医学界新聞

 

技術認定制度発足に向けて

第16回日本内視鏡外科学会開催される




 第16回日本内視鏡外科学会が,清水信義会長(岡山大)のもと,昨(2003)年12月4-5日の両日,岡山市の岡山コンベンションセンター,他で開催された。
 最先端の内視鏡下手術手技についての話題提供の他にも,作成が進められている技術認定制度についてシンポジウムが行なわれ,活発な議論が展開された。この他,内視鏡外科手術をライブ中継し,術式についてリアルタイムで議論する企画もあり,会場は多くの参加者を集めた。なお,研究会時代から,会長,学会理事長として13年間本学会を支えてきた出月康夫氏(東大名誉教授・南千住病院名誉院長)が理事長職を退くことが,会期前日の評議員会の中で報告された。


●技術認定制度で社会からの信用を回復する

 内視鏡外科手術における医療事故の報道が後をたたない昨今,本学会が中心となってかねてより整備を進めている技術認定制度の実施は,社会的な期待も大きい。
 シンポジウム「内視鏡外科手術の教育と技術認定」(司会=帝京大名誉教授 山川達郎氏,福岡大 白日高歩氏)では,各領域からの技術認定委員会委員が登場し,それぞれの認定要件や技術認定制度の将来展望などについて議論した。

トレーニングシステムの充実で 内視鏡外科手術手技の習熟を図る

 はじめに登壇した徳村弘実氏(東北労災病院)は,内視鏡下手術は手技の習熟が容易ではなく,臨床,動物ラボや学習などの複合的な長期にわたる研修システムの構築が必要としたうえで,未熟な術者による内視鏡外科手術は長時間にわたる手術につながり,それに伴う合併症の発生リスクも上がると指摘。自身の経験から,安全対策のための提言として(1)5時間を超える内視鏡外科手術は原則的に行なわない,(2)手術にあたるチームの内視鏡外科手術総経験数は50例を超えるようにする,の2点をあげた。
 滝口修司氏(阪大)は,道具を使えることと手術ができることは必ずしも一緒ではなく,その隔たりを埋める必要があると指摘。この問題について氏は,自身の教育経験から,一定手技の反復型のビデオを見て学習するvisual training理論が,内視鏡外科手術の手技向上に有用であり,効率的なトレーニングカリキュラム作成に有用であると報告した。また,これに関連して指導医は,手本を示す意味を考えて手術に臨む必要があると指摘した。
 富川盛雅氏(九大)は大学・基幹病院と地域の中小病院の間における遠隔手術支援システムの例として,九大と壱岐公立病院とで行なわれている実践を紹介。直接手術室に出向くことなく,画像や音声の伝達によって手術の遠隔指導が可能であったとした。この他,九大ではロボット手術トレーニングセンター,内視鏡外科手術器具を用いたドライトレーニングラボも充実させていると紹介した。
 山口浩和氏(東大)は,胃がんに対する内視鏡下手術の教育システムについて発言。トレーニングラボや動物を用いたトレーニングの機会は多くはないことを考え,内視鏡下手術の教育のためには,段階的に術者の技術を現場で育てることが必要とした。
 清水潤三氏(市立堺病院)は技術認定制度にも使われる内視鏡外科手術手技のビデオによる評価の問題点について,症例の難易度の差,評価者による評価の差,について指摘。症例をある程度限定して評価することで評価の質を確保する必要があると提言した。

