昨(2003)年末に出版された『見逃し症例から学ぶ日常診療のピットフォール』(生坂政臣著,医学書院刊)が話題になっている。具体的な症例をもとに,「一般外来診療とは何か」を見事に浮かび上がらせた本書は,20代の研修医から50代以上のベテラン開業医まで,幅広い層に支持されたようだ。
 「一般外来診療の極意」とは何か? 「日常診療のピットフォール」とは何か? 一般病院で研鑽の日々を送る若手内科医,大野博司氏が著者の生坂氏にインタビューした。
■診療のあり方は「場」によって異なる
コモンディジーズとは?
大野 『見逃し症例から学ぶ日常診療のピットフォール』で,真っ先に強調されているのが,「日常病(コモンディジーズ)を知る」ということですが,日々の診療の中で,コモンディジーズを知るためには,どのようなことに気をつけなくてはならないのでしょうか?生坂 コモンディジーズとは,一般的には「高頻度に見られる疾患」です。しかし,高頻度疾患とは何かというと,それは場によって異なります。診療所と一般病院と大学病院では,当然,高頻度疾患が違ってくるわけです。あるいは地域によっても異なります。
診療所で遭遇するコモンディジーズについては,山田隆司先生(東京北社会保険介護老人保健施設さくらの杜施設長)の報告1)によれば,日米欧でかなり共通していたとのことです。高頻度順に30個を知っていると75%の外来疾患をカバーできるという結果となっています。研修医としては,これを知るということがとりあえずの目標になるのではないでしょうか。
ただ,プロフェッショナルとして一般外来をやる場合は,4人に3人では心許ない。90%ぐらいはカバーしようと思うと,140-150ぐらいの病気は知っておかなければなりません。これ以上の疾患については,遭遇する頻度はかなり低くなっています。
一般外来と救急外来の違い
大野 とりあえずの目標となる30の疾患とは,厚生労働省が卒後臨床研修の到達目標として示している35項目の「経験しておくべき疾患」と,ほぼイコールと考えてよいのでしょうか。生坂 疾患自体はオーバーラップしていますが,経験する疾患の重症度が異なります。初期研修では病棟と救急外来が研修の中心なので重症患者を診ることになりますが,同じ病名でも軽症疾患とは診断のプロセスもマネジメントも違います。一般に早期・軽症時のほうが診断は困難です。重症患者を診れば,軽症患者も診られるという,「大は小を兼ねる」的発想は通用しません。また重症患者しか経験していないと,軽症患者の診断,治療においても,小刀で済むところに大なたをふるってしまいがちです。これらの高頻度疾患は重症と軽症の両者を経験しておく必要があります。そのためには病棟研修だけでなく,外来研修も必要となるわけです。もちろん初期研修2年間だけですべてを経験することは難しいでしょう。3年目以降のプログラムとして組み込まれればよいと思います。
救急外来と一般外来には共通点もあります。患者さんが持ち込む問題点が明らかではない,診断がついていないということです。これは病棟と大きく違うところです。病棟では,疑い疾患名を含めて何らかの診断がついています。
一方で,救急外来と一般外来あるいは診療所の違いは,例えば狭心症を例にとってみると,救急外来の患者さんは発作中です。あるいはもうMI(心筋梗塞)になっているという場合もあると思います。つまり,その症状が出ている時,あるいはその直後に救急外来に来るわけです。それに対して,一般外来では発作中ではないことが圧倒的です。非発作時,あるいは痛みの間欠期に来る。
■一般外来では徹底的に「病歴」を重視
生坂 救急外来で「胸が痛い」と言っていれば,いろいろなことを根ほり葉ほり聞くよりも,病歴は手短に済ませてすみやかに身体診察,あるいは検査に移らなければなりません。冷や汗をかいていたら,心電図,採血,そのあとはCTというコースでしょう。ところが,非発作時に来る外来では,おそらく心電図をとっても異常は出ないと経験的にわかっていますから,病歴が中心になります。どのような状況で,どのように起こってきたのか。痛みのPQRST(誘引Provocation,性状Quality,関連症状Related symptoms,重傷度Severity,時間的要因Temporal factors)や,家族・社会的背景まで詳細に押さえていきます。
また,腹痛や胸痛といった疼痛を主訴にして外来を受診する患者は多いわけですが,救急外来では急性疼痛が多い。急性疼痛はバイタルサインなどの身体所見にも異常が出やすいので,身体診察を行なう価値が高い。ところが,外来に来る患者さんは,「半年前からの痛み」となります。
