことでした。師長に確認すると「実は,そうだったのです」と困った顔で答えました。
 大切な点は,管理者は,超えてはいけない一線をどこに設定するかということです。プリセプターたちは,指導に一生懸命になるあまり,周りが見えなくなってしまうことも多いもの。「一線を超えていないか?」という管理者の目配りが重要なのです。

新人とプリセプター,両者の変化を鋭くキャッチ

 新人ナースはしばらくは興味と関心を糧にがんばりますが,通常3週間目くらいから疲れがではじめ,次第にネガテイブな思考回路になってきます。私がよく見る「サイン」は,朝の挨拶です。挨拶が元気のうちはよいのですが,声が小さくなったり,視線を合わせなくなったら要注意です。

俯瞰的に見ることができるベテランの存在

 新人とプリセプターは,いわば運命共同体。プリセプターに「肩の力を抜いて」と言っても,そう簡単には力は抜けるものではありません。何かあったら「プリセプターは誰?」等と周囲は勝手に言うものです。なかなか距離を置くことはできず,両者は密着していくものです。
 その両者を比較的客観的に見ることができるのがベテランナースです。ベテランナースは,ちょうど部屋の天井から全体を見下ろすように(俯瞰的に),たくさんのプリセプター・プリセプティ間の関係性の変化を第六感で感じ取っています。問題が起こりそうな場合には,早目に調整役を買って出てくれます。当院には「リーダー会」なるものがあり,ここのベテラン達が新人教育によい役割を果たしてくれています。

「お疲れ様!」

 例年6月頃,プリセプターに「お疲れ様!」と心をこめて「プリセプター茶話会」を設けています。この日は,「愚痴でも何でも言いたい放題!」と無礼講です。グループ単位にするところまでは演出しますが,後は発表も何もなくただ,仲間と話して帰るのです。茶話会というからには,どんなお茶菓子が,と思うでしょう? 昨年は奮発して1人に1個,おいしい鎌倉カスターが用意されました。そうです。これは私が奮発しました。彼女らの使い果たしたエネルギーを少しでも充電できるようにぐっと奮発したのです。

期待を込めて送り出す

 手塩にかけたプリセプテイ,気にはなりますが,ずっと追いかけて行くこともできません。あとは「大きくなっても私のこと,忘れないでね」と送り出しましょう。プリセプターをはじめとして,教育全般について私が考えるいちばん大事なことは「この新人の中にどれほどの潜在能力が眠っているのだろうか」と,いまだ見えないその力を信じることではないかと思います。かなりのドジでも,4-5年もすると立派な中堅になるものです。
 最後に,私から,管理者の皆さんに贈る言葉です。
 「ほどほどに」「いいかげんで」
(アクセントによってかなりニュアンスが異なるので注意!)