各学会で進む技術認定制度の整備

 内視鏡外科学会技術認定制度委員会は,消化器外科,呼吸器外科,整形外科,産婦人科,泌尿器科の5つの学会からそれぞれ委員を出し,認定制度の作成にあたってきた。各学会においても内視鏡外科学会の統一基準レベルの制度の作成が進められている。すでに制度が発足している産婦人科領域の他の領域については,本(2004)年4月以降に制度を発足させる予定だ。本シンポジウムではこれら各領域からの委員も登壇し,技術認定制度の整備状況や今後の指針なども発表された。
 整形外科領域から出沢明氏(帝京大溝口病院)は,整形外科関連学会でのアンケート調査によって,技術認定制度の発足についてはほぼ賛成を得ていると述べ,関連学会の1つである日本脊椎脊髄病学会の教育委員会内で内視鏡講習会を開始することと,内視鏡外科学会との統一基準レベルでの認定制度を作成していくという,今後の指針を改めて示した。
 呼吸器外科領域からは河野匡氏(虎の門病院)が,胸腔鏡下手術の教育には,講習会の他,手術の見学や,助手の経験,手術の指導のためのコーディネーションが必要と述べ,学会がこうした部分に果たす役割は大きいと指摘した。また,認定制度の作成にあたっては,社会からも理解され,医師の側からも修練の目安となるような基準を作る視点が基本であるとした。
 消化器外科領域からは木村泰三氏(富士宮市立病院)が発言。指導医の推薦とビデオ評価などによって技術レベルの認定を行なう方向で議論されているものの,主観が入るビデオで認定が可能か,取得者を公開するか,などの問題点もいまだ残されていると述べた。また,認定制度が教育に果たす役割について,技術の標準化と向上が促される,標準化によって教育と学習が容易になる,内視鏡外科をめざす医師の学習意欲を高める,の3点をあげた。
 すでに他領域に先駆けて技術認定制度を発足させている産婦人科領域からは,明楽重夫氏(日医大)が,認定制度発足までの経緯と課題について述べた。同学会はすでに130名の応募者のうち90%以上が技術認定を受けている。この中で氏は,評価に用いた手術手技や,審査員の判定基準にばらつきがあったことを課題としてあげ,今後学会としてさらに充実させていく考えを示した。
 泌尿器科領域からは松田公志氏(関西医大)が,昨(2003)年までに,トレーニングコース,手術見学制度などを取り入れた技術認定に関する細則が決まったと紹介。本(2004)年4月には制度発足の見通しであると述べ,これまで以上に教育体制を整備していきたいとした。

●認定に参加が必須となった教育セミナー

技術を機器の原理から学ぶ

 今回より技術認定のために出席が必須とされた教育セミナーには,会場に入りきらないほど多くの参加者がつめかけた。
 今回のセミナーは2部構成で進められ,第1部では「学校では教えてくれなかったhaemostatic dissecting deviceの基礎」(金平内視鏡外科研究所 金平永二氏),「実践にみるバイポーラーパワー活用法の秘訣」(東海大 寺地敏郎氏),「超音波凝固切開装置の使い方は職人技から盗め」(八尾総合病院 子安保喜氏),「知らないと損する止血剥離の落とし穴と防止対策」(総合病院国保旭中央病院 永井祐吾氏)の4つの演題で,機器の原理や実際の使用法の他,豊富な術中の映像によって熟練した術者の手技と,術中に出血が起こった際の対応など,具体的なトラブルへの対処についても学んだ。

訴訟に学ぶリスクマネジメント

 第2部では医事紛争・リスクマネジメントに関する話題が取り上げられた。まず登壇した梅澤昭子氏(東北大付属病院)は,医療事故が起こった際,隠したり,ごまかしたりしたくなる理由を,医療事故の際に担当医が受けるであろう法律上,または社会的な制裁のレベルがどの程度のものか理解されておらず,またはっきりと規定されたものがないことにあると指摘した。
 続いて「内視鏡外科対象訴訟の動向とリスクマネージメント」と題して講演した許功氏(高麗橋総合法律事務所)は,事故が起こった際,「患者側に原因があって合併症が起こった」ということが証明できない場合,「不可抗力」とは認定されないと述べ,証拠となるような術中の映像記録を保存しておく,もしくは克明な手術記録を常にとっておくことが重要であると提言した。

医事紛争の現状

 最後に「医事訴訟の概要」と題して,第2部で座長を務めた古川俊治氏(慶応大)が発言。医療過誤の類型として,基本的注意懈怠(実行上の過誤)と不適切な診療(計画上の過誤)の2つがあると指摘したうえで,医事紛争の解決過程には,明確な過失があると認められた場合の刑事訴訟,行政処分の他,過失の有無が微妙である場合の民事訴訟があるが,過失が認められる場合でも医事紛争を刑事事件としないために,行政処分によって解決される事例が今後増える可能性があると指摘した。
 また,近年起こっている外科手術事故に関する逮捕事例を紹介し,「証拠隠滅などの恐れがある場合,逮捕されることになる。逮捕事例が起こると,責任が病院から個人へと転嫁されてしまう。医療事故の際は,担当弁護士とよく相談し,逮捕ということにならぬよう努めるべき」と強調した。