医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


キーワードは“Approach”――読み解くほど内容がリッチになる

ケースブック医療倫理
赤林 朗,大林雅之 編著
家永 登,白浜雅司,中尾久子,村岡 潔,森下直貴 著

《書 評》中西睦子(国際医療福祉大保健学部教授・看護学科長)

 これは実用の書を装いながら,じつは読者の思索を深めるよう巧みに仕組まれた書である。キーワードは“Approach”。あとから思うと,なんとも含蓄深い。
 本書はApproach1とApproach2の2部構成である。前者は著者らによれば,比較的「短いケース」の提示があって,そのあとに考えるべき課題が提示される。これはいうなれば実践編,少ない情報をたよりにその場の状況をつかみ,判断と行動を導いていく。といっても,解答はもっぱら読者の胸中にある。
 本書の紙面づくりがあまりにすっきりしているので,初心者は,なーンだ,倫理問題への対応ってカンタンなんだ,と思うかもしれない。しかし,あなどってはいけない。ここに掲載される情報は思いきりスリム化されている。たとえば,ケース13の「出生前診断」の項をみる。ほんとに短いケースの紹介があって,そのあとに「当事者が望んでいること」「当事者が大切にしているもの」という見出しがくる。この見出しにそって妻(患者),夫,医師,看護師それぞれの見解が1-2行で簡潔に述べられる。だが現実がこんなに簡潔に描けることは少ない。やれ,姑がこう言った,なのに舅の意見は違う,などなど,外野席の主張も激しい。そのおかげで,夫は迷って自分の意見を言わない,などなど,迷路に入りがちだ。つまり本書では,現実のもつれにもつれた糸をときほぐす部分は,すべて著者らがやってくれている。そのうえで,こういう道筋に沿って考えていくと,ひとまず倫理的に正当化される一定の結論が導けますよ,というエクササイズを用意してくれているのだ。
 とくに親切だと思うのは,ケース提示のあと,「このケースを考えるために」という課題をめぐる専門的な解説があり,さらに“Topics”という課題に関連した最近の動向を紹介するコラムもあること。実務家にとっては,たいへん助かるにちがいない。ことほどさように,構成がじつによく考えられていて,著者らがしっかりと議論をした成果だろうなと思う。

主要な倫理問題をカバーした優れた教材

 さて,後者のApproach2では,「比較的長いケース」の提示に続いて,3人の執筆者がそれぞれの視点からコメントしている。言えば,学際的紙上討論といったところだろうか(双方通行ではないけれども)。まったく同じ状況でも,切り口(approach)が違えば,見解も違うことを,読者に理解させる意図があったのだろう。
 ただし,ここはふしぎなことに,論点の鮮やかな相違が見出せるものは,案外少ない。もしかしたら,著者らの議論のしすぎかな,もう少し演出があってもいいな,とも思ったりする。そして,Approach1からApproach2にどう切り結ぶのかなとも,1読者として思案している。
 とはいっても,ケースの選択は,主要な倫理問題をカバーしており,難しい理論的知識はいったん消化され,コメントその他のコラム上にさりげなく示される。内容は,読み解くほどにリッチになるという仕掛けが心憎い。優れた教材である。
B5・頁136 定価(本体2,400円+税)医学書院


透析看護の「臨床の知恵」に学ぶ

困ったときの透析患者の看護
宇田有希 編集

《書 評》牛崎ルミ子(新生会第一病院)

 慢性腎不全による透析者は年々増加し,日本透析医会調査委員会の報告では2002年12月現在の透析患者は22万人を超え,治療形態は血液透析療法が大部分の96%を占め,CAPD8569人,家庭血液透析99人とされています。導入患者と死亡患者は,年々並行して増加し,長期透析者は最長透析歴36年8か月で25年以上5008人(2.3%)となっています。年齢は平均62.19歳,導入患者平均年齢64.7歳と毎年高齢化しています。原疾患では,1998年から糖尿病が第1位を占めています。透析療法の管理については,高齢者や合併症の増加にもかかわらず十分行なわれているといわれています。
 高齢社会,そして生活習慣病としての糖尿病などが増加しているという現実が,透析医療の現場へ押し寄せてくる中,総合医療が求められています。
 透析療法では週に2-3回の人工透析を一生涯継続しなければならず,中止は死を意味します。透析看護の分野では,透析療法の知識・技術のみならず,重複した疾患や合併症を持っている患者のケア,自己管理指導,通院生活支援,心理的サポート(コミュニケーション,カウンセリング),家族支援,社会資源の活用における他職種との連携など毎回の透析で患者に接しながら,QOLの向上へ向けた支援を継続的に行なうことが必要となります。透析看護に携わる看護師には,個々の患者の心理面や身体面の状況に応じた適切な対応が求められているのです。

