医学界新聞

 

【レポート】

入院患児の家族を対象にした宿泊施設

――善意の寄付で運営されるドナルド・マクドナルド・ハウス


 小児がんなどの難病のため都会の病院に入院しなければならないが,子どもが入院しても自宅が遠く,付き添いの家族の負担が大きい……。そんな家族のために善意の寄付によって運営されている宿泊施設が全国各地にできている。今回は財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン デン・フジタ財団が寄付を募って運営し,東京都世田谷区・国立成育医療センターに隣接する「ドナルド・マクドナルド・ハウス せたがや」を取材した。


設立の経緯

 1974年,米国・フィラデルフィアで白血病の娘を持つフットボール選手が,娘が入院する病院と,その近くにあったマクドナルドのオーナーなどの協力を得て募金活動を進め,地元新聞社主が提供した家屋を改造して世界初のドナルド・マクドナルド・ハウス(以下,ハウス)が作られたという。以来,活動は世界中に広まり,現在までに23か国に,200以上の施設が建設されている。
 せたがやハウスのオープンは2001年12月。当時の国立大蔵病院わきの敷地を確保し,国立成育医療センターのスタートと同時に運営がはじまった。

家族間のコミュニケーションをとる工夫も

 せたがやハウスの利用料は1人1泊1000円。18部屋が用意されているが,毎月50家族ほどの利用があるという。利用希望者が多いため遠隔地の希望者を優先しており,現在では東京近郊の希望者は利用できないことになっている。
 ハウスは,入院する小児の親や兄弟が宿泊する他に,外泊許可の出た患児が家族とともに過ごせる場所でもある。せたがやハウスの入り口には日当たりのよい,子どもが遊べるエントランスホールが用意されている他,パソコンルームの隣に窓を挟んで小さな子どものためのプレイルームがあり,親はパソコンを使用しながら子どもを見守ることもできるようになっている。
 テレビは共通の食事スペースのみに設置されている。キッチンも隣の家族との仕切りのない「対面式」。子どもの入院は家族にとって精神的な負担も大きい。家族が部屋に引きこもることなく,ハウスの他の利用者とコミュニケーションを図ってお互いに支えあうことができるための配慮だ。

自分のことは自分で

 ハウスのコンセプトは「HOME AWAY FROM HOME」。わが家のようにくつろげる第2の家だ。ハウスでの生活に必要な洗濯用洗剤や食器などはすべて寄付されたものになるが,部屋の掃除や食事の用意は利用した家族自らが行なう。ボランティアの職員もいるが,ホテルではなく「第2の家」であるというコンセプトから,当然「自分のことは自分でする」ことは普段の生活と変わらない。

チャリティー精神根づく体制を

 同財団事務局長の長瀬淑子氏は,米国に比べ日本では寄付行為についての十分な環境整備が整っていないと指摘する。
 ボランティア行為や寄付行為への精神的・経済的インセンティブが小さい。米国では寄付行為をした場合,免税の対象になるが,日本には同様の制度がなく,福祉のための資金については税金を再配分するというシステムであるため,寄付が集まりにくい。これに関連してか,米国に比べてチャリティーの精神が根づいておらず,ボランティア経験がキャリアとして認識されることも少ない。ドナルド・マクドナルド・ハウスのような寄付で成り立つ施設にとって,今後整備されてほしい課題だ。とはいうものの,せたがやハウスのエントランスホール横に配置され,寄付の形で協力を受けた企業や個人の名を記した「感謝の樹」には多くの名前が刻まれており,日本にも着々とボランティアの精神が根づきつつあることを示している。
 同財団は,2001年より「支えあうシステム」をPRする意味も込めて全国のマクドナルド店舗に募金箱を設置し,2003年には特定公益増進法人(免税財団)としての認可も受けた。すでに2つ目のハウスとして宮城県立こども病院(仙台市)の隣接地に「せんだいハウス」もオープンさせている。今後,高知,大阪にも建設の予定があるという。「支えあうシステム」の広がりに,今後も注目したい。