慢性疼痛の場合には,その痛みがサブジェクティブに高度――急性疼痛と同じように痛む――としても,体のほうが適用しますので,例えば頻脈にもならず,汗もかいていないで,平気な顔をしていることがある。「たいして痛くないんじゃないの?」という発想になりがちですが,そうではありません。
慢性疼痛でもADLに大きな支障をきたしていることがあります。その原因を知るために病歴をしっかり聴取する必要があるのです。このように,同じ症候でも,救急外来と一般外来では,アプローチが異なります。
救急外来での研修はすべての医師に必須です。ここでは一瞬の判断の誤りが生死にかかわりますから。しかし,はっきりさせておかなければいけないのは,一般外来の経験を積んでも救急外来をできるようにはならないのと同様に,救急外来をやれば一般外来もできるとか,すぐに開業できるようになるわけではないということです。それぞれに専門性があるのです。
卒後臨床研修の必修化で病棟と救急外来についての指導体制は整いつつありますが,一般外来研修の場は保証されていないようですし,もちろんこれまでもそのような場所は限られていました。これは驚くべきことだと思うのですが,わが国で外来指導を受けたことのある医師はほとんどいないのではないかと思います。そういう状況をなんとかしたいという思いもあり,外来診療にスポットを当てた『見逃し症例から学ぶ日常診療のピットフォール』を出版しました。
■一般外来診療に求められる医師のスキル
大野 私は2つの病院で,主に急性期を中心に研修を積んできました。やはり救急外来が主な研修の場所の1つだったので,致死的な病気で,頻度は決して高くはないけれども見逃すと死んでしまうような病気を最初に想起し,「これはあてはまる」「これはあてはまらない」というのが,いちばん最初に考えることでした。よくある30の疾患というのは,私の中では,その次に考えているように思います。一般外来を中心にやっている場合というのは,その致死的なものをどのあたりまで予想するのでしょうか。
生坂 一般外来をやる場合,致死的な疾患は頻度が低くても,やはり考えなければいけません。ミス,特に致死的なミスをゼロにしたいという願いは,どのような場においても共通です。しかし,ここでは医療費の効率的な使い方や各診療現場の条件も考慮する必要があると思うのです。
患者全員にCTは撮れない
大野 検査をどこまでするかということですね。生坂 資源が無限にあり,状況が許すのであれば,すべての人にCTやMRIという,侵襲のない検査をやるという方法もあるかもしれませんが,現実的ではありません。田舎で診療所を開業している場合に,例えば頭痛があるという患者さんが来た時,くも膜下出血の可能性もゼロではないですよね。ほんとうは頭痛の患者全員にCTを撮りたい。でも,それはできない。そうすると,医師の側が,研修の段階で,それを見極める術(すべ)を身につけておかなければいけないと思うのです。
そのための1つのやり方としては,大病院での研修・修練の段階において必死に病歴を取り,身体診察をやって,自分で「これはくも膜下出血ではない」と診断したうえで,それでもCTを撮って陰性であることを確認するというようなプラクティスがあります。これは医療費のかかる研修ではありますが,確認もできるし,間違いが少ない。研修としてはよい方法でしょう。
ところが,実はこれが難しい。どうせCTをやるとわかっているので,病歴聴取も身体診察も甘くなってしまうのです。だんだんCTで異常を見つけるようになり,検査中心に流れていく。忙しいと,「とりあえずCT」と,患者さんを先に検査に行かせておいて,次の患者を診るという状況も当たり前になってしまうわけです。私が以前いた施設ではスタッフの許可のない外来CT検査を禁止しました。そうしないと,病歴や身体診察に本気になれないからです。その厳しい態度が,最終的には,実際にCT等が利用しにくい地域に行った場合に役立つスキルを培うことになるわけです。
そのスキルの中にはいわゆる「勘」も含まれます。その勘を鍛えるには,やはり徹底的に話を聴かなくてはならないし,病歴から予想された異常所見を探しに行く身体診察が必要です。
「引き算」という究極の技術
大野 以前勤務していた病院の救急外来では,「何の検査をしてもいい。しかし,検査をする前に何をねらってやろうとしているのか,そして,結果が陰性,陽性かどちらともわからないかを予想したうえで検査を行ないなさい」と言われていました。生坂 よい指導ですね。