実践を活かした透析患者の看護

 新人看護師や透析室に配属になったばかりの看護師は,患者への対応に悩む場面が少なくないと思われます。そんな時には,マニュアルや技術書からでは得られない,ベテランの看護師が何気なく実践している知恵や工夫が大きな助けになるはずです。
 本書は,各透析施設のベテランの透析看護師が,根拠を持った看護実践をもとに,どこの透析現場でも実際に体験する患者問題の看護展開を示しています。透析導入期の患者の問題,自己管理困難な患者への援助,透析に伴う苦痛・合併症に対する援助,維持期に起こる身体的・精神的・心理的・社会的問題などに対して,その時起こっている患者状況はどういうことか,また上記の問題の対策など看護介入方法をわかりやすくまとめられています。事例を挙げて看護介入していることから,読者にとってより身近に感じることができ,実際の場面に活かしていけると思います。
 透析室では,配属直後に突然患者から激しい怒りをぶつけられたり,自己管理の指導をどうしたらわかりやすくできるか悩んでいたり,未体験の患者問題に遭遇し,時には深く傷ついている看護師の悩みが渦巻いています。
 本書は,問題解決に向けた紐解きの一助となるのではないでしょうか。参考文献も記されていることから,文献検索して学び,看護実践に繋げていけると思われます。
 2004年1月には,第1回「日本透析療法指導看護師」認定試験が実施されます。透析看護においてケアの質の向上,専門性の確立の必要性が高まっている現在,新人看護師はもちろん,ベテラン看護師にも日ごろのケアを見直す意味で,ぜひ一読を勧めたいと思います。
A5・頁248 定価(本体2,600円+税)医学書院


「質のよい」質マネジメント解説マニュアル

医療の質マネジメントシステム
医療機関におけるISO9001の活用

上原鳴夫,黒田幸清,飯塚悦功,棟近雅彦,小柳津正彦 著

《書 評》岩崎 榮(日本医大・常務理事)

 外国文字とカタカナ文字が多くなかなかなじめないものの1つとして,この「ISO9001」があるといっても過言ではない。
 2~3年前からISOの医療への適用として取りあげられた学会のシンポジウムでの司会やシンポジストを経験した筆者ですら,いまだにISOを十分に理解できていない。
 ISOを医療機関になじめるようにするためには,医療関係者にわかる言葉でわかるように話し書きをしてほしいと常々言ってきた。
 その立場からすると,このたび出版された書籍『医療の質マネジメントシステム――医療機関におけるISO9001の活用』は,筆者の要望にすべて応えてくれている。
 「質がよいというのは,顧客の要求を満たすことである」という本書の最大のねらい通りに要求を満たしてくれたから,筆者にとって本書は「質(品質)のよい製品」であると言える。
 このような本が出ることを願っていた筆者にとって,本書は待望久しいというよりも,「医療の質」を追求する本物の書を手に入れた感がする。
 元来医療では規格にはめ込まれることを嫌う。何だかISOの規格化に病院業務が組み込まれてにっちもさっちもいかなくなるのでは,という思いが先に立つ。
 これまでのわが国の医療機関では,理念を描くことや目標を立てることなどにもなじめなかった。さらにそこへISOをといっても無理な話だった。
 このような状況の中ではISOを活かそうとしても活かせない。そのことに本書の著者たちは気づき,それらの問題を解決しようとした。しかも,本書は,「まえがき」においてISO9001適用は目的ではなく,ISO9001を通して品質マネジメントシステム(以下,QMS)について考えることがねらいであり,それを基本スタンスとしている。
 多くの企業でISO認証を取得することにだけ努力していて,本当に企業が質のよい製品を生み出すべく企業自体の質が改善されているのであろうかと疑念を抱いていたが,この問題についても本書は解を与えてくれている。
 ISO9001を活用すれば医療の質が向上すると第1章の基本的な概念で述べられている。続いて第2章は活用上のポイントとして医療機関でのISO9001の活用の意義に触れながら,やさしくQMSへの導入に誘う仕掛けとなっている。
 今ある医療機関内で確立している質保証マネジメントシステムに,ISO9001によるQMSを適合させれば,より一層効果的な質保証マネジメントシステムを構築することができ,顧客満足の向上につながると言い切っている。
 質改善に向け,真剣に取り組んでいる医療機関すべての関係者に読んでほしい。
A5・頁336 定価(本体2,600円+税)日本規格協会