医学界新聞

 

【特別寄稿】第1回研修医マッチング参加者たちが綴る

研修医マッチングの実際(前編)


■鈴木春雄さん(仮名)
(国立A大6年,某市中病院にマッチ)

 マッチング向けの準備は特にしなかった。ただし,結果をみると,周到な準備を行なっていた者のほうが,有名病院にマッチしているという傾向はある。具体的には,過去問対策・推薦状の準備・長い期間の病院実習などである。
 私は5か所の病院を見学した。情報は,友人や実習先で出会った学生を通してと,「医学の歩き方」などのHPで入手した。HPでは,限られた感想を多くの学生が見ているという状況で,実習先でも同じ情報源からの噂をほとんどの学生が持っていた。一部の感想と実態は必ずしも一致しないと頭では理解していたが,情報と時間が限られた中で,多分にそれらに影響されたことは否めない。
 5か所の試験を受け,4か所を順位表に載せた。大学病院離れは極端に進んだが,関連病院に流れただけの傾向が強い。現時点では,多くの者が2年後に大学に戻ると言う。自分にあった特色ある病院を選ぶ者もいるが,病院の知名度に左右されている割合は大きい。マッチングにより,病院のランキング化が加速する可能性もあると思われる。

少なくない問題点
長い目でみれば望ましい制度

 運良く第1希望でマッチした。厚生労働省の準備不足は,皆が認めるところだろう。病院と医学生の騙し合いの要素もあった。複数の病院に第1希望と伝える学生や,病院側から内定を出されながら,落とされた者もいた。試験時や後に,志望順位の確認とそれによる順位変更を伝えてくる病院も少なくなかった。関連病院で特定大学の学生枠があり,大学内調整でマッチング前に事実上,研修病院が決定している者もいた。逆に,調整がなかったがために,関連の学生を優先し過ぎて,予定枠以上が関連大学の学生で埋まった病院もあった。いずれも,本来のマッチングの趣旨に反していると思われるが,今後どうなっていくのであろうか。
 否定的なことを多く述べたが,長い目で見れば,望ましい制度になる可能性はある。マッチングを意識した下級生の勉強量はかなり増えているようである。集団として見た平均の学力は上がっている。自由な時間が減っているのは気の毒に思うが,その内容が無駄なマッチング対策に終始することなく,意味ある勉強となることを期待する。


■杉山由香さん(仮名)
(私立B大6年,某大学病院にマッチ)

(1)準備をいつごろからはじめたか?
 マッチングの話をうわさで聞いてから慌てて(3月頃)。決定から実施までの関係省庁,マッチング協議会の強引さにはっきり言って腹が立ったと同時に,言いなりにならざるを得ない自分たちの無力さを感じた。
(2)いくつの研修病院を見学したか?
 3つくらい(各1日)。
(3)情報収集はどう行なったか?
 最終的には,結局自分で見学に行き,雰囲気を感じるしかなかった。最初の頃は,HP上で閲覧できた「臨床研修ガイドブック」も研修病院が全部掲載されているわけでもなく,内容も薄く,情報も遅く,混んでいてアクセスがなかなかできなかったりと,十分使えるものではなかった。自分で個別の病院のHPに行き検索する,直接電話をかける,メールを書いて問い合わせるなど直接コンタクトを取らないと正確な情報(試験日時,内容など)は手に入らなかった。
 研修医の生活に関しては研修医に聞くのが一番(上の先生がいないところでコッソリ聞くと実情を聞けるかも),でも最後には「俺たちはマッチングなんてなかったからなぁ~,今年のことはわからないよ。大変だねぇ,巻き込まれて」とよく言われた。
(4)いくつの研修病院の採用試験に応募し,マッチングの順位表にはいくつの病院名を載せたか?
 5つ(大学病院4つ,市中病院1つ)
(5)母校の友人たちの状況
 多くは自校の大学病院へ。自校の大学しか受けない学生も多かった。自分の大学にunmatchになった学生もおり,彼らはただいま就職活動中。
(6)第何希望でマッチしたか?
 第2志望にマッチ。第1志望は都内の私立大学病院だったが,マッチしなかった(しかし,その病院には欠員が出ていた。自校生を守るためか,定員分しか順位をつけなかったのかわからないが,どういうからくりになっているのだろうか? 私も知りたい)。
(7)マッチングをふりかえってどう思うか?
 何のために行なわれたのか,理解できない。統一の試験が課されたわけでもなく,マッチング協議会が何のために間に入ったのか意義が不明。受験する学生側にとっては,選択の範囲を狭くされた感を拭えない。有名市中病院は,記念受験も含めいたずらに倍率が上がった感がある。
 マッチ率の高さから,冷静に将来の志望を見据えて大学・市中病院を吟味した学生も多かったように思う。その一方で単に有名な市中病院を受けまくる就職活動と偏差値競争を勘違いした6年生も少なからず存在したし,マッチングのシステム自体『競争』や『落とされる』『行き先がなくなる』といった恐怖感をあおっただけのように思う。
 例年の採用と何が違うのか,本当に混ざっているのか,果たしてメリットとデメリットは例年の採用試験と比較しどちらがよいものと言えるのか,非常に疑問を感じざるを得なかった。
 天下り先としてのマッチング協議会なら,それに使う税金を研修医の給料UPにぜひまわしていただきたい。
(8)後輩たちへのアドバイス
 面倒見のいい先輩と知り合いになっておく。信頼できる人脈を広げておく。狭い世界であることを認識しておくこと。結局は学力・コネがある人が勝つように思うが,本当に行きたかったら,臆せずに熱意を持って効果的な場所(採用担当責任者の先生がいる科へ実習に行くなど)へ接触をとること。
 私個人の意見としては,名の売れている有名市中病院が必ずしもよいとは思わない。1回でFull matchしている大学病院は,自校の学生が「ここに残りたい!」と思えるようなよい研修をやっているとも言える。そのような病院では,自校の学生すら合格することができなかった大学もあると聞いている。
 自分にとって何が本当に必要なのか,本当によいとは何なのか,自分の目で確かめてほしい。何のためか,わけもわからずに状況が厳しくなっているように思いますが,皆さんの健闘を祈っております。


