医学界新聞

 

【特別寄稿】第1回研修医マッチング参加者たちが綴る

研修医マッチングの実際(後編)


■北島愛子さん(仮名)
(国立A大6年,某大学病院にマッチ)

マッチングを振り返って

 私は第3希望の病院に決定しました。反省点をあげながらご報告します。後輩たちの参考になれば嬉しいです。
 4年生の夏休みから病院見学をはじめ,12病院の見学・実習に参加し,3病院の面接を受け,順位表に載せました。A大学は有名大学で,B病院はその関連病院,C大学はA大学の近くにあります。

第1希望A大学病院プログラム(1)
第2希望A大学病院プログラム(2)
第3希望A大学病院プログラム(3)
第4希望B総合病院
第5希望C大学病院プログラム(1)
第6希望C大学病院プログラム(2)

マッチング結果
C大学病院プログラム(1)(第5希望)

 私は大卒再入学組で,医学部入学後はたくさん勉強したので,学業成績はよいほうです。A大学病院はレベルが高く,早い時期からこの病院での研修を希望していました。周囲の人たちも私が当然A大学に行くものと思っていたようで,私のマッチング結果に驚いています。ところが,自分では不思議なことにあまり悔しさは感じず,むしろC大学のほうが自分には向いていたのではないかと,今になって思っています。
 実は,私は臨床の第一線で活躍するよりも,心の中で温めていることに挑戦したいと考えているのですが,それは趣味と仕事との中間領域にあることであり,まだ機が熟していないと思えたので,誰にも話すことがありませんでした。研修病院の選択も,世間一般の評価を基準にして自分の学業成績に合うレベルの病院を選んでいただけで,A大学に籍を置いて活動範囲を広げたいな,という程度の認識だったと思います。

病院と自分のめざすことが一致しているかどうかが大切

 A病院およびB病院では,病院と私との間で求めるものが違っていた,というのが私の実感です。実際,面接時には,自分が場違いな所に来てしまったような違和感を持ったのでした。よい成績をとったり,面接でやる気や熱意を示したりすることよりも,病院と学生のめざすものが一致することのほうが大切なのではないでしょうか。
 面接の時に,面接官との間で共感を持てたと実感できれば,その病院はきっと採用してくれると思います。私も振り返ってみると,自分の本音を受け入れてもらえると実感できたのはC病院だけでした。第一希望でマッチしなかったのは,周囲の評価を基準にして順位表を作成したためだったと反省しています。

周囲の評価に惑わされず自分に合った病院を選ぼう

 これからマッチングを受ける方々には,行く気がない病院でも,お見合いのつもりでなるべくたくさんの病院で面接を受けることをおすすめします。面接では見学や実習だけではわからなかった病院の一面が見えることもあります。面接における質問の1つひとつに意味があり,それらの意図を分析していくと病院の求めているものが見えてきます。それを知ったうえで,周囲の評価に惑わされることなく,ご自分に合った病院を選んではいかがでしょうか。
 競争に勝つことや評価されることが医療の目的ではありません。医師を志した自分の原点や,これからめざそうとするものものを明確にすることのほうが大切だと思います。この機会にぜひ,しっかり自分と向き合ってみてください。ご健闘をお祈りします。


■堂島俊介さん(仮名)
(公立B大6年,某市中病院にマッチ)

5年次から幅広く病院見学

 私が研修先選びを目的として病院の見学や実習をはじめたのは5年生の夏休みからで,結局6年の夏休みまでの間に20か所以上の病院にうかがいました。
 見学する病院を選ぶための情報源としては,臨床研修病院ガイドブック,医療研修推進財団他のホームページ,クラスメートや見学先の病院で知り合った医師や学生からの口コミなどを参考にしました。興味の向くまま,なるべく幅広く,多くの病院を見学するように心掛けました。その中から雰囲気のよさそうなところ,自分の価値観や目的に合いそうなところ,採用試験の日程的に応募可能なところを選びました。