大野 そして例えば,救急外来で突然発症した頭痛で,「人生最悪」と訴える患者さんは,CTを撮るとやはりくも膜下出血であることが大部分でしたし……,病歴と身体診察で「これはありそうだな」,あるいは「ないな」と思って,実際に検査をしてやはりあったり,なかったりした時には,自分自身も喜びを感じました。
生坂 いま頭痛の話がでました。私の本にも書きましたが,突発する頭痛であるか,増悪する頭痛であるか,最悪の頭痛であるかという,この3つはスクリーニングの質問として非常に有用です。そして,救急外来でのくも膜下出血というのは突発の場合が多い。
一方,一般外来に来るくも膜下出血は突発とは限りません。というのは,ガーンと殴られたような突発だったら救急に行きますよね。大病院であれば一般外来でなく脳外科を受診するでしょう。病歴上突発しないくも膜下出血というのは頻度としては多くはないのですが,一般外来にはこのような重篤な疾患の非典型例あるいは軽症期の患者さんが集まるのです。これを見分けるには,通り一遍の診療ではダメできちんと絞り込まなくてはなりません。
その時に知っておかなくてはいけないのは,機能性頭痛。例えば緊張型頭痛でどうであるとか,片頭痛がどうであるとかの機能性頭痛というのは,病歴で診断するわけですが,徹底的に病歴を押さえたあと,「どうもあわない」という時に「この頭痛は,それ以外であろう」という,“引き算”が大事です。これは,ジェネラリストだけに許される考え方,アプローチなんですよ。これにはやはり,外来で良性頭痛をたくさん診ておくことが大切です。そしてポイントは,徹底した病歴です。病歴だけで「これだ」というぐらいのスキルを持っていなければいけないわけです。
この「引き算」ができないと,一般外来はつらい。というのは,良性疾患が原因で突然頭が痛くなったという患者さんも多いからです。しかも,くも膜下出血の可能性もあるわけで,それをどう見分けるか,しっかりとした技術が必要です。疾患群が大きく異なる救急ではなかなか実感できないパターンです。
■とにかく「診断」をつけることが大切
診断を絞り込んでいくプロセス
大野 いまのお話にも関連することですが,主訴が「頭が痛い」,「胸が痛い」などあって,ある程度自分の中で,「こういう病気かな」という予測があり,病歴の中から「致死的な感じではなさそうで,残ったこのうちのどれか……」というふうに徐々に絞れてきますよね。病歴まで終わった段階で3つか4つの鑑別診断を出して,身体所見で,こういう所見があるはずだ,こういう所見はないはずだと診ていく。主訴からはじまって,病歴,身体所見,検査所見,そしてまた入院,あるいは外来の再診という経過の中で,「やっぱりこれだった」という,診断が決まっていくというプロセスがあるはずだと思うのです。ところが日本では,「すべて検査」とか,「入院しました,診断は何でしょう?」というような医療が非常に多く,時間の流れの中で考えるというトレーニングができにくい状況にあります。これをどう勉強すればよいのか? 多くの学生,研修医,若手の医師は悩んでいるように思えます。
病歴をはさまずに検査所見にいって,主訴があっても,いちばん重要な「絞っていくプロセス」が見えていないわけです。さらに症例検討・発表ではタイトルに“○○をきたした××の1例”と最初から診断名まで書いてあって診断へのプロセスがまったくわからない。また医学生の実習では「××の症例だから」と最初から診断されているため,考える機会が与えられずに病棟実習を行なっている現実があります。
生坂 おっしゃるとおりです。病棟の症例検討会を見ていても,何枚かある症例呈示のプリントのうち,病歴や身体診察というのは,1ページ目の左端のほんのわずかで終わってしまっています。病歴と身体診察が軽視されていて,検査を中心にいろいろなことを考えていくというスタイルになっているからです。しかし,実際の診療は時間的な経過の中で進行していくわけで,そのトレーニングは大切だと思います。
年齢・性別・主訴から,ある程度疾患を想定して,話を聴いてキーワードを切り取って,仮説を3つぐらい立てて,それを検証していく……その段階で私が心がけている一般外来でのポイントは次のようなことです。先ほども言ったように,救急外来では致死的な疾患を先に考える必要があります。そういう疾患の頻度が高いからです。ところが一般外来で,致死的な疾患を先に除外するような思考プロセスでいくと効率が悪い。そうでない可能性のほうがはるかに高いわけですから。