■山本香織さん(仮名)
(国立C大6年,某市中病院にマッチ)

(1)準備をいつごろからはじめたか?
 私がマッチング対策として病院見学などはじめたのは5年生の冬休みからでした。周りに比べると遅いほうだったと思います。
(2)いくつの研修病院を見学したか?
 最終的に,大学の実習を兼ねて行ったところ以外では5病院です。
(3)情報収集はどう行なったか?
 各病院の情報はHPから,他は「KOKUTAI」などの雑誌,友達からが多かったです。「医学界新聞」で知った北海道合同カンファレンスや,千葉県の合同の研修説明会にも参加しました。
 でも結局は,自分で実際に実習に行ってみて得た情報が,一番正しいと思います。
(4)いくつの研修病院の採用試験に応募し,マッチングの順位表にはいくつの病院名を載せたか?
 試験を受けた病院は,大学も含めて全部で5病院です(見学に行っても受験しなかった病院もあります)。大学病院が2コースあったので,6位まで順位を書きました。
(5)母校の友人たちの状況
 かなり多くの人が大学病院以外に決まっているように思います。東京の有名病院や,大学のクリニカル・クラークシップ(3週間)で行った病院に決まった人も多くいます。
(6)第何希望でマッチしたか?
 第1希望の病院に決まりました。
(7)マッチングをふりかえってどう思うか?
 正直,これまでの年と比べて夏休みなど実習や面接で忙しく,面倒だと思うことも多かったですが,結果的には自分の将来を真剣に考えることができ,充実していたと言えないこともないかもしれません。ただ,私は第1希望の病院に決まったのでよかったですが,仕方ないこととはいえ希望通りにいかなかった人をみると,マッチングの難しさを痛感します。
(8)来年以降マッチングへ臨む後輩たちへのアドバイス
 なるべく早い時期から多くの病院実習を行なう,というのがやはりベストだと思います。その上で,自分が何科に進みたいかはもちろん,どんな医者になりたいか,どんな研修を受けたいかについて,できるだけ具体的なヴィジョンをたて,それに合った病院を探すことができれば,マッチングの対策としては十分ではないでしょうか。


■川島順二さん(仮名)
(国立D大6年,某大学病院にマッチ)

 今回のマッチングに対する対応は,国の公式の進行の遅さに待ちきれず,見切り発車して行なったと言わざるを得ない。僕は5年の11月に学生委員長になり,学部の教授方と学生の間に立って情報収集をするのと平行し,大学病院のよりよい研修プログラム作成を協力して行なってきた。当大学の情報収集・対応は,早かった。春休み前の2月には学生説明会を開催し,それまでに判明した事柄を全同級生に話した。当大学生の準備はそこからはじまった。
 大学病院のプログラムはほぼ完成していたのでなお改良を続けていくだけだったが,大多数の病院は見学・実習受け入れ体制がほとんど整っておらず,現実は春過ぎからであった。4月には学生の企画によるシンポジウムを行ない,新制度を深く掘り下げ,新たな情報公開や病院の対応,方針等を知っていただいた。
 僕自身は大学病院が第1志望であったので,大学以外の病院見学は1か所のみだった。情報は大学や同級生,インターネットから収集した。病院の情報がわかり出したのは,梅雨の頃であった。それから見学や応募である。最終的に僕は3病院に応募し2病院を順位表にのせたが,同級生の中には1病院だけの者もいれば,6-7病院にも上る者もいた。そういう人は,大学の実習を休んだ場合が多い。そうせざるを得なかったからだ。

振り回されたこの1年
後輩諸君は早めの準備を

 当初の予定から大幅に遅れた11月,マッチング結果が出た。僕は第1希望にマッチし,大変満足している。しかしこれまでをふりかえってみれば,大変振り回された1年であったと思う。目前に迫る自分の将来像がほとんど見えて来ない状況で6年になり,不安の大きい中で勉強をし,就職活動もしなくてはならなかった。4年制大学の学生は,4年になる時には多くの人が内定をもらうと聞く。だが11月にやっと病院先が決定するというのは,限界の時期であるし,アンマッチになった当大学生もいる。いまだに給料の問題は解決していない。新制度の1期生であることは嬉しいが,実験的な要素は否めない。期待よりも不安と苦労が大きかった,忘れられない年であろう。後輩諸君,君たちのマッチングはもうはじまっている。国家試験の前倒しもあり,6年次の年間日程が更に厳しくなるだろう。ぜひとも早い時期から準備を行ない,余裕をもって自分の将来を探し,決めていってほしいものだ。