医学界新聞

 

総合診療の中核となるものを議論

第12回日本総合診療医学会開催


 さる2月21-22日の両日,川崎市の聖マリアンナ医科大学にて,中村俊夫大会長(聖マリアンナ医大)のもと,第12回日本総合診療医学会が開催された。
 本学会では,「共有化された基盤のもとにさらなる飛躍を」をメインテーマに掲げ,英国から王立GP医協議会前議長のMike Pringle氏を迎えた講演や「バイオエシックス」をテーマにした木村利人氏(早大)による講演の他,シンポジウム「総合診療に必要な臨床技能」,パネルディスカッション「総合診療における研究デザインと統計学」,「臨床倫理教育」や「OSCEの妥当性」をテーマにした5題のワークショップなどが企画された。


 シンポジウム「総合診療に必要な臨床技能」(座長=札幌医大 山本和利氏,千葉大 生坂政臣氏)では,まず,座長の山本氏が「総合診療の中核となるものは何か,明確にしたい」と本企画のねらいを提示したうえで,「身体診察」,「臨床推論」,「ナラティブ・ベースド」,「コミュニティ・ベースド」と4つのテーマを掲げ,各演者に発言をうながした。

検査前確率(pretest probability)

 はじめに登壇した松村理司氏(舞鶴市民病院)は,日本の医療現場における症例呈示においては,検査所見が重視されすぎており,病歴や身体所見が軽視されていると述べたうえで,病歴と身体所見による「検査前確率(pretest probability)」の確実な把握が日本の医療現場では大切であり,また,内科診療の妙味であるとした。
 さらに,「そのためにも病歴のみによる鑑別診断においては,頻度および重症度の重み付けが大事であり,その後に身体所見を足して整理する」,と基本的なスタイルを,豊富な事例を紹介しつつ独特の語り口で述べた。

医学生はなぜ診断ができないのか

 続いて,小田康友氏(佐賀医大)は佐賀医大における教育実践を中心に述べた。まず,6年次に行なわれる,佐賀医大独自の総合外来実習の中で,「医学生はなぜ診断できないのか」と疑問を抱きつづけたと問題を提示。5年次クリニカルクラークシップの内実から,氏は,「医学生が診断能力獲得が困難なのは,自分の頭で考え,責任を持って決断する訓練,そしてそのフィードバックの機会に欠けることに一因があるのではないか」と考え,「附属病院を訪れた患者が最初に出会う医療者は医学生」という仕組みをつくったという。これにより,医学生に「当事者意識」をもたらすという点では,一定の成果を得たという。

仮説形成がポイント

 しかしそれだけでは,実践の指針が欠けていることから,小田氏は診断能力教育の枠組みを検討。現在の診断能力教育は,臨床前教育レベルではPBL,臨床教育レベルでは,POS+EBMで行なわれているが,例えば,「POSは論理的な記録と監査・修正を統一した優れたシステムだが,『何が,なぜ,医療情報なのか』,『いかに評価(仮説の形成・検証)すべきか』といった実践の指針を示すものではない」と指摘。そこで,診断能力の向上をめざして医学生の思考プロセスに注目し,症例検討スモール・グループ・ディスカッション(SGD)を採用。臨床問題解決プロセスを討論した。それによれば,医学生は医療面接において診断仮説がないことから「聞きもらし,見落としが多い」ことが浮かび上がったという。
 氏は,ボルダージュ氏(イリノイ大)の理論を援用しつつ,「医学生は仮説の形成に基づく情報収集ができていない。網羅的ではなく,問題表象媒介とすることが望ましい成果を生む」と結論した。

ナラティブ・ベースド
コミュニティ・ベースド

 一方,岸本寛史氏(静岡県立総合病院)は,心療内科における自身のナラティブ・ベースド・メディスン(NBM)の実践について述べた。この中で氏は,NBMは病を物語であるとみなし,患者を物語の語り手として尊重する一方,医学的な疾患概念や治療法も医療者側の物語と捉え,治療とは両者の擦り合わせる中から新たな物語をつくりだしていくプロセスであるとの考えを示した。
 また,最後に登壇した佐藤元美氏(藤沢町福祉医療センター)は,コミュニティ・ベースド・アプローチをテーマに,佐藤氏の勤務する藤沢町における,「みんなでつくろうみんなの健康」を合言葉にした住民主体の保健医療福祉づくりへの取り組みを紹介した。