マッチングは将来を考えるよい機会

 採用試験は最終的に12病院に応募し,11病院をマッチングの順位表に載せました。母校の友人たちには,私より早い時期から病院見学をはじめていた者もいましたが,大体私は平均的な者だったように思います。応募病院数は多分私が一番多く,母校の附属病院以外にも応募した人たちの中では5か所程度が標準的なものであったのではないかと思います。
 アンマッチを恐れて多くの病院に応募しましたが,結局マッチしたのは第1希望の病院でした。数多くの病院を見学し,応募することは確かに大変でしたが,自分の将来について悩み,いかに意義のある研修生活を送るかについて思いをめぐらし,整理することができたのは無駄ではなく,また,さまざまな病院を自由に見学できるのも最初で最後のチャンスなので,よかったと思っています。

評判に惑わされず,自分の目で確かめることが大切

 従来ですと,第1希望ではなくても最初に内定を得た病院に決めざるを得なかったのかも知れませんが,今回のように,純粋に行きたい順に病院を選び,一度に決着がつけられるのも悪くないと思いました。ただ,無責任な省関係者の発言に煽られ過ぎた感があるのも否めません。待遇など労働条件の決まらない状態でマッチングを行なうのは疑問ですし,その上,雇用契約まで結ばせるのが果たして合法的なのかも疑わしいと思っています。
 さまざまな病院を見学してみると,長年評判のよかった病院でも今や実際にはそれ程でもなかったり,逆に無名でもがんばっている病院もあったりします。来年以降マッチングへ臨まれる皆さんには,後悔しないためにも,いたずらに評判に惑わされず,ぜひ自分の目で確かめて吟味し,行きたい病院を決められることをお勧めします。


■中西拓也さん(仮名)
(国立C大6年,某市中病院にマッチ)

(1)どのような準備をいつごろからはじめたか?
 7月末まで実習をしていたため,活動をはじめたのはそれ以後。試験対策としては,志望動機をまとめる程度で特にやらなかった。

(2)いくつの研修病院を見学したか?
 マッチングと関係なく,研修指定病院でないものもふくめて実習としては10か所まわった。

(3)情報収集はどう行なったか?
 インターネット,実際に実習に行って。

(4)いくつの研修病院の採用試験に応募し,マッチングの順位表にはいくつの病院名を載せたか?
 応募は2つ。登録も2つ。大学病院は考えなかった。

(5)母校の友人たちの状況
 比較すると私の応募数は少ないほうだと思う。

(6)第何希望でどこにマッチしたか?
 第2希望の1000床規模の地域中核病院にマッチした。第1希望の300床弱の市中病院は募集人数が少ないことと,実習および面接の手応えで,マッチしないかもしれないと思っていた。どちらに転んでもよいと思っていたので,結果には満足している。

(7)マッチングをふりかえってどう思うか?
 制度そのものに関しては,個別に採用試験を受けるのと比較すると,マッチングの必要性はあまり感じない。応募とは関係なく,診療所から1200床の病院まで,さまざまな環境の病院を実習で巡り,多くの収穫があった。めざす方向性を考えるのに役立ち,多くのロールモデルに出会った。その結果,「どこででも実習をできる。結局は自分次第なのだ」という結論に落ち着いた。地理的な条件や,家族のこと(私には妻子がいる)を考え,本当に行きたいところだけを選んだ。それでよかったと思っている。

(8)本年以降マッチングへ臨む後輩たちへのアドバイス
 本当に行きたいところだけを受けること,マッチングに関係なく自分を磨くこと,その2つにつきる。あまりマッチングのことばかりにかかりっきりにならないで,自由に学べる貴重な時間を有意義に使い,自分なりの実習を優先すべきだ。学生の本分を忘れないでほしい。卒後研修は数年でおわりだが,学生時代に目に焼きつけたすばらしき先達の後ろ姿は一生の財産になる。そうした積極的な態度が幸いすれば,よい病院にも当然出会うだろう。