例えば,めまいの患者さんが外来に来たとします。めまいで見落してはならないのは,脳血管障害や聴神経腫瘍です。これを見逃したくないがゆえに,聴神経腫瘍の問診,あるいは身体診察,また脳血管障害の問診と身体診察をやるよりは,もしある高頻度疾患に典型的であるならば,「引き算」の考え方で「そうでない」と言えるわけです。
大野 なるほど。
生坂 外来のめまいでいちばん多いのは,良性発作性頭位性めまい(BPPV)です。だから,これを診断するようなスクリーニングの問診をすればいい。例えば,「持続時間が数秒で,頭を振った瞬間にパッと出て,朝方だけで,2-3日前から同じような感じである」というような人は,DMや高血圧がなければ,次にDix-Hallpikeテストをやって潜時を伴う眼振というなら,もうそれで「決まり」じゃないですか。CTも必要なければ,聴力テストも何も要らないですよ。
良性疾患でも診断をつけることが 見落としを防ぐ
生坂 そういうアプローチでいかないと,一般外来診療は対応しきれないです。めまいというのは恐いですけれども,恐いものから除外していくアプローチをしていると非効率的になる。医療経済的にもマイナスですし,1人あたりの時間がかかる。そんな暇はないです。1人あたり15分しかないのですから。そのようなことを考えると,結局,致死的な疾患であろうが,良性疾患であろうが,一般外来では「診断をつける」ということが大切なのです。救急外来は,どちらかというと致死的な病気でないと判断できればいい。それがうつ病によるめまいなのか,良性発作性めまいなのかというのは,あまり関係がないのです。そのあとのフォローは開業医に任せればいい。
一方,一般医,あるいは診療所医としては,そこのフォローは自分たちがやらなければいけないわけです。だから,良性疾患もきちんと診断できなければならないし,それができれば「引き算」で,理論的には致死的疾患は見逃さなくなるんです。もちろん,良性めまいに聴神経腫瘍を合併していることがないとは言いませんが,病歴をきちんと押さえていれば,何か出ますよ。ふらついて,半年前からおかしいとか,電話の声が聞き取りにくくなったとかということがあれば,それは聴神経腫瘍,BPPVということになるかもしれません。
一般外来ではとにかく診断する。良性疾患も,悪性疾患も,急性疾患も含めて,診断するという,その態度が致死的疾患の見落しを最終的には防ぐのです。圧倒的に頻度が高い良性疾患を先に診断してしまえば,多くの致死的疾患は除外される。このアプローチが,決定的に違うと思います。
ところが,このあたりのことはあまり言われていません。だからバリバリの病院でやってきた医師でも,開業した途端に途方に暮れる。検査ができないとやはり不安なのです。それでどうなるかといえば,極端にアバウトな医療に走ってしまう場合がある。何例か経験していくと,「けっこう大丈夫じゃない?」と。そして根拠もなく「馴れの医療」になって,そのうち事故を起こします。
ですから,自分を追い込んで診断を詰めていく訓練というのは絶対に必要です。どこかでそれを死にもの狂いでやらなくてはならないのです。
■日本の医師養成のピットフォール
大野 「よくある良性疾患」「稀な致死的な疾患」を見逃してはいけないわけですが,研修医でも,若手の医師でも,ベテランで開業間近の医者でも,おそらくその範疇に何があるのかということがわからない。やはり病気を知らないと診断はつかないというのを,医者になってからつくづく思います。例えば先生が本に書かれているように,右季肋部痛の若い女性のFits-Hugh-Curtisですね。腹壁の痛みのCarnett徴候とかは,なかなか知らないことが多いと思います。産婦人科医や,お腹にこだわっている外科医だったら知っていると思いますが,そのあたりは難しいように感じました。
生坂 いや,まさにそのとおりです。コモンディジーズといっても,ある専門家にとってあたり前のことでも,私たち一般医にとって,それがコモンかどうかは,まったく別の話です。
さらに診療所でのトップ30がコモンだといっても,シンプトムからここにいくかどうかは,また別の話です。診療所や一般外来で診るようなコモンシンプトムの原因疾患として頻度の高いもの,それを頻度順に並べたテキストブックは少ないと思います。その結果,原因疾患が見逃されている最たるものが,慢性咳嗽です。大野先生は,慢性咳嗽についてはどうお考えですか?
