医学界新聞

 

患者高齢化の中で拡大する看護職の役割

第6回日本腎不全看護学会開催


 さる11月15-16日,第6回日本腎不全看護学会学術集会・総会が,水附裕子会長(横須賀北部共済病院)のもと,神奈川県横浜市のパシフィコ横浜において開催された。今回の学会では,「看護と介護-腎不全領域の特徴」がメインコンセプトに掲げられ,高齢者に焦点をあてた演題を中心に発表が行なわれた。参加者は,学会史上最も多く700名を越え,活気あふれる集会となった。


拡大する看護の役割

 水附氏は会長講演の冒頭で,学術集会のメインコンセプト「看護と介護-腎不全領域の特徴」について述べ,腎不全領域の特徴は,『選択の連続』であることを強調した。
 透析を受ける患者は,常に選択を迫られている。透析導入の選択,治療法の選択,そして治療をいつまで行なうのかという選択。特に高齢者では,短期間でさまざまな選択を必要とする場面が多く,理解力の低下や介護者の事情などから自分自身で選択することが難しいことが多い。しかし最終的な選択をするのは,家族でも医療者でもなく,患者本人である。透析にかかわる看護師には,患者の思いを尊重し患者自身の意思を発信させる役割が求められている。その役割を担うためには,介護領域を含めた知識と技術,介護職との連携が不可欠であり,患者の高齢化によって看護の役割は拡大しつつあるといえる。水附氏は,本学会のコンセプトの概要をこのように解説した。
 一般演題でも,「患者理解と看護介入」「教育指導」「家族」「治療の選択と継続」など,看護の役割の拡大に伴い,さらに重要になると思われるテーマが取り上げられ,演者の臨床経験がベースとなった研究や報告がなされた。
 「安全対策」をテーマとした一般演題では,インシデントを減少するために病棟で行なっている取り組みとその成果について具体的な報告がされた。そのなかで,日本腎不全看護学会がリスクマネジメント委員会を組織して調査に取り組んだ「透析看護必要度と適正人員配置の検討」の発表がされた。透析関連のインシデントには,多忙な看護業務が原因と思われるケースが多い。そのため透析患者数に対するスタッフ数と実施されている看護ケア(看護必要度)を測定し,適正な人員配置の指標とすることを目的に調査が行なわれた。調査の結果,患者対スタッフの数は施設によって大きな差があることから指標を明確にするまでには至らなかったが,スタッフ数と看護必要度との関連性が認められた。今後,各施設の形態・機能や対象患者の状態などを考慮し,適正な人員配置の目安や基準を明確にすることが,インシデント防止に役立つものと期待される。

高齢者ケアの課題

 野口美和子氏(自治医大)の教育講演「老年看護-老人のセルフケア」では,高齢者のセルフケアとそれを支援する看護のあり方について,透析だけにとどまらない広い視点からの考察がなされた。野口氏は講演のなかで,高齢者ケアの課題として,「CNS(専門看護師)」「研究」「政策」を3つの柱と位置づけた。その上で,今後目指すべき方向を示すキーワードとして,「CNS」には,「看護職の役割の拡大とコンサルテーション」を,「研究」には「支援技術の開発とIT化・在宅化」を,「政策」には「高齢者ケア機関の整備と家族・介護職との連携」をあげた。
 講演後の質疑応答では,学会に参加していた透析患者から「これからは,患者も(透析について)学ばなければならない。そのためには,医療者が学ぶ場に患者にも入る余地を与えてほしい」旨の発言がされた。これに対して野口氏は「看護師も患者から学ばなければならない」と呼びかけ,会場からは拍手が起こった。
 「高齢者の透析-安全・安楽をめざして」をテーマとしたワークショップでは,高齢者ケアの課題について5名のパネリストが発表を行なった。
 内田明子氏(千葉社会保険介護老人保健施設サンビューちば)からは,透析患者の介護保険の利用状況や問題点について具体的な報告がなされた。続いて石崎友里子氏(桃仁会病院)は,透析患者の介護施設入所に伴う問題,千葉志津子氏(名古屋記念財団鳴海クリニック)からは,通院施設における患者の送迎の問題などが提起された。さらに,八尋恵子氏(福岡赤十字病院)は,高齢者の在宅療養を可能にする腹膜透析導入について述べ,教育や在宅サポートの必要性を訴えた。最後に,富樫たつ子氏(眞仁会三浦シーサイドクリニック)が「家族ケア」をテーマに,高齢透析患者を支える介護者の適切な休養の確保や健康管理を含んだケアの必要性と,そのために必要な介護職との連携について述べた。
 質疑応答では,介護保険利用に関するさまざまな質問や臨床における問題点の提起がされ,「看護職と介護職の連携」を中心に討議がなされた。看護師が介護保険や社会資源についての知識を習得し介護職との連携を図ることが,今後の課題といえるだろう。

「日本透析療法指導看護師」誕生に向けて

 2004年1月には,日本腎不全看護学会・日本透析医学会・日本腎臓学会認定による「日本透析療法指導看護師」の認定試験が実施される。今後は,透析看護の専門性の確立と他職種との連携体制の充実,そして看護ケアの質向上に向け,日本腎不全看護学会のさらなる活動が期待される。