大野 はい。慢性咳嗽や急性咽頭炎など,これまで「ほっといても治るよ」と,あまり気にかけてこなかった病気の中には,実は,世界的には診療のスタンダードのようなものが確立しているものも少なくないということを知り,ただ「咳止めを出して終わり」という診療から,欧米のガイドラインのようなものを参照しながら「このように順を追っていけばいいのかな」というふうに,診療のあり方を変えてきているところです。慢性咳嗽については9割が治療に成功すると聞いています。
生坂 そうなんです。慢性咳嗽も,私自身,「何をやっても治らない」という人がいて,たまたま欧米の文献で慢性咳嗽の総論のところを見ると,実際にはGERD(胃食道逆流症)や,CVA(咳喘息),postnasal dripping(後鼻漏)などが多いと……。それが,3週間以上続く患者さんの9割以上を占めるというのを知っても,半信半疑だったわけです。でも,治療をやってみれば止まるんですよ。このような経験を積むうちに,欧米でのスタディの結果はある程度日本でも使えるのではないかということで,これも本の中に書きました。
呼吸器の先生の中には,「GERDなんてそんなにないよ」と言う方もいらっしゃいますが,それは,たんに咳だけで,大病院の呼吸器外来に行く人が少ないということではないでしょうか。実際,一般外来で慢性咳嗽の患者さんには,やはりGERDであるとか,後鼻漏などの,隠れたコモンディジーズが少なくありません。
しかも,この手の病気では患者さんが亡くなるわけでもないし,治らなければほかの病院に行くだけなので,フィードバックも返ってきません。ですから,一般外来診療の分野は,指導医が1人ひとりに「こういう場合はこうだよ」とかしっかり指導する必要があるのです。実際には,そのような研修・教育の機会は日本にはまだまだ不十分です。
一般外来でしか研修できないこと
生坂 これは,まさに日常診療といいますか,日本の卒前・卒後教育のピットフォールなのです。日本の医師育成は臓器別できていますから,頻度の概念は基本的に無視されています。後鼻漏やGERDで入院してくる人はほぼいません。咳だけの場合は,当然外来ですよね。だから,こういう指導は病棟では行なわれないし,救急外来でも致死的でないがゆえに「咳? 咳止め出しておいて」で終わってしまいます。つまり,これは一般外来や診療所でしか研修できないし,指導できないところなんです。外来教育は,今後ぜひとも日本に根づかせたいと思っているところですが,とりあえず,『見逃し症例から学ぶ日常診療のピットフォール』という本を出しました。これによって少しでも一般外来診療の専門性や研修の必要性をわかっていただけたら,と思っています。
大野 本日は,ありがとうございました。
(おわり)
1)The Role of Family Practice in Different Health Care Systems A Comparison of Reasons for Encounter, Diagnoses, and Interventions in Primary Care Populations in the Netherlands, Japan, Poland, and the United States. The Journal of Family Practice, 51 (1), JAN, 2002.
| 生坂政臣氏 1985年鳥取大卒。89年東京女子医大大学院博士課程修了。90年米国アイオワ大家庭医療学レジデント(93年米国家庭医療学専門医)。93年東京女子医大神経内科。97年聖マリアンナ医大総合診療内科主任医長,講師などを経て,2002年生坂医院副院長。2003年より千葉大附属病院総合診療部教授。著書に『見逃し症例から学ぶ日常診療のピットフォール』(医学書院刊)など。  |  
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![]()  | 大野博司氏 2001年千葉大卒。麻生飯塚病院初期研修後,舞鶴市民病院内科勤務。救急初期対応,急性期から緩和ケアまで患者さんの主訴,病歴を重視した医療に取り組む。また,さまざまな大学,病院の医学生,研修医たちと,勉強会や症例検討会を行なっている。2004年4月より音羽病院内科勤務予定。現在渡米中。 E-mail:QWI03166@nifty.com  | 
